第八話:佐野ラーメン「おぐら屋」と、旅の終着点へ
宇都宮から南下するルートは、地味に車が多くて神経を使う。
だが、佐野に近づくにつれ、風が少し涼しくなり、陽も西へと傾きはじめていた。
日が斜めに射し込む、夏の夕刻特有の哀愁。旅の終わりが見えてきたようで、
Z900のハンドルを握る手に、少しだけ名残惜しさが混じる。
(このままどこか遠くへ行きたくなる気持ちもあるけど、明日からはまた日常か……)
それでも、最後の目的地がある。
旅の締めは「佐野ラーメン」。
そして店は――「おぐら屋」。
あの澄んだスープと、手打ちの青竹平打ち麺が、旅のフィナーレにはふさわしい。
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◆佐野市到着。人気店の“戦場”へ
午後4時半、「おぐら屋」の駐車場に入ると、すでに車がびっしり。
平日とは思えない混雑ぶりだ。
バイクは店舗の脇のスペースに停めると、
入り口には老若男女の順番待ちが5〜6組。さすが人気店。
(ここもか……今日はほんと“名店三昧”の行列旅だな)
バイクのメットを外し、順番待ちの紙に名前を書く。
順番を待つ間、店の裏手に流れる小川のせせらぎを聞きながら、Z900を軽く拭う。
ツーリングの終わりに近づいているせいか、バイクに対して妙に愛着が湧いていた。
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◆いざ、旅のラストスープへ
20分ほどして名前が呼ばれ、店内へ。
エアコンの冷風と一緒に、スープと麺の香りが鼻をくすぐる。
もうそれだけで「勝ち確」の気分。
頼むのはもちろん、ラーメン(並)+チャーシュー。
一応、餃子も追加しようかと思ったが、胃袋と相談してやめた。
注文から5分――
白い丼に透き通る金色のスープ、平たいちぢれ麺、薄切りチャーシュー。
余計な演出はない。ただただ、美味いものがあるという顔をしている。
「……これだよ、これが“締め”だ」
ひと口啜れば、あっさりしてるのに旨味がじんわり広がる。
昼の餃子のパンチとはまた違う、穏やかな滋味深さ。
柔らかくて脂っぽくないチャーシューがまた絶妙で、
口の中でほろっと崩れ、スープと融合する。
噛めば噛むほど、旅の記憶と一緒に味わいが染み込んでくるようだ。
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◆佐野の空に溶けるエンディング
店を出たときには、空が橙から紫に移ろいかけていた。
駐車場に戻って、Z900のシートに腰かけ、ペットボトルのお茶をひと口。
(……なんか、やりきったな)
日焼けした腕、排気音が残る耳、
バイクのミラーに映る、自分の少し煤けた笑顔。
この旅で何かが変わったわけではない。
だが、何かが少しだけ“軽く”なった気がする。
仕事でも家庭でも、目の前にある日常の重みが、ほんの少し緩んだような気がした。
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◆帰路、そしてエピローグへ
その後、下道を通って伊勢崎の自宅へ。
夜の国道はトラックも多かったが、ラーメンの余韻で機嫌はよかった。
自宅に着いたのは午後9時すぎ。
エンジンを切り、玄関の前でヘルメットを脱ぐ。
「……ただいま」
旅は終わった。
でもまた、バイクはガレージで次の旅を待っている。




