フィクション 妙高高原編 第七話「塩風とナビと、謎の焚き火人」
関温泉をあとにした俺は、ひたすら西へと走っていた。
道は狭く、山の残雪と杉の花粉が入り交じった空気が鼻を突く。春の妙高、やっぱり寒い。
けれど、エンジン音と共に徐々に標高が下がり、空気が少しずつ柔らかくなっていくのを感じた。
スマホのナビは日本海を目指している。
今日の目的地は、糸魚川の「能生海岸キャンプ場」だ。
海沿いで無料、そして漁港も近くにある。
つまり――「酒と魚」が約束されている。
「よし、今夜は豪遊だ」
意気揚々と走るZ900。
しかしナビは突然、右に逸れた林道を示してきた。
「いや、それ山やんけ……」
選択を誤った。地元の人しか使わないような農道に入り、道は徐々に細く、荒れていく。
舗装がところどころ割れていて、ガードレールもない。道の先に野生動物が逃げる姿すら見えた。
「こわっ……」
結局、元の国道に戻るのに30分を要し、海に出た頃には日が傾き始めていた。
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能生海岸キャンプ場に到着したのは、17時すぎ。
砂浜から少し上がった丘に、松林が点在するシンプルなフリーサイト。
数台の車と、一つの焚き火が見えた。
風は強く、海の潮の匂いが鼻をくすぐる。
テントを張ろうとすると、隣の焚き火の男が声をかけてきた。
「バイクで来たの? ここ、夜になるとめちゃくちゃ風出るよ」
見ると、でかいゴロー系ブーツにボロいパーカー、髭もじゃの三十代くらいの男だった。
「まじっすか……」
「俺、地元なんだわ。海のそばは春先の夜、風でテント飛ぶ。俺も最初やられた」
ありがたいアドバイス。彼の名は「テルさん」と言い、昔は東京にいたが今は糸魚川でフリーの大工をしているらしい。
「腹減ってんだろ? これ、食えよ」
彼が差し出したのは、なんと能生漁港で仕入れたという“紅ズワイガニ”の甲羅焼き。
「え、いいんすか?」
「ついでに飲むか?」
この時点で、すでに最高確定の夜だった。
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二人の宴は、波の音と共に進んだ。
テルさんはとにかく話がうまい。
職人時代の怖い話、DIYで建てた山小屋の話、そして――
「去年の秋、この辺の海岸でUFO見たよ」
「UFO……」
「マジで。漁師のおっちゃんも言ってた。空に三つ光が出て、すーっと消えたんだって」
関温泉の幽霊に続いて、今度はUFO。
旅って、こういう“ネタ持ち”に出会うからやめられない。
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深夜0時。風は確かに強くなってきたが、テルさんの教えに従い、テントを松の風下に設営していたため問題なし。
潮騒に包まれて、俺はすっかりいい気分でテントに潜り込んだ。
それにしても、山の神秘も良いけど、海の懐の深さもまた格別だな。
思えばこの旅、ただのキャンプじゃなく、人との出会いに恵まれてる。
酒と焚き火が、知らない誰かと俺を繋げてくれてる気がする。
テントのフライが揺れた。風の音にまぎれて、どこか遠くで猫の鳴き声がした気がした。
白い影じゃなくて、今度は白い猫か?
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