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ドワーフの魔術師  作者: イノナかノかワズ
ドワーフの魔術師と師匠

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第2話 故郷への道中

 ツェーゲルン王国の建国祭の最終日。その夜。


「ようやく落ち着きましたね。疲れました」

「ああ、本当に疲れた」


 セイランは椅子に深々と腰かけ、疲れた表情で頷きました。


 この一週間。屋台には尽きずお客が並んでいました。私たちの想定を遥かに越える人数が、私たちが創ったお菓子を買いに来たのです。


 素人が創ったお菓子なのに……という思いもありますが、私たちが創ったお菓子はとても美味しいという自信もあったので当然といえば当然だと思いました。


 それに喧嘩ばかりしているドワーフとエルフの合作のお菓子というのが耳目を集めたようですし。


 セイランが拳より一回り小さい紅玉を手に取り、かじります。私も同様に翡翠を手に取ります。


「うん。うまい」

「ですね。美味しい」


 ひとたび齧れば、モチモチでトロリと伸びる翠の玉。その中には、芳醇で濃厚な甘さが広がる程よく凍った果物が入っています。私はぶどうで、セイランは蜜柑です。


 これが私たちが創ったお菓子です。

 

 昔師匠に教えて頂いた『イチゴ大福』というお菓子を参考に、ドワーフの伝統菓子であるモチモチ宝石の中に、エルフの伝統菓子である甘みと香りを凝縮させた冷凍果物を入れたのです。


 しかし、これがもう大変でした。


 鍛冶魔法である特殊な手法を用いると宝石をモチモチのお菓子にすることができます。ただこのままではドワーフやエルフしか食べることができません。ヒューマンや獣人には有害な物質が入っているからです。


 そのため彼らでも食べられるように有害物質を取り除いて、更に食べやすいように改良しようとしたのですが、難航しました。私の魔術による(・・・・・)鍛冶魔法の上達やセイランの料理に対する深い知識がなければ未だに完成しなかったでしょう。


 しかもです。モチモチの宝石のお菓子は冷たさに弱いのです。冷やし過ぎると元の宝石に戻ってしまいます。


 これがエルフの凍らせた果物菓子と相性が悪かった。


 もちろん、エルフには他にもいくつか果物を使った伝統菓子がありますので、そちらを使ってもよかったです。


 けれど、今は夏場なのです。暑いからこそ、冷たいお菓子が食べたいじゃないですか。


 なので、頑張って凍らせた果物を中に入れても問題ないようにしました。二週間近くかかりました。大変でした。

 

