フィクション 妙高高原編 第四話「峠の春祭りと狐面の老婆」
夜の冷え込みにもなんとか耐え、朝6時。
寝袋から出ると、顔に冷たい空気がぶつかってきた。霜が張ったテントを見て、あらためて「ここはまだ冬か」と呟く。
ソロライダーの青年は、朝食にカップスープを飲んでから「またどこかで!」と元気に出発していった。
俺は焚き火の跡を土で埋め、コーヒーを淹れながらゆっくりと撤収作業。今日は特に目的地は決めていない。だからこそ、いい一日になる予感があった。
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地図を眺めながら、気まぐれにハンドルを切って南へ。
小さな峠道を登ると、山間の村にたどり着いた。車もほとんど通らない、まるで時間が止まったかのような静かな場所。
しかし、村の入り口にはなぜか手書きの立て看板が立っていた。
> 「春の鬼まつり 本日開催」
駐車場はこちら→
「えっ、祭りやってんの? この辺で?」
誘われるようにZ900を停め、村へ歩いてみると――
狭い路地を抜けた先に、小さな広場があり、地元の人たちが手作りの出店を出していた。焼き餅、甘酒、山菜汁。どれも素朴で、湯気があたたかい。
一角には獅子舞の舞台もあり、子どもたちが鬼の面をつけて跳ね回っている。
どうやら「冬の鬼を送り、春の神を迎える」風習がこの村にはあるらしい。
「お兄さんも、いっちょ舞っていくかい?」
赤ら顔の老人に声をかけられ、勢いで甘酒を一杯。ふわっと身体が緩む。
それから気がつくと、狐面を被った老婆が、こちらをじっと見つめていた。
「……旅の人。よい火を抱いておるな。今宵、山を越えてはいけませぬぞ」
突然の謎発言。狐面の下から覗いた老婆の目は妙に澄んでいて、言葉に逆らえない雰囲気があった。
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