第17話 極彩百魔のダンジョンと一年
「全てのパターンを調べた終わったぞ!」
「ようやくですか……」
「まさか三つの階層の攻略にこんなにかかるとは思わなかったですわ……」
「というか、ダンジョンの通路構造が一日毎に変化するとか、初めてでしたよ」
はぁ……と私とナギは疲れがこもったため息を吐きました。
その隣でセイランはダンジョンの第二十三階層の全てのマップを眺めてニヤけていました。
「嬉しそうですね」
「だってこの階層の地図が全部揃ったのだぞ! 嬉しいに決まっているだろう!」
魔法具の蒐集癖のあるセイランはダンジョンの隅々まで調べつくし、地図を埋め尽くさないと気がすまない性質でもありました。
次の階層へと繋がる正解の道を見つけては『外れだな』とのたまって引き返し、明らかに罠がある道へと進みたがるのです。
しかも、『隠し部屋が絶対にあるのだ』とか言って、何の変哲もない壁やどうでもいい偶像を数時間もいじくりまわしたりします。
そのせいで無駄な労力と時間がかかりました。
しかし……
「二十階層からのダンジョン構造の定期的な変化だが、ある程度法則性が掴めてきたぞっ。これなら、次はもっと早くマッピングができるっ! それに隠し部屋のあたりも付けられそうだ!」
子供のように無邪気で楽しそうな表情が見れるので、その程度の労力は苦にはなりません。
「……グフウ様も楽しそうですわ」
「そりゃあ、隠し部屋には魔法書がありますからね」
「ふぅん……」
口許が緩んでいた理由をなんとなく誤魔化せば、ナギが意味ありげに目を細めてニヤニヤとします。
「なんですか、その顔は」
「なんでもないですわ」
その顔は絶対になんでもないわけないですが、ここで突っ込んでも薮蛇なので黙っておきます。
私たちは第二十三階層の中でも一番広いエリアに移動します。悪神の偶像が並ぶそこで、私たちはダンジョン脱出の転移魔術を描いていきます。
そして魔術を発動させ。
「久しぶりの地上ですわ……」
「きゅりきゅり」
地上に戻ってきました。
開口一番に、太陽を見上げたナギが感慨深げに呟き、ナギの肩に乗っていた小さいショウリョウが同意するように頷きました。
それもそのはず。私たちは一ヵ月のも間、新しいダンジョンに潜っていたのです。久しぶりの太陽の光に目を細めてしまうのは仕方がないこと。
それは私たちも同様で、ふぅっと腰を降ろして空を見上げました。転移酔いでクラクラするため、ゆっくりと深呼吸しました。
「おい、アイツらって例の」
「今回はどんな秘宝を持ち帰ってきたのやら。化け物どもが」
「シッ。食われるぞっ」
「食われるってなんだ?」
「知らないのかっ。アイツら、ダンジョンの魔物を食ったんだぞっ。ありゃあ、人間も食うぞ」
「マジかよ。人を食うとか……」
食いませんよ!
心の中で怒鳴ります。隣を見やれば、セイランは青筋を立ててコソコソと話す周囲の冒険者たちを睨んでいました。全員がバッと目を逸らしました。
「グフウ様、セイラン様。宿に戻ってお風呂に入りたいですわ!」
「そうですね」
「今日一日はゆっくり休もう」
私たちは宿へと向かいます。
新しいダンジョンが出現してから一年が経ちました。
一年も経てば、領主や王国、冒険者ギルドなどの介入もあってダンジョンの周りには立派な建物が並ぶようになり、さらに活気に満ち溢れました。
そして新しいダンジョンは数多の魔物や罠、お宝が存在することから『極彩百魔のダンジョン』と呼ばれるようになりました。
宿に戻って風呂に入った後、私たちは昼食を取ります。
「明日はどうしますか?」
「まぁ、ギルドと領主たちに報告だろうな。地図とかも売りたいしな」
「えぇ……また、あの人たちに会うのですの?」
山盛りパフェを一心不乱に食べていたナギが嫌そうな顔をします。ほっぺについたクリームを拭き取りながら、セイランが肩を竦めます。
「仕方ないだろう。アタシたちはどこまでいっても一介の冒険者に過ぎないのだからな」
「でも、何もしないのに美味しいところだけかっさらってムカつくですわ! だいたいセイラン様たちが『凶星の破滅』を壊滅させた時だって!」
プリプリと頬を膨らませるナギ。その気持ちは分からなくもありません。
