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ドワーフの魔術師  作者: イノナかノかワズ
ドワーフの魔術師と師匠
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第23話 グレンツヴェート魔法都市

 魔機車(まきしゃ)から降りた私たちは目的地のグレンツヴェート魔法都市を見下ろしました。


 港に位置するその都市は湾に浮かぶ小島(おじま)とその上に建つ建物を除けば、一見普通の街並みをしていました。


 けれど、その都市は普通ではありませんでした。


「「な……!」」

「わぁー。すごいの! まほうさんがたくさんなの!」


 私とセイランは驚きました。特に私は絶句していたといっても過言ではありません。己の目を何度も疑い、目をこすりました。


 空を飛んで郵便配達をする青年や魔法で箒を動かして家の前を掃除する婦人。魔法のシャボン玉を作ってボール遊びをする子どもたち。駒の代わりに魔法人形(ゴーレム)を作って『将棋』をする老人たち。


 子どもから老人まで、街に住む誰もが魔法を使っていたのです。しかも、魔法は日常に溶け込んでいるようでした。


 その事実に私は混乱します。


 魔法は才ある者しか使えません。想像(イメージ)だけでは足りず、適性がなければ絶対に扱えないはずなのです。


 なのに、どうして……


 いえ、答えは明白です。ここはそういう人たちが集まってできた街なのです。


「パパ。かなしいさんなの? いいこいいこするよ?」

「……大丈夫ですよ」

「みゅ。だいじょうぶなら、いいの。でも、がまんはだめなのよ」

「そうですね。心配、ありがとうございます」

「どういたしましてなの」


 オロシがイナサの手を握ります。


「では、シオリ殿のいるところへと向かうとするかの」

「そういえば、シオリはどこにいるのですか?」

「『魔法大学』だ」


 セイランが湾に浮く小島に建てられた城のような建物とそれを囲む六つの塔を指さします。


「『魔法大学』?」

「魔法を教え研究する学び舎だ。クソババアはあそこの理事長をしている」

「なるほど」


 魔法大学という言葉に聞き馴染みがなくあまり実感がありませんが、ともかくあの小島の建物にシオリがいるわけですね。


 ……師匠の故郷についても何か分かるでしょう。


 私たちは小島へと向かいました。


 

 Φ



「どうやってあそこにいくのでしょうか」


 港に着いたはいいものの、海に浮かぶ小島へと繋がる橋がありませんでした。ならば、船ではないかと辺りを見渡しますがそれらしきものはありません。


「グフウ殿。少し待つのじゃ」


 オロシは小島へと行く方法を知っているようでしたので、彼の言葉に従ってしばらく港で時間を潰すことにしました。


「投網! 次はそこの魔アワビだ!」

「うぉっ!! 熱いッ!」

「怯むな怯むな!!」

「魔ハマグリの汁が来るぞ! 備えろよ!!」


 港の一角では、血気盛んな人たちが魔法の火の上に浮かぶ巨大な鉄の網を囲っていました。


 その網の上には体長二メートル近くはある巨大な魔物の貝がいくつも浮かんでいます。


「ジャンプさんなの!!」


 ボンッと爆発するような音と共に一匹の魔物のアワビが弾けて、身だけが上へと高く飛び上がります。貝殻はあらぬ方向へと吹き飛びます。


「はいよ!」

「「おうよ!!」」

 

 鬼人の女性が魔法で強化した両手でアツアツの貝殻を掴み取って掲げます。


 同時に二人の犬人の男性が手のひらから光の網を放出して飛び上がった魔物のアワビを捕まえて、掲げられた貝殻へと叩き戻します。


 そこにヒューマンの女性が魔法で大きな醤油の瓶を浮かべて数滴注ぎ、猫人の男性が仕上げにと魔法で巨大な炎を作って一瞬だけアワビをあぶります。


「魔アワビを食いたい奴はいるか!!」


 美味そうな魔物のアワビ焼きの完成です。

 

