第七話:宇都宮餃子「幸楽」と、ビールの誘惑
那須の高原を抜けて南下する国道4号線。
空は高く、陽はまっすぐに射し込み、Z900のタンクが太陽を映してキラリと光る。
(腹は空いてる、喉も渇いてる……だが、まだ我慢だ)
そう心に言い聞かせながら、バイクを走らせていた。
目的は、宇都宮餃子の老舗「幸楽」。
あの昭和の風情が残る、昔ながらの佇まい。ニラたっぷりの焼き餃子、皮のモチモチ感がたまらない水餃子……。
何より、あの店内の昭和臭が“たまらない”。
「……飲みてぇなぁ。ビール……」
だが、ここで飲んだらすべてが終わる。Z900は黙っていてくれない。
下戸のようにペットボトルのお茶で我慢するしかない。
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◆餃子専門店「幸楽」へ
正午すぎ。ピークの店先には、数人の列ができていた。
炎天下の中、ヘルメットを抱えて並ぶ。
店先の看板が日差しで色褪せていて、それすら風情に思えるほど餃子欲が高まっていた。
「お一人様どうぞー!」
奥のカウンター席へ通される。
エアコンの風が汗ばんだ背中に気持ちいい。冷房が聖水に思える瞬間だ。
「焼き餃子と水餃子、ひとつずつお願いします。あ、お茶も」
注文すると、目の前の厨房でジュウジュウと餃子が焼かれていく。
煙の向こうで、白い割烹着の店主が餃子をひっくり返すたび、香ばしい匂いが鼻をくすぐる。
(あー……これビール飲んだら世界終わるやつだ)
まるで悪魔のように、餃子の香りがビールの幻覚を見せてくる。
キンキンに冷えたグラス、薄い泡の層、喉に流し込むあの爽快感――。
しかし、ここで飲んだら、自宅まで200キロ以上残った道のりが「飲酒運転」という大罪に変わってしまう。
「はい、お待ちどうさま」
焼き目が美しい焼き餃子が目の前に着地した。
続いて、水餃子も。スープの中でふわりと浮かんでいる。
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◆餃子と耐える美学
「……いただきます」
焼き餃子の一つを箸でつかみ、酢醤油に潜らせる。
皮のパリパリ、香ばしい焦げ目、肉汁とニラのパンチ。
(ヤバい、ビールがいる。これにはビールが絶対にいる……)
次に水餃子。スープの優しい味わいに、ぷるんとした皮の歯ごたえ。
中の餡はじゅわっと旨味が溢れ出る。
「これも、ビールだろ……」
本気で、店内のビールメニューから目をそらしていた。
隣の老夫婦がビールを傾けて笑っている。
その泡を見て、脳が爆発しかけた。
「うおおおお……!」
心の中で叫びながら、餃子を完食。
それでも、バイク乗りの誇りと理性を失うことはなかった。
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◆腹を満たしたら、次は「佐野」だ
宇都宮を出る頃には、すでに午後3時近くになっていた。
胃袋は満たされたが、口の中にはまだ餃子の残り香が漂っていた。
(次は佐野ラーメン……今日は炭水化物フルコースだな)
バイクのエンジンをかけると、餃子臭さも風に消えていった。
そして向かうのは、佐野ラーメンの名店「おぐら屋」――。
胃袋にまだ隙間はある。
それに、あのスープなら、また別腹で受け止めてくれるはずだ。
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