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ソロキャンライダー放浪記  作者: たけるん
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第三話】木曽の山間に響くエンジン音、そして出会い

標高の高い木崎湖キャンプ場を出発したのは午前8時前。

山々の稜線が朝日に照らされ、秋色をじわりと纏い始めていた。エンジンの振動が心地よく、空気の冷たさもむしろ爽快に感じる。今日は良い旅になりそうだ、そう思えた。


向かうのは、木曽谷。

アルプスの東側を南北に貫く、歴史と静けさのルート。



---


◆ 赤沢自然休養林への寄り道


まずは軽く南下して「赤沢自然休養林」に立ち寄った。

ここは天然のヒノキ林が広がる、森林浴の聖地。


バイクを停めて少し散歩。

渓流のせせらぎ、木漏れ日、木の香り。

…嗚呼、五感が洗われる。


ベンチに座って缶コーヒーを飲むだけで、都会で詰まった何かが流れていくようだった。

ちょっとした寄り道だったが、来て良かったと心から思える場所だった。



---


◆ 木曽谷の旧道で事件は起きた


再び走り出す。

国道から外れて旧道に入る。山深く、車の通りも少ない。

そしてその“静かすぎる”山道で、事件は起きた。


急な下り坂、路肩に何かいる。

青いジャケット、バイクのシルエット。

近づくと、小柄な若い男性がバイクを前にうずくまっていた。


「大丈夫ですか?」


声をかけると、彼は振り向いて弱々しく笑った。


「チェーン外れました……工具、持ってなくて……」



---


◆ 見知らぬ誰かの、旅の途中


聞けば彼の名は「ミナト」。20代後半。

ホンダの古いVTR250で神奈川からソロキャンプに出てきたらしい。

木曽谷は途中ルートで、次は馬籠宿まごめじゅく方面へ向かう予定だったとか。


俺はいつも持っている工具ケースを取り出して、チェーンを戻し、張り具合を調整する。

幸い、スプロケットの歯も問題なかった。しばらくエンジンを回して確認。…大丈夫そうだ。


「本当に助かりました。マジでJAF呼ぶしかないと思ってました」


「いや、俺も昔、赤城でセル死んで押してたら助けられたことあるから」


そう言って笑い合った時、旅の不思議な連鎖を感じた。



---


◆ 林道キャンプと夜の語らい


その後、道中が同じ方向だったこともあって「いなかの風キャンプ場」へ一緒に向かうことになった。


到着してからは、それぞれ設営。


アルプスを望む長野県伊那谷の美しい田園地帯に位置するこのキャンプ場は、都会の喧騒を離れ、日本の原風景ともいえる農村の風景が感じられる。


俺は今日、ちょっと凝った夕食を作るつもりだった。

昨日の夜景とアヒージョが忘れられなかったので、

今日は「きのこたっぷりスパイスカレー」と「炙りチーズナン」に挑戦する。


設営が終わり、ひと息ついた夕方のキャンプサイト。

山間のキャンプ場はすでに冷たい風が吹き始めていて、体の芯から温まるようなものを食べたい気分だった。


途中で寄った「道の駅 木曽ならかわ」で仕入れておいた“信州きのこセット(しいたけ・しめじ・まいたけ)”と、小袋のスパイスミックス(クミン、ターメリック、コリアンダー)を取り出す。


■ 焚き火とスキレットで作る本格キャンプカレー


スキレットにオリーブオイルとニンニク、少量の鷹の爪を入れ、弱火で香りを出してから、刻んだ玉ねぎを炒める。

焦がさないようにじっくり炒め、きのこ類を投入。


ジュワッという音とともに、山の中にきのこの香りが漂いはじめた。


スパイスミックスを投入し、トマト缶と水を加えてコトコトと煮込む。

味付けはシンプルに塩と胡椒、隠し味に少量の味噌を入れるのが俺流。


“山のカレー”には肉は入れない。

代わりに、うま味の塊であるきのこをふんだんに使う。それがこの旅の贅沢だった。



---


■ 炙りチーズナンはフライパンで焼くだけの手抜き絶品


ナンは市販のプレーンタイプ。

スキレットの隅で軽く炙り、表面がカリッとしてきたところで、

モッツァレラチーズととろけるスライスチーズをのせて溶かす。


炙った香ばしさとチーズのコクが、スパイスカレーと最高に合う。



---


■ 味と、空気と、夜景と──それがキャンプ飯


カレーを一口、ナンをちぎってまた一口。

焚き火に照らされたスキレットの縁がほのかに赤く光っていた。


「これは、店じゃ食えない味だな」


そうつぶやくと、ミナトが遠慮がちに声をかけた。


「…それ、一口、もらっても?」


もちろん、とスプーンを差し出すと、彼は目を見開いた。


「うまっ……。え、なにこれ普通に売れるやつじゃないですか?」


「おだてんな。調子乗るから」


笑いながら、ふたりで静かな山の夜を噛みしめるように過ごした。


虫の声。焚き火のはぜる音。

そして、たしかに“心に残る味”──


当然、酒も進む。

話題は旅の話、バイクの話、人生のこと。…なんてことはないけど、旅先で話すとやけに沁みる。



---


◆ 星降る夜と焚き火の灯り


夜が深くなるにつれ、気温もぐっと下がる。

だが、焚き火の炎とアルコールで心地よい。


「俺、帰ったらバイクの整備ちゃんとやりますわ……たぶん」


そう言うミナトの横顔に、昨日の陽平の姿が重なった。

旅というのは、本当に一期一会の連続だ。


明日は分かれ道。

俺はさらに南下して恵那峡えなきょうを目指す。ミナトは東へ抜けて帰路につくと言う。


再び、握手。


「ありがとうございました。…この旅、忘れません」


「俺も、バイクは人と出会わせてくれるよな」


焚き火が小さくはぜた。



今回、読んでいただきありがとうございます。「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、評価をよろしくお願いします!



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