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ドワーフの魔術師  作者: イノナかノかワズ
ドワーフの魔術師と師匠

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第6話 トロッコ列車とブランデーケーキ

 ガタンゴトンと揺れる大型トロッコ。


 それは十人程度の人が乗れる箱型のトロッコと運転席用のトロッコを連結したもので、線路を流れる魔力を受け取って車輪が回転し移動する魔法機械(アーティファクト)です。


 連結して並べたトロッコですから、トロッコ列車、または単に列車とも呼んだりもしています。


 トロッコは五十年ほど前に山を昇ったり坑道を移動したりするために父が作った魔法機械(アーティファクト)なのですが、私が旅立ってから四十年の間に、街中を、しかも空中に線路を敷いて走っているとは思いもしませんでした。


 空を走るトロッコ列車の最後尾の車両。そのまた一番後ろの長椅子の端に私たちはイナサを挟んで腰かけていました。


「おそらさんをブーンしてるの! くもさんにさわれそうなのね!」

「そう身を乗り出してはダメですよ。危ないです。あと、靴は脱ぎなさい」

「うい!」


 落下防止などの安全機構の魔法具(アーティファクト)が組み込まれているのでそう危ないことはないとは分かっていますが、それでも椅子に膝立ちして勢いよく窓から身を乗り出そうとするイナサを慌てて止めます。


