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【グロ注意】 第0話 未来視と大泥棒

これを未来視だと認識したのは、だいたい小4、5くらいの話だったろうか。明日のテストの問題が分かったらなー、と考えていた時に脳内に浮かんだ十数秒の鮮明な映像。

それを気まぐれで信じてみたことから、知りたい未来の事象を願い、そして数えきれないほど視てきた。


友達との賭け事には負けたこともなく、ネット掲載板では競馬や競輪の予想代行でひっそりと金儲けをした。もちろん、暇つぶしに何でもないことの未来を視ることもあった。


道を踏み外したのは、いつからだろう。


賭け事の代行をしているのが親にバレてしまい、久しぶりに金銭的に困った時だった。

手っ取り早くお金を手に入れる方法を未来視してみると、近所のおばさんが一人暮らししている家の鍵を閉め忘れることや、最適な逃走ルートなどが脳内に映し出された。


流石に顔見知りの家に忍び込むことに気が引け、一番家から近い顔見知りでない者が家の鍵を閉め忘れるのを視て、未来視に従って行動することで一切の証拠を残さずに盗みを働くことに成功した。


近所でやりすぎては未来視を使っていても特定される危険が拭い切れず、盗んだお金から電車賃を出して日本各地へ泥棒に行った。

時には未来視に従って人を殺すことや家に火をつけることまで始めてしまった。最初は躊躇や罪悪感のあった行為も回数が増えるにつれて何とも思わなくなってしまった。

それでも、未来視は逮捕される未来を示すことはなく、毎日数回、多い日は数十回確認していた。


学校では常に成績優秀で用意周到、休日は警察が一切尻尾を掴めない世界最強の泥棒となってしまったことでどちらが本物の自分か分からなくなり、少しづつ壊れていってしまった。


――お金を稼いで何がしたい?


自問自答し、手段と目的がどちらか分からないままで泥棒を続けた。そして、やっと終わりの時が来た。


17の夏、いつも通り二つ離れた町のとある住宅に忍び込んで盗みを働いていた。未来視によれば同い年の娘と遭遇するらしく、未来視曰くレイプしてから首を絞め殺すだけの時間はあるらしかった。

未来視の通りリビングの壁に隠れ、帰宅した娘がリビングに入ってくるのを待つ。入ってきた瞬間、その娘を押し倒した。


ただ、押し倒してからその驚きと恐怖の入り混じった顔を見て、未来視では見えなかった事実を知ってしまった。


その娘は、その子は、中1の時に好きだった子だったのだ。中2で転校してしまった時はどれだけ悲しかったか。その子の名前は…。


もう今は思い出せない。それは数百年前の話なのだ。


「君って、神田佑(かんだたすく)君?」

「違う、俺は巷で噂の大泥棒、カンダタだ!地獄に堕ちる大泥棒だ!」

「君、そんな子だったっけ?」

「3年も経ちゃ性格くらい変わるだろ?それに比べて、お前は何も変わってねぇなぁ!」

「そうかな?右のほっぺにある切り傷がなかなか消えてくれないの」


彼女は、気味が悪いほど落ち着いていた。まるで、自分がただひょっこり遊びに来ただけかのように。


「それで、逃げなくてもいいの?」

「俺はお前をレイプしてから絞め殺す」

「殺してくれるの?ありがと、君は本当に何でも知ってるんだね」

「どういう…ことだ…?」

「私、もう処女じゃないんだ。未成年なのに。ごめんね、処女あげられなくて」


理解できなかった。この状況に加えて、再開したかつての想い人が未成年で処女を卒業していたという事実が。


彼女は自分のズボンの左ポケットに手を入れて、まさぐり、折り畳み式のサバイバルナイフを取り出した。


「これでさ、私の首を一思いに刺して、抉って、殺してよ。こんな汚い私、生きてても…」

「それは無理だ。俺の視た未来は、俺がお前を絞め殺す未来だ。刺し殺す未来じゃない」

「やっぱり未来、見えたんだ。なんとなく気づいてはいたけど、本当とは思わなかったな」

「絞め殺すので良ければ殺すが、刺し殺すのは断固拒否だぞ」


彼女は何も言い返さず、笑顔で頸動脈にナイフを突き立て、思い切り刺した。


想像していた量の倍以上の血が噴き出し、今まで作ってきたような地獄絵図よりも酷いものになった。


そして、自分の中で何かが切れたのを直感したけど、もう遅かった。



我に返った時には、彼女の胴体は切り開かれ、内臓は丸見えで、血肉が散らばっていた。これが自分の仕業だと、自分で信じたくなかった。

彼女は口の動きと微かな声で、確かにこう言い遺した。


「なんだ、結局刺してくれたじゃん」


そして間もなく、彼女は息絶えた。


自分の血まみれの両手を見る。未来視になかった光景、未来視が外した光景。完璧に未来を知り尽くしていた自分が知らなかった未来。


「この後の俺はどうなる?」


脳内に移るのは、煮えたぎった赤い液体の中でもがき苦しむ人々の姿。


――そうか、地獄に行くのだ。

帰りに足がふらついて事故で死ぬ?警察官に発砲されて死ぬ?



――いいや、どうせ変わらない未来なら、自分で迎えに行こう。



右手のサバイバルナイフを、彼女がそうしたように頸動脈にかざす。そして、力いっぱい刺した。

想像を絶する激しい痛み、初めて感じる気持ち悪い感覚。


死というものを甘く考えすぎていた。


こうしてあの日、俺――神田佑は死亡したのだった。

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