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ドワーフの魔術師  作者: イノナかノかワズ
ドワーフの魔術師と弟子

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第19話 へっぽこシマキとナギの叫び

 罠を解除したナギはへたりこんでいるシマキに手を差し出します。


「大丈夫ですの?」

「感謝する……っ」


 小さく礼を言いながら恐る恐るナギの手を掴もうとしたシマキは、しかし我に戻ったのかキッと両目を吊り上げて。


「余計なことするんじゃないわよ!」

「え」


 ナギの手を払いのけました。ふらつきながらもゆっくりと立ち上がり、ナギを睨みつけます。


「わたくし一人でも罠から抜け出せたのよ!」

「っ! ああ、そうですの! なっさけない悲鳴をあげて涙をちょちょぎらせていたのは演技だったのですわね! 大した役者ですわ! 聖女なんてやらずに女優になった方がよろしいんじゃないですの?」

「っ! 言わせておけば――」

「はい、そこまでです」


 喧嘩しそうになったので、二人の間に割って入ります。


 やはりナギはシマキと相性が悪いようです。普段は煽るような真似などしないのですが。


 いーとするナギをセイランに任せ、私はシマキに尋ねます。


「お付きの聖騎士たちはどうしたのですか?」

「……ふん。置いてきたわよ」

「置いてきたって、そんな危険な」

「危険? それがどうかしたのよ。そもそも彼らはお付きでもなんでもないわ。聖女のわたくしには助けもお付きも必要ないのよ。もちろん、あなたたちのもいらないわ」

「あ、ちょっと」


 シマキはずんずんと歩き出してしまいました。


「グフウ様。もういいじゃないですの。一人で大丈夫なら大丈夫なのですわ」

「そうはいってもですね……」


 私としてはここで彼女を放っておきたくはありません。彼女は戦いの実力(・・・・・)は全くないのです。みすみす見殺しにはできません。


 ふと、魔力探知に反応がありました。


「セイラン。彼らって」

「聖騎士たちだな」


 十九階層に降りてきたのでしょう。


 数十秒もすれば、聖騎士たちが慌てた様子でこちらに向かってきていました。


「聖女なら向こうにいきましたよ」

「……そうか」


 彼らはシマキが進んでいった方向に走っていきました。


「今回のところは彼らに任せていいでしょう」

「だな」

「……なんか、今後も同じような事が起こる気がするですわ」


 ナギのその予感は当たっていました。


「もがもがもが……」

「〝魔の光よ。(コロル・)翔りて(ウーナ・)穿て――魔弾(ゲヴェーア)〟、ですわ!」


 巨大なカエルの魔物に頭からゆっくりと飲みこまれていたり。


「ひ、ひぃぃぃっっ!」

「……〝大地の楔よ。(フラニグ・)彼の者を解(セクス・)き放て――浮遊(シュヴェーベン)〟、ですわ」


 マグマに満たされた穴に落ちかけていたり。


「もきゅぅ……」

「〝魔の光よ。(コロル・)翔りて(ウーナ・)穿て――魔弾(ゲヴェーア)〟、ですわ」


