フィクション 妙高高原編 第三話「斑尾、雪の壁と薪ストーブ」
関温泉をあとにして山道を走る。春の陽気とは裏腹に、標高が上がるにつれて空気がキュッと冷たくなる。
妙高から斑尾高原へ抜けるルートは、見事に“雪の回廊”だった。除雪された道路の両脇には、まだ1メートル近い雪の壁が残っている。
「嘘だろ、これ春かよ……!」
冗談のような景色だが、これもまた、旅の醍醐味。寒さに耐えつつ走り抜けるZ900。メッシュグローブを選んだ自分の浅はかさを呪う。
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斑尾高原のふもと、小さな集落の先にある古民家風カフェ「火と森」に立ち寄る。
店内は薪ストーブが焚かれており、ガラス越しに見える森の奥では、まだ鹿の足跡が残る。
「暖かっ……天国かよ……」
店主の気さくなおじさんが声をかけてくる。
「バイクかい? 今日なんて、まだ朝マイナス3度だったよ。よく来たね」
「無計画の極みです」
笑い合いながら、チーズトーストと焙煎コーヒーを注文。山小屋風の内装と、ストーブのパチパチという音に心まで解凍される。
そこへ、同じくバイクでやってきたという若いソロライダーが入店。YZF-R25に乗る大学生らしい。話が弾み、コーヒーをもう一杯おかわりしてしまう。
「キャンプしてるんですか? 僕、今夜もどこで泊まるか迷ってて……」
彼の話を聞くうちに、「じゃあ、今夜は一緒に焚き火でもしようか」という流れになる。
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日が傾きはじめた頃、ふたりは斑尾の林間にある「まだらおの森キャンプ場」へ。まだ営業前だが、オーナーのご厚意でプレオープン利用を許可してもらった。
枯れ枝と松ぼっくりで火を起こし、焚き火の前でチタンマグの酒を傾ける。
「いやー……こういう出会い、ソロじゃなきゃ味わえないっすね」
「ほんと、一期一会だよな」
彼は来月、就職で関東を離れるという。その前に“やり残したことを全部やってる”らしい。
「俺もさ、昔そんな旅してたわ。あんまり覚えてないけど」
そう言いながら、炎の向こうに揺れる彼の影を見つめていた。
やがて夜が深まると、あたりは再び氷点下へ。ふたりとも早々に寝袋に潜り込むが、耳には風の音、鼻先には焚き火の残り香――春寒の高原の夜は、静かに続いていた。
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