「食いたいぜ!」

「俺に寄越せ!」

「いい酒と交換だ!」


 漁師の格好をした方や主婦と思しき方、花の紋章のペンダントを見ぬ着けたローブ姿の方々など、多くの人たちが手を挙げます。


「私も食べたいです!」

「アタシもだ!」

「あちしもたべてみたいの!!」

「儂もじゃ」


 私たちも手を挙げます。


「ならば、全ては煙に聞こう!!」


 煙管(キセル)を咥えた男性がニヤリと笑い、むわっと煙を吐きました。モクモクとした煙は竜へと姿を変えて、私たちの上空を飛びます。


 そして急降下しました。


「あちしにとまったのね!」

「この魔アワビは嬢ちゃんのもんだ!!」


 イナサの頭の上に止まりました。魔物のアワビをいただきました。


「ふぅ、食った食った」

「少し早めの昼食でしたが、かなりお腹が膨れましたね」

「おいしかったのね。ふわっとのうこうっていうあじだったの。すぱらしいかったのね」

「おお、イナサは『食レポ』が上手じゃの!」

「ふふん!」


 港に到着してから一時間近く経ちました。


「ところで、オロシ。小島に向かう方法ですが」

「うむ。もうそろそろじゃと思う」


 オロシがそう言ったのと同時に、湾の底から魔力が噴き上がります。海水が蠢きだし、港から小島へと繋がるとても大きな水の橋が現れました。


「二時間に一度、こうして橋が現れるのじゃ」

「へぇ」


 花の紋章のペンダントを見ぬ着けたローブ姿の人たちが水の橋を渡り始めます。


 私たちも水の橋を渡り始めました。


「おみずさんのうえをあるけるの!!」

「なるほど。〝水上歩行〟の魔法ですか」


 感嘆の声が漏れます。


 これだけの海水を操り橋として固定する魔法に、橋に踏み入れた人全員に〝水上歩行〟をかける魔法などなど。


 この水の橋には多くの魔法が掛けられていて、しかもそれは全て一人で為されているものでした。


 それを為す魔力量に技量。人外とも言えるべき魔法使いです。


 そして十数分ほど歩いて水の橋を渡り終えた私たちは、大きな門の前で立ち止まります。


「結界が張ってありますね」

「あのペンダントがないと入れないのか」


 小島には侵入者を阻む結界が張ってあり、花の紋章のペンダントがないと中には入れないようです。


 門に併設されていた窓口へと向かい、そこの職員にシオリに会いたいということを伝えました。


 ギルドカードと依頼書を見せれば、上に確認を取るからと言われました。しばらく待っていると一人のヒューマンの女性がやってきました。


 ローブを羽織った彼女の魔力は研ぎ澄まされており、その魔力探知にも無駄がありません。


 高い実力の魔法使いだということが伺えました。


「ヨゾラ殿。お久しぶりじゃの。元気そうで何よりじゃ」


 知り合いのようです。オロシが彼女を紹介してくれます。


「この女性はヨゾラ殿と言っての。シオリ殿の弟子なのじゃ」

「ヨゾラと申します。よろしくお願いします」

「ドワーフの魔術師のグフウです」

「エルフの戦士のセイランだ」


 彼女から差し出された手を握り返しました。


「あちしはイナサなの! よろしくなのね!!」

「はい。よろしくお願いします」


 ピョンピョンと跳ねて手を握ろうとするイナサにヨゾラは屈んで微笑みました。


「では、早速我が師のところへ案内したいところなのですが……申し訳ございません。我が師はただいま領主様と会談中でして。それでグフウさまたちがよろしければ、魔法大学をご案内したく」

「どうしますか?」


 セイランたちに確認を取ります。みな、頷きました。 


「それじゃあ、よろしくお願いします」

「分かりました。では、こちらのペンダントを身に着けてください」


 花の紋章のペンダントを渡されました。それを身に着け、私たちはヨゾラの案内のもと魔法大学に足を踏み入れます。

 

