フィクション 妙高高原編 春寒の妙高放浪記 第二話「霜と湯気と、春の気配」
朝5時過ぎ。鳥の声で目を覚ました。
寒い。テントの内側がうっすら白く曇っている。寝袋から鼻先だけ出すと、ピリッと冷気が刺さる。
「……なんでキャンプ来たんだっけ」
昨夜の自問を再び心の中で反芻しながら、寝袋の中でモゾモゾと着替え。テントの外に出ると、あたり一面、霜で白んでいた。日が差し込むにつれて、それが少しずつ溶けていく。息は白いままだが、確かに春は近づいている気がした。
バーナーで湯を沸かし、インスタントのコーヒーを啜る。妙高山を望むいもり池は鏡のように静かで、朝陽を受けて水面が金色に染まっていた。
「……これはこれで、最高だな」
妙にテンションが上がったので、バーナーの火力全開でベーコンと目玉焼きを焼き、昨夜の残りのおにぎりを炙って朝食にする。こういう雑な食事がキャンプの朝にはちょうどいい。
撤収を済ませたのは8時過ぎ。朝露で濡れたテントをバイクのリアシートに縛り、エンジンをかける。体に響くエグゾースト音が、旅の続きを告げていた。
「さて、温泉だな」
向かったのは「関温泉」。いもり池からバイクで30分ほどの、古い湯治場の趣を残す静かな温泉地だ。
選んだのは、ひなびた一軒宿「中村屋旅館」。日帰り入浴が可能で、濃厚な鉄分を含んだ赤褐色の湯が特徴。
脱衣所で冷えた体を解きほぐすように服を脱ぎ、湯に沈むと――
「ぅあぁああぁ……極楽……」
そのまま、変な声が出た。誰もいなくて良かった。体の芯から暖まり、冷え切っていた足先の感覚が徐々に戻ってくる。妙高の山並みを眺めながら、しばしの湯浴み。
「次は、飯だな」
温泉のすぐそばの「関山そば処」に立ち寄り、十割そばと天ぷら盛り合わせを注文。そばはコシがあり、天ぷらは山菜尽くし。フキノトウの苦みが春の訪れを舌に教えてくれる。
腹が満ち、眠気が再び襲ってきたが、まだ旅は続く。
「せっかくだし、今日は斑尾の方まで足を延ばしてみるか……」
Z900に火を入れ、再び妙高の山の中へ――。
今回、読んでいただきありがとうございます。「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、評価をよろしくお願いします!