 窓を閉めて、イナサの靴を脱がせます。


 セイランがイナサの片手をさりげなく掴みながら、私を見やります。


「グフウは心配性だな」

「子供は目が離せませんから。けど、少し意外ですよ。貴方は大雑把に見えて細かいところをよく気にする人ですから、私以上に心配するかと思ったのですが」

「まぁ、確かにアタシはお前以上に心配してしまうだろうな。だが、心配しすぎはよくない。お前くらいのがちょうどいいから、任せているのだ」

「心配する役は私というわけですか。では、セイランは安心させるのをお願いしますね」

「ああ、任された」


 ニコリと微笑みあいます。それからトロッコ列車内を見渡しました。


「それにしても、ドワーフやエルフは静かですね」

「これだけいれば、喧嘩の一つや二つ起きてもおかしくないのだが」


 トロッコ内には何人ものドワーフやエルフがいましたが、彼らはみな目を瞑り、ジッと立って黙っています。まるで必要な情報以外は遮断しているかのような様子です。


 駅に到着し、大型トロッコが停車しました。


「ここでおりるのね?」

「いいえ。最後の駅までおりません」

「つまり、あちしはまだおそらさんをブーンできるということなのね。それはすぱらしいことなの。ということで、あちしはバイバイをみたいの」


 車両の最後部には三つの大きな窓があり、後ろの景色を見ることができます。


 どうやらイナサはその光景をみたいようです。


「じゃあ、私と入れ替わりですね」


 ちょうど私が座っているのが一番(はじ)で直接その窓を覗けるため、イナサと座る場所を交代しました。


 同時に気が付きます。


「あ」

「どうかしたのか、グフウ」

「いえ、まぁ……」


 トロッコ列車の扉の方をチラリと見やります。乗客が何人かおりて、入れ替わるように新しい乗客が乗り込んできました。


 そしてあるドワーフの親子、その娘がタタタッとこちらの方に駆けてきてきました。


「母さん! 列車の後ろをみたい! 抱っこ!」

「はいはい。そう慌て……」


 ドワーフの母親が私の視線に気が付きます。黒の眼が大きく開かれました。


 私は苦笑いして、口を開きました。


「お久しぶりです、ハクボ姉さん」



 Φ



 ハクボ姉さんが私の隣に座りました。子供たちはセイランにお願いしました。


「「……」」


 ちょっと気まずいです。四十年ぶりの再会で、しかも私が一方的に家出した形ですから、気まずいのは当たり前なのですが。


 とはいえ、このままでは埒があきません。私は努めて明るい声音で、話題を振ります。


「それにしても驚きましたよ。私に姪がいたなんて。いつ結婚したんですか?」

「……十五年ほど前よ。あの子はつい五年前に生まれたばかりね」

「最近ですね。手紙くらい寄越してくださいよ」

「寄越しようにもアンタの居場所なんて分からないわよ」

「おかしいですね。毎年手紙は送っていたはずなんですけど」


 ハクボ姉さんは一瞬だけ眉をひそめました。


「……まぁ、いいわ。ともかく、言いたいことは沢山あるけれども」


 ハクボ姉さんは私の手を握って。


「……元気でよかったわ」


 万感の想いがこもった声音でそういいました。顔を見れば、安堵の表情が浮かんでいました。


「……心配をかけました。ごめんなさい」


 当時は考えもしませんでしたが、今は自分のしでかしたことの重大さを少しは理解していました。


 ナギが十歳ちょっとで置手紙一つで私たちの元から失踪してしまうようなものです。しかも居場所は分からない。凄く心配するのは当然で、私はそれを家族にしてしまった。


 申し訳ない気持ちがありました。


「昔からアホの弟だったから、そんなに心配はしていなかったわよ」


 そう冗談を言うように頬を緩めて、ハクボ姉さんは強く私の手を握りました。


 そして一転。私の頭のてっぺんから爪先をジロジロと見てきました。


「それにしても……アンタ物凄く変わったわね。格好もだけど、雰囲気が物凄く変わっているわ」

「そうですか? ひげは確かに伸びましたけど、身長とかは変わっていませんよ」

「いいや、変わったわよ」

「そういうハクボ姉さんは全く変わってないようで。相変らず美しいですね」


 夕焼けに染め上げられたかのような美しい茜の短い髪に、磨かれた黒曜石のように澄み切った美しい黒の切れ長の眼。凛々しい顔立ちに、服の上からでも分かる程よく脂肪ののった鍛え上げられた肉体。


 美しい上に、腕っぷしも強く鍛冶師としても高い実力をもっていたため、多くのドワーフの男性から求婚されていたのを覚えています。


「……アンタ、本当に変わったわね。昔ならそんなこと言わなかったでしょう」

「それは……そうかもしれません。ちょっと子供でしたし、恥ずかしかったんですよ。それにしてもひげを生やすのは止めたのですね。綺麗で、自慢していたでしょう?」

「確かに自慢だったけれども、ハクメイがものすごくヤンチャだから邪魔になっちゃうのよ」


 ハクボ姉さんは私から視線をずらして、目の前を見やりました。


 セイランが闘気を纏った(・・・・・・)片腕にハクボ姉さんの娘であるハクメイを、もう片方の腕にイナサを抱いていました。二人とも窓に顔を押し付けて、無言で走るトロッコ列車の後ろからの景色を眺めています。


 そんな二人にセイランは優しく口許を緩めていました。


「……狂犬と聞いていたのだけれどもね」

「セイランのことですか?」

「そうよ。アンタが家出をする直前? いえ、直後だったかしら。エルフの議長とかをぶん殴って、しかもたまたま居合わせたハガネ父さんまでボコして、家出した狂犬エルフってね」

「え」


 父を殴ったのですか? 初耳なんですが。


「その上、十年ちょっと前にこの近辺を荒らしてた廻命竜(かいめいりゅう)の首を一人で取ったもんで、そりゃあ私たちの間でも有名よ」

「へぇ。ところで、家出だったんですよね?」

「ええ。アンタと同じく家出よ」

「ふぅん」


 セイランったら議長の許可を得て国を出たとか言ってましたけど、やっぱり家出じゃないですか。


 やれやれと心の中でため息を吐けば、セイランが振り返り小声で怒鳴ってきます。


「ち、違うからな! 家出は大人たちが勝手に言ってるだけだ。議長も両親も確かに国を出ていいと言ったんだぞ」

「拳で言わせたの間違いでしょう」


 今も面倒ごとが続くと拳で解決しようとする癖がありますけど、昔はもっと酷く荒れていたんですね。全力の脳筋だったわけです。


 その頃の彼女を想い、微笑ましく思ってしまいます。


「ん? ハクボ姉さん。どうかしたのですか? そんな鼠が竜を食い殺した光景を目にしたかのような顔をして」


 ふと、横からの強い視線を感じました。ハクボ姉さんがあり得ないと言わんばかりに愕然とした様子で私とセイランを見ていました。


「……あ、いや、あれよ。アンタたちなら喧嘩検定にすぐに合格しそう……いえ、歴代最高点を叩き出すだろうなと思っただけよ」

「それ、それですよ。喧嘩検定ってなんですか?」


 切符売りのドワーフの店員から聞いたときから気になっていたんですよね。


「この街と一緒にできた資格だから知らないのも無理ないわね。喧嘩検定っていうのはどれだけ喧嘩せずにいられるか、どれだけ上手に喧嘩ができるかを評価する試験なのよ」

「なるほど。ドワーフとエルフがともに暮らしているのですから、前者はもちろん、周りに迷惑をかけないのも大事ですからね。いい試験です」


 喧嘩にも流儀というものがあるのです。


「まぁ、それができていないやつもいたが」

「それは本当かしら?」

「ああ、昼頃だったな。若いエルフとドワーフがな。幸い、何かが起こる前に警吏に連れていかれた」

「そう。被害が出る前に止めてくれた感謝するわ。グフウもセイランさんも」

「いえいえ」

「ん」

 

