第23話 ダンジョン攻略RTA(罠にはかかる)
「グフウ、乾かしてくれ」
「はいはい」
「じゃあ、わたしはシマキ様を乾かすですわ」
「あ、ちょっと勝手に頭を触らないでよ!」
「いいから動かないでくださいですわ」
私たちは二階層の入り口まで流されました。ずぶ濡れとなった体を乾かして、再び隠し部屋の前へと向かいます。
「罠が復活している」
「なら、ちょうどいいな。このまま罠を使って転移するぞ。転移した階層が何階層か分かれば、ショートカットとしてこの罠が利用できる可能性がある」
ということで、私たちは手を繋いで転移罠を発動させました。
「ヤドヤドヤドヤドっ!」
「顱借虫だっ!」
「ひえぇえええ!!」
転移した先では、全身を硬い甲殻で覆った巨大な骸骨を背負うの魔物、顱借虫が待ち構えていました。
二メートル長のそいつは間髪入れずに、外に飛び出した目玉を巨大化させて触手のように私たちに振り下ろし、襲い掛かってきます。
嫌悪感に震えた悲鳴をあげながら、シマキは恩寵法で私たちの周りに結界を張って巨大な目玉の振り下ろしを防ぎます。
「っ! 火竜の頭蓋骨だとっ!」
背負っていた骸骨を見て、セイランが驚きます。
「何か問題でもあるのですかっ?」
「ああ、大問題だ! これが事実だとしたら――」
「い、今はそれはどうでもいいから、早く対処しなさいよ!! ひぃぃいい!!」
触手のような大きな目玉が二つ、何度も結界に振り下ろされてシマキが悲鳴をあげます。それにしてもこの目玉はかなり頑丈ですね。
「……これくらいで悲鳴をあげるとか、情けないですわ」
「しょ、しょうがないじゃない! 気持ち悪いものは気持ち悪いのよ! わたくしはもと深窓の令嬢だったのよ! こんなきもいのとは無縁だったのよ!」
「……自分で言うですの、それ。はぁ、セイラン様! 話はあとで、今はさっさとコイツを倒すですわ!」
「そうだな! じゃあ、いつも通りに行くぞ! シマキ、カウントに合わせて結界の解除を頼む!」
三、二、一、とセイランがカウントし。
「散開!」
「しっかり捕まっていてください」
「っっっっっ!」
セイランとナギが両サイドに、私はシマキを抱きかかえて後ろへと跳びます。どうやら、舌を噛んだようでシマキが声にならない悲鳴をあげてました。
「閃破!」
「ヤドヤドォォッッ!!」
セイランが大剣を振り下ろせば、顱借虫は素早くステップをして背負っている火竜の頭蓋骨で大剣を防ぎます。
衝撃が走り、セイランが後ろにのけぞり、顱借虫は前のめりになります。
顱借虫は前のめりになりながらも火竜の頭蓋骨に魔力を注ぎました。次の瞬間、火竜の頭蓋骨の口がパカッと開いて収束された火炎が放たれます。
「〝魔の光よ。聳えて守れ――魔盾〟っ!」
「〝邪を断つ光は闘刃となれ――光剣〟、ですわ!」
「ヤドヤドォォォっ!?」
「助かった!!」
放たれた火炎は私が〝魔盾〟で防ぎ、同時に光の刃、〝光剣〟を二つの短剣に纏わせたナギが顱借虫の触手のような目玉を切断します。
顱借虫は悲鳴をあげ、同時に背中の火竜の頭蓋骨や甲殻を金属へと変化させます。叩かなくてもそれがとても硬いことが想像できました。
「ハアアアッ!」
「ヤドドォォ」
そんな金属の体に向かってセイランは踏み込み大剣と巨斧を振り上げます。ガンッッと音が響いて、顱借虫が空中へと吹き飛びました。
そして二つの魔術陣を浮かべたナギが大きく跳びあがり。
「ヤドドドドド!!」
「〝風よ。あなたを踏み台にしてでも私は空を跳ぶ――風踏〟、ですわ!」
顱借虫が虚空にいくつも創り出した小さな火竜の頭蓋骨から放たれた火炎を、ナギは風を蹴ってかわします。
そのまま顱借虫の背後へと跳んで、火竜の頭蓋骨の首元に空いた穴に向かって黒の刀身の短剣を突き刺しました。そこは唯一、顱借虫の柔らかい部分が露出している場所でした。
「〝魔の光よ。翔りて穿て――魔弾〟、ですわっ!」
「ヤドドォォォっ!!」
ナギは突き刺した黒の刀身から〝魔弾〟を放って、顱借虫の魔石を撃ち抜きました。はらはらと顱借虫は塵となって消え、ナギが着地しました。