「苦労した甲斐があります。本当に美味しい」


 私たちが創ったお菓子、エルドワ大福をむしゃりとかじり、飲みこみました。


 そして同様にエルドワ大福を飲みこんだセイランと目があい、口許を緩めあいました。


 一ヵ月の苦労と今の達成感が、ぽっかりと穴があいていた私たちの心に柔らかくしみ込みました。


「それじゃあ、店じまいをするか」

「撤収作業ですね。綺麗にしましょう」


 お菓子作りはこれからも二人の趣味として続けるつもりですが、屋台は単なる記念。路銀はかなり稼げましたが、本業にするつもりはありません。


 いい加減、故郷を通って北側諸国へ、そしてその果ての魔法都市、グレンツヴェートに行き、ハイエルフのシオリに会わなくてはいけません。


 師匠が亡くなって十一年もの歳月が経ってしまいました。早めに(のぞ)みを叶えてやりたいのです。


「では、調理器具を最初に片付けて――」


 故郷に帰るのが少し憂鬱ですが、それも飲みこんで私は立ち上がり、片づけをしようとしました。


 すると、遠くから争うような声が聞こえてきました。


「うるせぇ! このアグイウアクッス!!」

「はぁ、なんですってっ!? このウウィンワオ!!」

「「…………」」


 私もセイランも顔を見合わせます。聞き覚えのある言葉が聞こえたからです。


「……撤収作業を続けますか?」

「逃げるのが先決だ」

「ですね」


 顔をしかめながら重要なものだけ慌てて鞄に詰め込み、私たちはその場を後にしようとしました。


「お前がとろとろしているせいで逃げられるぞ!!」

「のろまのアンタのせいですわよ!!」


 しかし、判断が遅かったようです。


 私たちの前に、二つの人影が立ちふさがりました。


「おうおうおう!! このドワーフ様の許可なしに我らの伝統菓子を扱っているとは何事か。大使の俺が……」

「誰の許しを得てエルフの伝統の冷凍果実を使っているですのっ!? エルフがクソ野郎のドワーフの合作なんて侮辱も甚だしい詐欺を働いてタダで済むと……」


 片やこげ茶の、三つ編みに結ばれた髪とひげが特徴的なドワーフの男性。


 片や金髪と碧眼が特徴的なエルフの女性。


 両者ともボロボロ(・・・・)でしたが、私たちに威圧するようにそう言って。


「「…………はぇ?」」


 しかし私たちを見て驚きました。


「え、エルフだと……」

「ドワーフもいるですわ……」


 呆然とする二人に、私たちはため息を吐きます。


「エルドワ大福は私たちが、私とセイランが一緒になって創ったお菓子です」

「いや、そんなことは信じられん。ドワーフとエルフがお菓子作りなんて……」


 ドワーフの男性が目をそらすように首を横に振りました。


「これでも文句はあるか?」

「んなっ!?!?」

「え、エルフが大事な耳を触らせただと……」


 セイランが私の手を掴み、自分の耳を触らせます。


 エルフの女性が素っ頓狂な声をあげて、卒倒しました。ドワーフの男性も先ほど以上に呆然としていました。


「ともかくだ。エルドワ大福にお前らの許可などいらない。あれはアタシたちのものだ。では、失礼するぞ」


 私たちはその場を離れました。



 Φ



「昨夜は災難でしたね」

「ああ。この国に派遣されていた大使たちが乗り込んでくるとは。まったく仲が悪いのだから、一緒にこなけれなまだまともな対応ができたものを」

「まぁ、私たちすら巻き込んで喧嘩するのは目に見えていましたからね……」


 最近、喧嘩しだしてしまった私たちがいうのもアレですが、これでも私たちはかなりマシな方なのです。


 なんせ、エルフとドワーフは顔を突き合わせれば悪口を言い、暴力や嫌がらせを当然のようにします。些細なことで互いの国に乗り込み、ことあるごとに抗争が起こります。


 ですから、いくら国を代表した大使同士とはいえ、エルフとドワーフの二人揃っていれば、周りを気にすることなく酷い喧嘩をするのは目に見えていて。


 実際、彼らの服がボロボロだったことから、私たちのところにくるまでに拳と魔法で派手な喧嘩をしていたのでしょう。


 たぶん、どちらが先に私たちに文句を言うかで争っていたのだと思います。


「……なんか、国に戻るのが更に憂鬱になってきました」

「……アタシもだ」


 ようやくここ一ヵ月で心の整理ができて踏ん切りがついたというのに、昨夜ので台無しです。


 陰鬱な気分で私たちは宿を出て、街を出ました。


「そういえば、集合の日時はどうしますか?」


 一緒に互いの国に行ってもいいことはないので、私たちは一度別れるつもりです。だからこそ、集合の日時を事前に決めとかなければなりません。


「そうだな……一週間くらいでどうだ? そう長居をするつもりはないのだろう?」

「そうですね。家族に顔を見せるくらいしかすることはありませんからね。クソジジイがいたら、彼にも顔を出さなきゃいけないですけど」

「ああ。エルダードワーフのか」

「はい。セイランはどうですか?」

「アタシも似たようなものだ。会議はあるが、それ以外はすることがない。そう長居したいと思ってもいないしな」

「そうですね」


 故郷に悪い思い出があるわけではありません。けれど、私もセイランもそれなりに外れ者の自覚はあるので、長居したいほど居心地がいい場所でもないのです。


「まぁ、何か問題が起これば手紙を寄越す。それでやりとりしよう」

「分かりました」


 それから私たちはツェーゲルン王国の北へとぐんぐん進み、一週間ほどで国境付近に着きました。


 目の前を見上げれば、エルフの国がある神樹の森とドワーフの国がある神炉の山が広がっています。


 このまま真っすぐ進めば一時間もしないで国境にたどり着き、国へと足を踏み入れられるでしょう。


「相変らず変わっていないな」

「噴火も起きていないようですね」


 お互いの国に別れる道はもう少し先です。


 私たちは少し心の奥から零れる懐かしい気持ちを噛みしめるように、ゆっくりと一本道を進んでいました。


「グフウ」

「分かっています」


 しかし、そうもいかなくなりました。


 神樹の森の方。道を外れて十キロメートルほど先の方で、魔力の反応を探知しました。大きな魔力が飛び交っていることから争っているのが分かります。


 片方はその魔法の洗練具合からエルフとドワーフだとわかります。そしてもう片方は、その魔力の邪悪さから悪魔(デーモン)だと分かりました。


 どうやらエルフとドワーフはお互いに協力するしかないほどの悪魔(デーモン)と戦っているようなのです。そして苦戦している。


 私もセイランも急いでその場所へと向かいました。

いつも読んで下さりありがとうございます。

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