新潟編 第二話:大池いこいの夜宴(やえん)
スーパー「NARUS」の駐車場にZ900を停める。シートバッグを空けて、中の食材や酒が入るスペースを確認しながら、カゴに目をやる。
「……これ、詰めるか?」
買い物カゴにはビール、赤ワイン、地元産の豚肉、ソーセージ、しいたけ、エリンギ、そして特売の焼き鳥セットまで入っていた。やる気満々である。
店を出て、バイクに荷物をくくりつける。雨がすっかり止み、夕陽が斜めに差し込んでくる。ヘルメットを被る瞬間、「旅してるなぁ……」と一人つぶやいた。背中には、酒と肉と希望が詰まっている。
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「大池いこいの森キャンプ場」には17時過ぎに到着。車で来ていた老夫婦が、ちょうど焚き火の準備をしているところだった。
「こんにちは!」と声をかけると、旦那さんがニコッと笑って「いらっしゃい。バイクかい?今日は静かでいい日だよ」と返してくれた。
橋を渡って場内へ進み、釜戸のある炊事場近くにテントを設営。地面は少し湿っていたけど、焚き火台を置くスペースは乾いていた。タープを張るか迷ったが、空が明るかったのでやめた。
バイクから荷物を下ろしながら、ふと、向かいのサイトを見ると、カップルらしき二人がテントと格闘していた。彼氏の方が「それポール逆じゃない?」と焦り気味に言っているのを見て、心の中で「ガンバレ」とエールを送る。
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設営がひと段落したら、いよいよ至福の時間。
チェアに腰かけ、コンロに火をつけて、ウィンナーとキノコをジュウジュウ焼く。火の上で跳ねる肉汁の音にビールを開ける手が止まらない。
「ん~っ……( ゜Д゜)ウマー」
焼きたてのウィンナーを口に入れ、冷たいビールで流し込む。炭火の香ばしさと肉の脂が喉奥を満たし、鼻の奥まで幸福感が駆け抜ける。
パン屋で買っていたクロワッサンとベーコンエピも、ここで登場。ワインと一緒にちびちびやる。なんという贅沢。
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20時過ぎ、「お父さん」から声をかけられた。
「にいちゃん、一緒に飲まんかね?」
「喜んで!」と返すと、「お母さん」も「つまみあるわよ~」と笑ってくれた。
それから少しして「お兄さん」「お姉さん」も加わり、焚き火を囲む輪ができた。赤ワインが回り、地元のチーズと「お母さん」の自家製ピクルスが並び、誰かが流し始めたBluetoothスピーカーからは、昔のフォークソングが流れていた。
最初に挨拶をしたが、酒が回ってからは誰の名前も覚えていない。なのでそれぞれ「お父さん」「お母さん」「お兄さん」「お姉さん」で通すことにした。
お母さんは、時折ちらっと俺を見るたびに「うちの娘ね、まだ独身でねぇ……」と繰り返す。たぶん、5回は言われた。でも妻子持ちなのでスルー。ピクルスだけありがたくいただく。
夜はどんどん更けていく。火は小さくなり、虫の音だけが耳に残る頃、「これ、またやりたいですね」と誰かが言った。そのとき、誰も何も言わなかったけれど、たぶんみんな同じ気持ちだった。
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翌朝、6時起床。頭は少し重いけど、悪くない二日酔い。昨日の焚き火台を片付けていたら、お父さんが「また会おうや」と言ってくれた。
「もちろんです。またここで。」
帰り道、昨日のパン屋に寄って、焼きたてのパニーニを頬張る。温かいベーコンとチーズが、まだ酒の残る胃にやさしい。これだけで今日一日走れそうだ。
そして、群馬へと続く長い道。朝の空気を吸い込みながら、Z900のエンジンを回す。心地よい疲労と、どこか名残惜しい気持ちを抱えて。
一期一会の夜を、胸にしまって走り出す――。
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