「ふぅ……それでセイラン様。何が大問題なのですの?」
「ダンジョンの成長速度だ。ダンジョンは金銀財宝などで人を呼び寄せることで多くの魔力を得て成長する。かといって、放置すれば自然の魔力を得て成長する。そしてどっちにしても最終的に多くの魔物を現世へと放出し、人を滅ぼそうとする」
それが貪りと冒涜の女神が創り出した人類を滅ぼすシステム、ダンジョンです。
「普通のダンジョンの成長速度は十年単位だ。だが、このダンジョンはたった数年でその最終段階に入りつつある」
「その根拠が火竜の頭蓋骨だと?」
「ああ。ダンジョンは普通、魔物以外の生物を創れない。死骸も同様だ。しかし、その成長が最終段階に入ると可能になるのだ」
「つまり、早急にダンジョンの核を浄化するべきということですね。マップを埋めたり、隠し部屋の探索とかはせずに」
「……そうだ」
セイランは物凄く落ち込んだ表情で頷きました。ダンジョン探索を凄く楽しんでいましたからね。落ち込むのも仕方ないでしょう。
私は飛行魔術で少し浮かび、ポンポンとセイランの頭を撫でました。
その後、私たちはずんずんと上の階へと昇りました。
「ここは……」
「三十七階層ですね」
四階層分を昇ってきましたので、二階層にあった罠の転移先は四十一階層となります。
「十分あの罠はショートカットとして使えそうだな。転移先には必ず魔物がいるが、アタシたちの敵ではない」
「ですね」
セイランと罠の活用について確認し合ったところで、私たちはため息を吐いてそちらを見やりました。
「だから、どうしてシマキ様はそうポンコツなのですのっ! さっきも言ったですわよね! そこの床は踏んじゃいけないって!」
「わ、悪かったわ! けど、仕方ないじゃない! つまづいちゃったのよ!」
「なんでそう何もないところで転ぶですのっ!?」
「昔から転ぶのよ! きっと呪いだわ! それにお宝も手に入ったし、過ぎたことはいいじゃない!」
「よくないですわ!」
ナギとシマキが言い争っていました。周囲には砕かれて石ころ程度の大きさとなった金剛石がたくさん散らばっていました。
先ほどシマキが躓いて顔面から地面にダイブし、床のスイッチを押してしまったのです。
四メートル四方の金剛石が落ちてきました。
セイランが拳で粉砕しました。流石はアダマントの筋肉保持者です。
「おい、グフウ。思うのはまだいいが、顔には出すな」
「つ、つねらないでください。ごめんなはいって」
セイランにつねられて赤くなった頬をさすります。自分が悪いので仕方ないですけど、ちょっと痛いです。
そして金剛石を拾い集め終えると、セイランが手をうちます。
「方針を確認するぞ。寄り道はせずにダンジョンの最深部を目指す。なるべく早く、尚且つ焦らずにだ! 異論はないか!」
「ないです」
「ないですわ!」
「……従うわよ」
えいえいおー! と私たちは円陣を組みました。
ダンジョン攻略をスタートします。
「あべしっ」
「っ、〝大地の楔よ。彼の者を解き放て――浮遊〟、ですわ!」
さっそくシマキがスッ転んで壁にぶつかり、落とし穴に落ちました。ナギが慌てて浮遊の魔術でシマキを浮かします。
「た、助かったわ……」
「どういたしましてですわ。もうまったく、シマキ様は」
ナギが呆れました。シマキは言い返さず、唇を少し尖がらせるだけでした。
私たちは半日で四十階層まで戻りました。
道中、何故か昇る際にはいなかった魔物に多く襲われたりしましたが、全て撃退しました。
「貴方たち、本当に強いのね。あんな強い魔物を一瞬で倒してしまうだなんて」
シマキは塵になって消えていく亜竜を見やりながら、感嘆の声をあげました。
「っ、上だっ!」
突然セイランが叫び横に飛びのきます。私とナギも慌てて飛びのきます。
「え。急になに――」
シマキだけ反応できていませんでした。
「んんんっっっ!」
「シマキ様っ」
天井から粘性体の魔物、スライムが沢山降ってきました。どうやら天井に仕込まれていた魔力探知を妨害する筒の中に潜んでいたらしく、事前に感知できませんでした。
