山梨編 第七話 馬刺しと赤ワインの夜
焼くものが尽きたので、焚き火の火を少しだけ細くしてテントに戻った。空は夜に沈み、雲がそのまま蓋をしたように広がっている。星も富士山も見えない。けれど、そんな夜だからこそ、酒が沁みる。
シートの上に腰を落ち着けて、次に取り出すのは――馬刺しだ。
買ったのは、山梨ではちょっと名の知れた「大西肉店」のもの。赤身が美しく、脂の少ない引き締まった色合い。冷蔵バッグから取り出したパックを開けると、ツンとした生肉の香りが鼻先をくすぐる。
赤身の塊をフォールディングナイフで薄くスライスしていく。
会津若松のキャンプでも食べたけど、馬刺しは何度食ってもうまい。酒との相性が抜群にいい。
「じゃ、始めますか」
缶ビールから切り替えたのは、山梨産の赤ワイン。ラベルに「フジヤマ・ヴィンヤード」と書かれている。どうやら地元産のブドウを使って作られてるらしい。
コップ? そんな上品なものは無い。
ラッパ飲み。これがキャンプ流のソムリエスタイルだ。
口に含んだ瞬間、果実の香りがふわっと広がって、舌の奥でほどよい渋みが残る。そこに馬刺しを一枚、塩とニンニク、ごま油のタレにちょんと付けてパクリ。
「くうぅ……これは……ッ!」
ひとり唸る。うまい。文句なしにうまい。
肉の歯ごたえ、舌に残る赤ワインの渋み、そして静かな湖畔。全部がバランスよく溶け合って、頭の中が軽くなる。
雨はときおり、テントにトントンと落ちてくる。
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