フィクション 妙高高原編 春寒の妙高放浪記 第一話「峠の向こうは、まだ冬だった」
「春だし、そろそろ標高高めのキャンプ場もイケるだろ」
そんな軽いノリで妙高高原方面へソロキャンプツーリングに出発したのが、そもそもの間違いだったのかもしれない。
朝6時、群馬県伊勢崎市の自宅を出発。愛車のZ900にキャンプ道具を積み込み、エンジンをかける。天気は快晴。気温も朝の割には温かい。これは気持ちのいいツーリング日和だ。
だが、長野との県境、碓氷峠を越える頃には空気が変わった。肌に突き刺すような風。標高が上がるにつれ、気温は見る見るうちに下がっていく。
「さ、寒っ……! 春じゃねえのかよ妙高は!」
メッシュジャケットにインナー1枚という舐めた装備をしてきた己を呪いながら、体を小さくしてアクセルを握る。途中の道の駅でホットコーヒーを飲んで体を温め、なんとか耐えながら目的の「いもり池キャンプ場」にたどり着いた。
キャンプ場には誰もいなかった。まさかの貸切状態。しかしその理由はすぐにわかった。地面がまだところどころ霜で白いのだ。地面を触ると、ジンと冷たさが指先に染みる。
「これ、寝袋だけじゃキツいな……」
だが、撤退はしない。ライダーは意地っ張りである。冷えた地面にグランドシートを敷き、黙々と設営。Z900を見守るようにテントが完成すると、思わず「やったぞ」と声が出た。
焚き火がなければ凍えて死ぬと本能が訴えてきたので、針葉樹の薪を割って着火。バーナーで点けた火が、あっという間に勢いを増していく。風が強かったが、風防を駆使してなんとか耐える。
夕飯は、途中で買ってきた長野名物「野沢菜と信州味噌の焼きおにぎり」と、豚汁。コンビニでもうひと品買おうとしたが、寒さのせいか何も浮かばず。
「でも、うまいな……」
冷たい空気の中で食べる温かい汁物。これだけでキャンプの幸福度は爆上がりだ。
夜が来るのが早かった。標高の高さのせいか、18時には真っ暗。そして地獄の寒さが本格的に襲ってきた。バイク用のインナーを着込み、寝袋に湯たんぽ(ペットボトルお湯仕様)を入れて完全防備。それでも鼻の頭が冷えて仕方ない。
「春ってなんだっけ……」
妙高の夜は、まだ冬だった。
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