【第五話】房総からの帰路と、再会の予感
房総の風は、午後になってもどこか柔らかかった。
木更津の「道の駅うまくたの里」を出た。Z900のスロットルをゆっくりと開ける。
「さて……帰るか」
しかし、名残惜しさがほんのりと心に残る。
海の香り、潮風キャンプ場の火の匂い、そして──あのSR400のエンジン音。
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◆ 休憩所の静かな偶然
君津の小さな道の駅で、遅めのコーヒーブレイクを取る。
ベンチに腰かけていると、隣に座った初老の男性がポツリと話しかけてきた。
「さっきのバイク、カワサキかい?」
「ええ、Z900です」
話はバイク談義から、ツーリング中のトラブル話へ。
この男性、40年以上前にW1で北海道一周をしていたらしく、笑えるような、笑えないような逸話を次々と話してくれた。
「旅の終わりって、いつも少しだけ切ない。でも、次の出発点でもある」
男の一言が妙に心に残った。
軽く会釈し、ヘルメットをかぶった。
「また、いつかどこかで」とだけ言い残して、エンジンをかける。
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◆ 最後の晩餐ならぬ、最後の一杯
千葉北西部から東京湾アクアラインへ抜けることもできたが、あえて下道でゆっくりと走るルートを選んだ。
「旅の余韻を、もう少しだけ」
そしてたどり着いたのは、埼玉・川越にある「つけめん頑者 本店」。
行列覚悟の名店である。
「ここまで来たら、締めはラーメンだろ」
つけ麺をすする湯気の向こうで、どこかで見たようなバイクが視界に入る。
──SR400。
いや、まさか。と思いながら外に出ると、そこには見覚えのあるライディングジャケットの背中。
「……佐倉さん?」
葵が振り向いた。
「やっぱり!いたんですね、ここで」
「え、まさか君も頑者に? どうしたのさ」
「実家に帰ったあと、兄とちょっと口喧嘩して、急に一人で走りたくなっちゃって……気づいたらココに」
まるで小説みたいな偶然。
でも、きっとバイク乗りには、そういう不思議がよくある。
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◆ 別れ際、次の約束
夕焼けの空の下、駅前の駐輪場で二人のバイクが並んだ。
「今度は……」と葵が言う。
「ちゃんと計画して、一緒に走りましょうよ」
「そうだな、今度は“最初から”一緒ってのも、悪くない」
Z900とSR400が並んでエンジンをかける。
方向は違う。でも、エンジンの鼓動が、不思議と同じリズムに聞こえた。
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- そして、旅は続く -
夜。自宅のガレージでZ900を拭きながら、主人公はふと手を止める。
バックパックのポケットに、小さな折りたたまれた紙があった。
木更津の道の駅で、葵が「お礼に」と言って渡していたメモ。
「次は、信州の道で会いましょう」
旅の終わりにして、旅の始まり。
バイクと共に走る限り、再会の予感は、いつだってエンジン音に紛れてやってくる。
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