想像以上に深く、そして数多の金銀財宝に魔法具を排出する極彩百魔のダンジョンによって、すぐに多くの金が流れるようになりました。
私たちは一ヵ月間ダンジョンに潜り、一週間地上で休むというサイクルを繰り返していたのですが、ちょうどダンジョンに潜っている最中にその莫大な金を狙って犯罪組織が街への勢力を伸ばしていたのです。
特に『凶星の破滅』という、悪神たちを信奉する組織が大きな力を得て、暴力行為、人攫い、強盗など数多の犯罪行為をしていました。
しかも、『凶星の破滅』には悪神の使徒である悪魔が数体、手を貸していたのです。
にもかかわらず領主やギルド、王国側も具体的な対策も講じず、野放しのまま。その頃、教会はダンジョン攻略に参入していなかったため、対応が遅れていたそうです。
結果、ダンジョン攻略でへとへとになりながら地上に戻ったその日のうちに、『凶星の破滅』が関わっていた奴隷組織にセイランとナギが攫われたのです。
かなり冷静ではなくなった私が外側から、攫われたセイランとナギが内側から街に蔓延る犯罪組織を物理的に全て壊滅させました。
悪魔は塵一つ残さず消し飛ばしました。その余波で近くに巨大な大穴があいてしまったのは、まぁご愛敬でしょう。
そして、犯罪行為に関わっていた人を一人も残さず縛り上げた私たちは彼らを引きずりながら領主や冒険者ギルドなどに乗り込み、強めに文句を言いました。
今思えば、私もセイランもナギが危険に晒されたことにかなり怒り心頭だったため、彼らには物凄く怖い思いをさせてしまった気がしますが、反省はしません。
しかるべき対応を取らなかった方が悪いので。
ともかく、一介の冒険者が街に蔓延っていた犯罪組織を暴力で壊滅させたとなればそれなりに問題があるわけでして、私たちが彼らの代行として動いたということにしてそれらの問題を解決しました。
結果的に対策もしなかった領主や冒険者ギルドの手柄となったため、ナギは今でも怒っているのです。私も怒っています。
キノコとステーキの大山盛りを沢山食べていたセイランの方を見やれば、彼女は顎に手を当てて首を傾げていました。
「セイラン、どうしたのですか? 食い過ぎてお腹痛いですか? 膨れたお腹をポンポンしましょうか?」
「膨れてないわ!」
セイランは顔を真っ赤にして怒ります。それを宥めたナギは少し目を細めてセイランに尋ねます。
「気になることがあるのですの?」
「ああ。極彩百魔のダンジョンが出現してからかれこれ一年になるが、教会が幅を利かせないのがどうにも解せなくてな。一応、ダンジョン攻略専門の聖騎士たちが派遣されているが、彼らの動きもどうも鈍い。何か事情があるとしか……」
う~ん、と首を傾げていたセイランはふと顔をあげました。視線の先には執事服を着た女性がいました。
「エルドワ旅団様。お食事中に申し訳ございません。カラタチ様がお呼びです」
「疲れているのだ。明日にできなのか?」
「至急とのことです」
私たちはため息を吐きました。昼食を済ませ、彼女と共に領主の館へと向かいます。
「ああ、グフウ様たち! 待っていました!」
「お久リぶりです、カラタチ殿」
気弱そうな女性が出迎えてくれました。
彼女はカラタチ。ここ一帯を支配するウンネンシュロッゼン子爵領主の婦人です。王都に出頭している子爵の代わりにここらの仕事をしているのですが、なにぶん見た目通り気弱な方。
何かあるたびに私たちに泣きついてくるのです。
彼女はまるで救世主が来たと言わんばかりに私たちに駆け寄り、低姿勢になりながら眉を八の字にしながら、頭を下げてきます。
「本当にお疲れのところ申し訳ありません。けど、私ではどうしようもできない方々がいらっしゃいまして……」
私たちは顔をしかめます。なにせ、おおよそその相手が誰なのか見当がついているからです。あからさまに気配を出し過ぎています。
「エルドワ旅団の方をお連れしました」
そして賓客室で待っていたのは。
「よく来たわね。わたくしはシマキ。聖女よ」
神々の巫女、聖女でした。
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