 魔力探知が沢山の魔法の気配を教えてくれます。


 中央に聳える大きな建物へと足を踏み入れます。内装にはどこか懐かしさを感じます。


 花の紋章のペンダントを身に着けたローブ姿の人たちが行き交う廊下をお上りさんのように見渡します。


「ヨシノの第一法則によって――」


 朗々とした声が聞こえてそちらを見やれば、講堂のような広い部屋で威厳のある男性が黒板に背を向けて講義をしているのが、扉の隙間から見えました。


 そしておよそ百ほどのローブ姿の人たちがその言葉を熱心に聞き板書しています。


「こちらは中央校舎となっており、学生の交流や基礎的な魔法の講義が中心となっています。専門性の高い講義や研究などは中央校舎から繋がる各塔で行われます」

「確か研究生のほとんどが学生だったか」

「ええ。制度や学部によって違いがありますが、研究生のほとんどが学生ですね。基本的に三年間かけて基礎を学び、それ以降を教授のもとで研究に費やすといった形です。魔法の教育機関でもあるのです」

「つまり、ここにいる人たちは全員魔法使い見習いというわけですか?」

「ええ。ここを卒業する要件の一つに中級以上の魔法の行使が挙げられますので、皆魔法使いと言えるでしょう」


 魔力探知でざっと探った限りでも、千人近くがこの魔法大学にいます。


 魔法の才能を持ち合わせているのは百人に一人程度がだと、昔、師匠から聞きました。


 それはヒューマン限定の話ではあり他種族だと事情は少し変わりますが、どちらにせよ魔法使いになれる人はそう多くはないのです。


 それがこんなにもいるなんて、驚くしかありません。


「おねえさん! あちしはイナサなの! そのがちゃがちゃさんはどんなおもちゃなのっ?」


 イナサが近くにいた学生の一人にテテテと駆け寄って、彼女が手にしていた箒型の金属を指さします。


 魔力探知の反応からして魔法具(アーティファクト)でしょう。


 女子学生は箒型の魔法具(アーティファクト)に跨り、フワフワと浮きました。しかも、それに目を輝かせてはしゃぐイナサを抱えて箒型の魔法具(アーティファクト)に乗せ、フワフワと浮きます。


 イナサはより一層はしゃぎ、女子学生は口元を綻ばせました。


 それに興味を惹かれたのか、他の学生たちもイナサに色々な魔法を見せ、イナサが嬉しそうに反応します。


 その光景に頬を緩めていると、ふと気になる気配を感じました。


「ヨゾラさん。あそこの小さな教室は」

「そこはこの時間だと……ああ、教養の『ことば』に関する講義をしていますね」

「『ことば』……」


 やはり、という確信が私の心を占めました。


「すまない。講義の見学できるだろうか?」

「ええ、もちろん」

 

 ヨゾラの頷きを受けてセイランがチラリと私を見やります。彼女に目を伏せて、私はヨゾラに『ことば』に関する講義の見学を申し出ました。セイランもです。


 オロシはイナサを見ているとのことでした。


 ヨゾラは講師に確認をとるとのことで、静かに教室の扉を開けます。


「〝斉唱(ウニソヌス)〟・〝魔の光よ。(コロル・)聳えて守れ(ウーナ・)――魔盾(シルト)〟ッ!」


 大きな魔力の反応があり、咄嗟に〝魔盾(シルト)〟を展開しました。


「きゃあっ!」

「うわぁあああっ」

「ひゃあああああ!!」


 ボンッという爆発と共に、煙と衝撃波、そして悲鳴が駆け巡りました。




 

いつも読んで下さりありがとうございます。

面白い、また少しでも続きが気になると思いましたら、ブックマークやポイント評価を何卒お願いします。モチベーションアップにつながります。

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