第1話:深夜出発、苦行の北上
出発は午前2時。
外は暗闇。街灯の下に浮かび上がるのは、俺の愛車・カワサキZ900。エンジンをかけると低く吠えるような音が伊勢崎の住宅街をつんざく。
「静かに走れって言ったって無理だよな…」
心の中で近所に謝りながらクラッチを握る。目指すは福島・猪苗代湖。目的地は秋山浜キャンプ場。目玉は、無料ってとこだ。世の中、タダが一番ありがたい。
だが深夜の下道は、想像以上に過酷だった。
真っ暗。
寒い。
眠い。
そして、景色ゼロ。
「苦行かよ……」
独り言がヘルメットの中で虚しく反響する。
ガソリンスタンドは閉まってるし、深夜営業のコンビニでは妙に陽気なお兄ちゃんがレジ担当だった。
「どこ行くんスか?福島?あ、ヤバくね?熊とか出ますよ?」
「うるせぇ寝かせろ」
とは言えず、乾いた笑顔だけ浮かべる。ツーリングの宿命だ。
なんとか5時間走りきり、7時半ごろ、喜多方の坂内食堂に到着。
「うお、駐車場パンパンやんけ…」
タイミングを見て、うまく空いた隙に滑り込む。
入店。満席ギリギリ。
「肉そば…いや、いやいや支那そばで……」
腹と財布と相談して妥協。スープはあっさり、だが旨味はしっかり。ちぢれ麺が喉越しよくて、チャーシューがまた絶妙に柔らかい。
──だが。
「……肉そばにしとけばよかったかもな」
その後悔をバイクに乗りながら噛みしめる。
腹ごなしがてら、磐梯山ゴールドラインを爆走。
ゴールドライン→レークライン→スカイライン。
まさに三本の剣。景色は最高。噴火口も湖も谷も、見どころだらけ。
「日本にもこんなとこあんのな……」
思わずヘルメットの中で「おおっ」と声が出る。誰も聞いてないのが逆に寂しい。
道の駅ばんだいで缶コーヒーとトイレ休憩。
ここのトイレ、やたら清潔。そして自動販売機の品揃えが妙に良い。
「本気で住める気がする」
腹が減ってきたので会津若松へ。向かうは、伝説の**“ソースカツ丼・いとう”。
……が、まさかの30分待ち**。
「観光地の洗礼、受けましたァ!」
なんてふざけたセリフを誰にも聞かれずに呟く。
待ってる間、地元のじいちゃんと喋る。
「バイクか、ワシも昔はホンダの…」
話が止まらない。ようやく店内へ。頼んだのはもちろん“ソースカツ丼”。
厚い。重い。うまい。
胃袋との戦いを制し、無言で完食。
「もう動けない…けど、動くしかない…」
食材を買うためヨークベニマルへ。
トレーと缶ビールを持っていると、70代くらいのオジサンが話しかけてきた。
「兄ちゃん、どっから来たの?」
「群馬っす」
「お、群馬かー。ワシの妹の旦那が前橋におってな……」
話が終わらねぇ!
10分くらいバイクの横で立ち話をして、最後はなぜか握手して別れた。
そして、目的地秋山浜キャンプ場へ──
……のはずが、道を間違える。
「どこだここ!?Google Mapッ……遅い!再検索!」
猪苗代湖は広い。似たような景色ばっかり。
ぐるぐる回った末に、ようやく見つけた秋山浜。
「もう迷わないぞ…」
次回、**第2話「ピルツ5と星空の酒宴」**へ続く!
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