第2話:ピルツ5と星空の酒宴
秋山浜キャンプ場──猪苗代湖畔の無料キャンプ場。トイレはきれい、水場もある。景色は文句なし。
「よし、張るか……!」
今日の俺の相棒は、Ogawaのピルツ5。
すでに廃盤、手放す理由が見つからない名テントだ。ワンポールで設営も楽勝……のはずだった。
だが、この日は違った。
風が、強い。
いや、強すぎる。猪苗代湖から吹き下ろす風が容赦なくキャンプ場を横断している。
ペグを打っても、ポールを立てようとした瞬間──
バサァァッ!
「うおぉっ!?」
テントが風に舞い上がる。ポールが空を切り、俺の腕をかすめて地面に突き刺さる。
慌てて抑えるが、テントがまるで生き物のように暴れる。
通りかかったキャンパーが笑いながら言う。
「風強いっすねぇ~!」
「いや、笑ってないで手伝ってくれや!」
心の中で叫びつつ、地面に這いつくばって格闘。ようやく、どうにかこうにか設営完了。
ピルツ5がドッシリと風に耐えて立っている様子に、ちょっとだけ感動すら覚える。
「……勝ったな」
そう呟いて、クーラーボックスから缶ビールを取り出す。
プシュッ。
「ッハー……うめぇ……!」
湖畔に沈む夕日、目の前に広がる磐梯山。
ローチェアに腰を沈め、風に吹かれながらの一杯は、何にも代えがたい。
ツマミ?景色だ。磐梯山と猪苗代湖が完全にアテになる。
気づけば小一時間、缶を片手に半目でうとうとしていた。
ふと目を覚ますと、もう夕暮れどき。
「ヤバい、飯の支度してねぇ!」
慌ててクッカーとシングルバーナーを取り出し、ひとり焼肉スタート。
牛カルビ、豚トロ、そして忘れちゃいけないのが──
馬刺し。
途中で寄った“扇や精肉店”で買っておいた上物だ。
ロースの刺身に塩とニンニク、ごま油をたらし──
「うっま……!」
思わず声が漏れる。
ここまでの苦行ツーリングがすべて許されるほどの、極上の味。
そして酒は、ビールから日本酒へ。
チョイスはもちろん会津の銘酒・弥右衛門。
「こっちは……ヤバいな……」
すでに酔ってるのに、口当たりが良すぎて止まらない。辛口なのにスッと入ってくる。
さっきの風の苦労も、今日のガソリン代も、もうどうでもよくなってくる。
焼肉を貪りながら、星空を見上げる。
「……あれ?なんか……星、増えてね?」
多分気のせいだ。でもそれくらい、満天の星空だった。
街灯ひとつない空には、プラネタリウムのような星たち。
流れ星を3つくらい見た気がするが、すでに記憶はおぼろげ。
気がつけばテントの中だった。
グラウンドシートの上、シュラフにくるまって熟睡モード。
でも……尿意で目が覚める。
深夜1時、外に出る。
吐く息は白く、酒がまだ抜けてない身体に冷気が突き刺さる。
だが。
「……すげぇ……」
空を見上げて、ただ立ち尽くす。
星が、降ってくるようだった。
泥酔でも、これだけははっきり覚えてる。
あの星空だけは。
もう一度トイレを済ませて、テントに戻る。
すぐに意識が暗転──
次回、**第3話「二日酔いと蕎麦といろは坂」**へ続く!
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