山梨編 第一話「夜勤明け出発編」
夜勤明けは、いつもより体が重い。
その日も例外ではなく、どこか体の芯がジワジワと疲れている。
けれど、今日は違った。頭の中に一つの欲望が渦を巻いている。
——富士山を見ながら、酒を呑みたい。
それが全ての始まりだった。
シャワーを浴びて眠気をごまかしながら、愛車のZ900に道具を積み込んでいく。
テント、シュラフ、焚き火台、椅子、クッカー、酒……いや、酒は現地調達だ。
荷台にぎっしりと詰め込まれた装備を見ていると、まるで戦に赴くような高揚感が湧いてくる。
時計を見ると、午前0時過ぎ。
この時間なら渋滞も無く走りやすい。目指すは山梨、富士五湖のどこかで一泊する予定だ。
走行ルートは「秩父越え」。夜中の峠越えは少し不安もあるが、他のルートより景色が良くて楽しい。
バイクに跨り、インカムで音楽を再生。
流れてきたのは、なぜか80年代のシティポップ。深夜のバイク旅には妙に合う。
気づけばひとりで熱唱していた。
「街の灯りが〜 とてもきれいね〜〜秩父〜〜〜」
道端の狸もドン引きだったに違いない。
今回、読んでいただきありがとうございます。「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、評価をよろしくお願いします!