スライムがシマキの顔を覆います。
ナギが慌てて短剣を取り出し、スライムの核を突き刺しました。ドロっとスライムがシマキの顔から剥がれ落ちます。
シマキは盛大に咳き込み、スライムを吐きました。
「けほ。こほ。けぇっほっ……た、助かったわ……」
「ど、どういたしましてですわ。……それにしてもシマキ様ばかり襲われている気が。本当に呪われているのですの?」
たぶん、呪われていると思います。ここはダンジョン、つまり聖女の敵の本陣です。だから、必要以上に彼女に対しての攻撃が強くなっているのでしょう。
地上へと戻る道を行くときには現れなかった魔物が、進んだ途端多く現れて襲ってきたのもそれが理由でしょう。
それに気が付いたのか、ナギがシマキの手を握りました。
「きゅ、急にどうしたのよっ?」
「シマキ様。わたしがいかなる脅威からも貴方を守るですわ。だから、決してわたしの手を離さないでくださいですわ」
「うぇ、えっ!? そんな本物の勇者様みたいな言葉っ!」
シマキは顔を赤くして目を白黒させていました。
「……あれ、勘違いしていません」
「まぁ、勇者と聖女の話は定番だからな……」
私たちは肩を竦めました。
Φ
一ヵ月が経ちました。私たちは四十九階層にいました。
そうです。一年で十階層分しか進まなかったにも関わらず、私たちは一ヵ月で九階層も攻略したのです。
理由は二つあります。
一つ目は余計な寄り道を一切しなくなったこと。
そして二つ目は、セイランの理不尽な直感とシマキのふわっとした正解を教えてくれる天啓という聖女の能力のおかげです。
いや、ホントにマジで二人が示した方向に向かえば必ず次の階層にたどり着くのです。攻略に一番必要な能力と言っても過言ではないでしょう。
だからこそ、正解の道が直感で分かっているにも関わらず、間違った道を選びまくってマッピングに拘っていたセイランに少しだけイラッとしましたが。
「ぶべしっ」
「あ」
天啓で正解の道が分かっていようとシマキは基本的にドジな子であり、また聖女ですからダンジョンがあの手この手を使って殺しにかかってきます。
ナギがいくら手をつないで注意を払っていようと、罠にかかってしまうのは仕方がないことなのです。私たちも防ぐことができませんし。
ということで五十階層手前で罠にかかり、モンスターハウスという、魔物が沢山出る部屋に閉じ込められました。
閉まりきった頑丈な扉には封印の魔法がかかっているため、手で押しても開きそうにありません。解除にも時間がかかりそうです。
魔物の数は百二十体。全てが凶悪な殺気を放っています。
「ひぃっ! わ、悪かったわっ!」
「大丈夫ですから、私の後ろに下がっていてください! 〝斉唱〟、〝魔の光よ。翔りて穿て――魔弾〟ッッ!!」
あまりに魔物が多かったのと、ナギやシマキがそれなりに消耗していることもあり、私が〝魔弾〟を百二十発放ち、魔物たちの妨害を掻い潜って正確無比に全ての魔石を撃ち抜きます。
全てが塵になりました。
「あんなにいた魔物が一瞬で……」
シマキが呆然としていました。周囲を調べていたナギが口を開きます。
「ここは定期的に魔物が召喚される仕組みになっているですわ」
「なら、早くここを抜け出した方がいいですね」
「じゃあ、扉を破壊するか。……すぅ、双颶斬っ!!」
「ひゃあっ!」
セイランは大剣と巨斧に圧縮させた風を纏わせ、頑丈な扉に振り下ろしました。扉に大剣と巨斧が食い込んだ瞬間、圧縮された風が爆発的に拡散し、扉を粉砕します。
飛んできた小石がシマキの額にあたり、彼女はひっくり返りました。
「もう、何しているですの?」
「うぅ、痛いわ……」
「はいはい」
ナギが起き上がらせているので大丈夫でしょう。
「では、このまま次の階層に進んでしまいましょう」
「だな」
少し進んだ先にあった階段を下り、私たちは五十階層にたどり着きました。
いつも読んで下さりありがとうございます。
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