 私たちは小さく首を横に振りました。同時にトロッコ列車が終点に到着しました。



 Φ



 どうやらハクボ姉さんも調停館に用があるようで、私たちは一緒に調停館へと来ました。


 高さは十メートルほどでしょうか。三階建てで、石材や金属を用いるドワーフ式と木材や非加工物を用いるエルフ式が融合した大きな建物です。


 周りには豊かな自然と気品ある調度品が並び、美しい調和を見せています。


 敷地はかなり広く、魔力探知の情報からして調停館の奥にも施設があるようです。


 私たちは調停館に入りました。


 暇そうな職員をつかまえてイナサのことを伝えれば、一人のエルフに案内されます。ハクボ姉さんたちは別の用事があるようで、別れました。


「……見られているな」

「どうしてでしょうね。街中でもよく見られましたし」

「それは、あちしがカワイイからだとおもうの。みんなのハートをあちしがうばっちゃうの。つみなオンナなの」


 私たちに手を繋がれたイナサがまるで世界の真理を語るかのように、そう言いました。

 

 私たちは小さく微笑みあいました。


 ある扉の前に到着します。扉を開けば、中でオロシと数人のドワーフとエルフが話し合っていました。


 イナサが私たちの手を離れて、オロシへと駆けだします。


「あ、おろし! あちし、ブーンにのったの! あちしはトリさんになったのね。それにそれに、たっくさんのきらきらもみたの!」

「そうか。街は楽しかったようじゃな」


 オロシが軽く頭を下げます。


「この子と遊んでくれて感謝する」

「いえ。私たちもとても楽しかったので大丈夫ですよ。それよりも、突然飛び出してしまってすみません。驚いてしまったでしょう」

「確かに驚きはしたが、親のいる子であれば大なり小なり通る道じゃ。そう謝らんでよい」

「……ありがとうございます」


 私たちは一言二言オロシと話し、イナサとまた明日会う約束をして、部屋を出ます。


「すまない。調理が可能なところはあるか? 借りたいのだが」

「……上に確認してまいります」

「急で悪いな。頼む」


 セイランの名前もあってか、調理室を貸してくださいました。どうやら調停館ではよく会食などを行ったりするようで、そのための調理室だそうです。


 そのためか、一級品の調理道具が揃っていました。


 私は買ってきた材料を机に並べ、ブランデーケーキを作り始めます。セイランには多少の手伝いと味見を頼みました。


 さっそく作ったブランデーケーキを一切れフォークに刺し、セイランの口に運びます。


「どうです?」

「美味しいな」

「それはよかった……あ」


 セイランが美味しそうに味わってブランデーケーキを食べている様子を見て、あること(・・・・)を思い出します。


 そういえば、キチンと祝っていませんでした。


「どうかしたか?」

「いえ、なんでもありません」


 思い出したことは後で時間を作ってどうにかしましょう。私は首を横に振りました。


「……そうか。それよりアタシはこれで十分だが、ドワーフ用ならもう少しアルコールと香りを強くした方がいいだろう。それと疑似的に時間経過ができる魔術とかないのか? 一晩以上寝かせて味に深みを出したい」

「それならいい魔術があったはずです」


 余分に買った材料が許す限り、私は試行錯誤を重ねてセイランに味見を頼みました。


「まぁ、味はそう重要ではないとは思うがな。あくまで誠意と話し出すきっかけみたいなものだ」

「それでも美味しい方が嬉しいと思います」

「それは確かにそうだ」


 何故かドワーフやエルフが頻繁に調理室を覗きにくるせいで集中できず、作業が思うようには進みませんでしたが、日が沈む前には納得のいくブランデーケーキを作り終えました。


 箱にしまい、包装紙で包み込みます。


「じゃあ、行ってきます」

「ああ。頑張れ。まぁ、残念だったらアタシが慰めてやる」

「……その時はお願いします」


 ドワーフの職員の案内のもと、父の役員室へと向かいます。どうやら父は長年大使としてエルフと渡り合った経験を買われ、この街の偉い人として働いているようです。


「ハガネ様はこの奥です。今は書類作業をしているかと思います」

「ありがとうございます。急に申し訳ありません」

「いえ、今日は仕事に手が付いていないようすでしたから、問題ありません」


 私は役員室の扉を叩きました。


「誰だ」

「……グフウです」


 扉の向こうから厳格な声音が響き、私は正していた背筋を更に正してしまいます。緊張に震えながら、自分の名前を答えました。


「……入れ」

「っ。失礼します」


 てっきり追い返されるものだと思っていたため、入室を許可されて驚きました。


 私は驚きと緊張に息を飲みながら、片手にもっていた大杖を脇に挟んでドアノブを捻り扉を開きました。


「ふんっ」

「カハッ」


 同時に父の鋭い拳がとんできて、殴られました。吹き飛ばされて壁に激突しました。


いつも読んで下さりありがとうございます。

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