新潟編 第三話:帰路、そして余韻
午前7時過ぎ。キャンプ場をあとにし、目指すは昨日も立ち寄ったパン屋「ソフィーの森」。朝の光に包まれた静かな通りをZ900で走る。エンジンの鼓動が身体に優しく伝わってくる。
パン屋の前にはすでに車が何台か停まっていた。店内に入ると、焼きたてのパンの香りが鼻腔をくすぐる。ガラスケースの中に並んでいた「パニーニ ベーコン&チーズ」に即決。
店の外のベンチに座って、湯気の立つコーヒーと一緒にかぶりつく。
「ん~……幸せかよ……」
ベーコンの塩気ととろけるチーズが、昨日の酒をやさしく洗い流していく。口の中いっぱいに広がる小麦の甘さに、旅の疲れも吹き飛んだ気がした。
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帰路は、国道を避けてなるべく下道でのんびりと。山間の風景に包まれながら、ふとキャンプ場の焚き火を思い出す。「お父さん」の笑い声、「お母さん」の手料理、「お兄さん」と「お姉さん」の微妙に甘酸っぱい雰囲気。
「……また、あんな夜があるといいな」
途中、山間の直売所で休憩。地元のおばあちゃんが「朝採れたの。安いよ〜」と勧めてくれたプチトマトを買った。シートバッグの隙間に押し込み、再び走り出す。赤城山の稜線が遠くに見えてきたとき、「ああ、もうすぐ群馬だ」と実感する。
バイクに跨っていると、景色の変化や風の匂いで「帰ってきた」と分かるのが好きだ。
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伊勢崎市内に入る頃には、時刻は午後2時を過ぎていた。Z900をガレージに入れ、ヘルメットを脱ぐ。エンジンの熱気がフッと抜けて、静かな午後の空気が身体を包む。
家の扉を開けると、娘が「パパおかえりー!」と飛びついてくる。続けて、奥さんが「お疲れ。無事で何より」と笑顔で出迎えてくれる。これもまた、旅のご褒美だ。
リビングに座って、娘と買ってきたプチトマトを一緒に食べる。甘くて、ちょっと酸っぱくて、でもどこか優しい味がした。
「また行きたいな、キャンプ」
そう言うと、娘が「あたしも行きたいー!」と元気よく返す。次は家族で来るのも、悪くないなと思った。
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夜。久しぶりの風呂にゆっくりと浸かり、ビール片手に撮った写真をスマホで見返す。焚き火、テント、食べ物、笑顔……どれもこれも、昨日の出来事とは思えないほど濃くて、温かい。
湯上がりのソファで目を閉じると、頭の中にあの夜の星空が広がった。誰の名前も覚えてないのに、誰よりも親密だったあの焚き火の輪。
一期一会の旅。
風に吹かれて、走るからこそ出会える景色と人。
また、走り出そう。
風の向くまま、自由なままに。
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