 巨大な浮遊クラゲの魔物に取り込まれていたり。


「食べられない、食べられないわよっ!」

「……グフウ様。魔力を貸してくださいですわ」

「はい」

「……〝絵のまやか(アルカエ)しよ。妄執を(ルコロ・)捨て去れ。(セクス・)解き放て――絵鎖(ラディアグミ)〟、ですわ」


 呪いの絵画の中に閉じ込められて悪しき竜に生肉を口に押し込まれていたりと、遭遇するたびにシマキは何らかのピンチに陥っていました。


 途中までは聖騎士たちは彼女を追いかけていたようですが、流石に何度も自分たちの傍から離れて勝手に行動する彼女に嫌気がさしたのか、別行動をするようになりました。


 それでもめげずにシマキはずっと一人でダンジョンに潜り続けていました。



 Φ



 その日は最前線の三十八階層まで探索して地上に戻り、冒険者ギルドに併設された酒場で夕食をとっていました。


「どうしてシマキ様は学ばないのですのっ!」


 十四歳になったナギはオレンジジュースの入った木ジョッキを机に叩きつけ、大声で叫びました。


 どんちゃん騒いでいた他の冒険者たちが、殺気のこもった叫びに一斉に黙り込みます。


 それに気が付かず、酔っぱらったかのように顔を赤くしてナギは叫び続けます。


「一年ですわよ! 何度も何度もピンチになってはわたしたちが助けて! なのに懲りずに一人でダンジョン探索とか馬鹿ですのっ!? 馬鹿ですわぁ! バカちくりんのばか山ばか子ですわぁ!」

「せ、セイラン。お酒入ってますか……?」

「いや、ただのオレンジジュースのはずだが……」

「きゅりきゅり……」


 クンクンと匂いを嗅ぐセイランとショウリョウ。


「きゅり」

「ああ。わずかだが酒の匂いがするな、これ」

「じゃあ、酔っぱらったんですね」


 まったく。忙しくなると冒険者ギルドの酒場は杜撰な仕事をしますね。あとで抗議しないと。


 心の中で溜息を吐きながら、ナギにしらふにする魔術をかけようとして、その前に酔っぱらっている二人の冒険者が千鳥足で近づき、ナギの肩に手を置きます。


「だよなぁ、無音の嬢ちゃん! あの聖女は本当に間抜けでな!こないだなんて、紅蓮蟷螂(ぐれんかまきり)に一人で挑んで食われかけていてな。あの時の悲鳴ったらキャンキャン鳴く子犬みたいに情けなかったぜぇっ!」

「だなだな! っというか、知っているかっ? アイツは聖女になる前は隣国で無能公女なんて呼ばれててな! あまりの無能さに王子と婚約破棄された――」

「貴方たちがシマキ様を馬鹿にするな、ですわ!」

「「ごふっ」」


 ナギが冒険者二人をラリアットしました。


「シマキ様を馬鹿にしていいのはわたしだけですわ!」

「いや、ナギも駄目でしょう」

「いや、ナギも駄目だろう」

「きゅり」


 思わずツッコんでしまいます。聞こえていないのか、ナギは無視して冒険者二人の胸倉をつかみます。


「だいたい、シマキ様はへっぽこのバカ山ばか子だけど、一人で三十五階層に到達しているのですわよ! 何度やられてもへこたれない凄い人なのですわ! それすらできない貴方たちが馬鹿にできる道理なんてないですわ!」

「そうだそうだ! 聖女様はいい人なんだぞ! 前に『辻ヒール』してもらったんだぞ!」

「アタイなんて呪いを『辻解呪』して貰ったんだぞ! 恩人を馬鹿にするな!」

「俺は焚きだして美味い飯を食わせてもらったぜ! あの人はへっぽこで傲慢なところもあるが、いい人なんだぞ!」


 シマキを擁護する声があがります。


「はん! 聖女を傘にきて威張っているだけだろ!」

「あんな才能だけのぽっと出生意気小娘にほだされやがって!」

「軟弱もの! 軟弱もの!」


 反対にシマキを馬鹿にする声もあがります。


「やるんですの、こらぁっ!」

「やんのか、ごらぁ!」


 対立構造が出来上がり、両者が睨み合います。今にも喧嘩が始まりそうです。もちろん、ナギもやる気満々です。冒険者同士の喧嘩はご法度なのに。


「ナギがあんな乱暴なことを。早く止めないと」

「そう慌てるな。冒険者なんてこんなものだ。この程度の荒事で大したことない。少しくらいいいだろう」

「よくないですよ! まったく、貴方がそうだからナギが真似したんですよ!」

「はぁっ? アタシのせいだっていうのかっ?」


 きつく言えばセイランがガンを飛ばしてきます。私も相応するようにガンを飛ばしました。


「きゅりきゅり! きゅうりきゅりきゅり!」

「ご、ごめんなさい」

「す、すまない」


 ショウリョウに「お前ら二人のせいだ。今の自分たちを見ろ」叱られました。


「っというか、早く止めないと」


 ナギともう一人の冒険者が拳を振り上げていました。他の冒険者たちも拳を握りしめています。


 なので。


「〝斉唱(ウニソヌス)〟、〝聖なる光は鎖と(アルブム・)なりて彼の者を封じ給(クァットゥオム・)え――聖鎖(ビンデン)〟」

「きゃあっ!」

「う、動けねぇ!」

「なんだこれっ!」


 多くの魔術陣を展開して、光の鎖を放ちます。全員を拘束しました。


「〝酒は飲んでも飲ま(アルカエル・)れるな。暴れ(トリア・)る者は等しく(アウス)咎人――酒滅(ヌュヒタン)〟、〝冷や水浴びせ(ニグルム・)て心を沈めよ。我を見(クァットゥオム・)つめろ――冷心(シュティレ)〟」


 そして三つと四つの魔術陣を展開して。


「落ち着きましたか?」

「「「「……はい。ごめんなさい」」」」

 

 この場にいる全員の酔いなどを覚まさせました。セイランみたいに魔力抵抗が高くなくて助かりました。


 ナギも含めて、全員が正座してシュンと頭をさげています。


 あとはナギも含めて全員、喧嘩をしようとした罪を冒険者ギルドの方で罰してもらえればと思った矢先。


「だ、誰か助けてください!」

 

 ヒューマンの女性が冒険者ギルドに飛び込んできました。顔は青く、痩せています。


 ここまで全力で走ってきたのか、息は酷く上がっており、膝から崩れ落ちてしまいそうになります。セイランが支えました。


「落ち着け。何があったのだ?」

「そ、その。息子がダンジョンに行ってしまったんです!」

「ダンジョンにだと?」

「た、たぶんですけど……けど、息子がいつの間にかいなくてっ!」

「そうか……」


 セイランはゆっくりと立ち上がって大剣に手をかけ。


「一先ず、お前から子供の居場所を聞き出すか」

「えっ。あ、がぁっ!?」


 座り込んだ女性の足に向かって大剣を突き刺しました。


 女性は驚愕に目を見開き、しかし次の瞬間、全身が黒の(もや)に覆われて本当の姿を表しました。


 とぐろを巻いたおどろおどろしい角を生やした人型の異形です。悪魔(デーモン)です。


 冒険者ギルドの空気が一気に張り詰めました。私が光の鎖の魔術を解除すると同時に、全員が武器を手に取って戦闘態勢に入ります。流石はプロの冒険者たちです。


「どうして、わかったっ!」

「お前らは独特なぷんぷん臭がするからな。すぐにわかる。それより何を企んでいる?」

「ぎゃああああっ!!」


 冷酷な目をしたセイランは、ぐりぐりと足に突き刺した大剣を動かします。闘気がこもっているため、悪魔(デーモン)は酷く痛がります。


 セイランが私を見やりました。


「グフウ。どうせ口は割らない。読心の魔術を頼む」

「分かりまし――」

「グフウ様! それはわたしにやらせてくださいですわ!」


 ナギがそう願い出たので、頷きました。いい訓練になるでしょう。


 そしてナギは悪魔(デーモン)の頭に手を当て、読心の魔術を行使して悪魔(デーモン)の記憶を読み取り。


「っ! シマキ様っ!」


 冒険者ギルドを飛び出していきました。


「けけっ。どうせもう手遅れよ」

「っ! 待ってください、ナギ!」

「お前らはコイツの処理をしておいてくれっ!」


 私たちは慌ててナギを追いかけました。

いつも読んで下さりありがとうございます。

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