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ドワーフの魔術師  作者: イノナかノかワズ
ドワーフの魔術師と弟子
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第16話 新たなるダンジョン

 キノコダンジョンから帰還した数日後。


「お久しぶりですね、クジラさん」

「お、お久だわ……」


 朝の訓練で岩を持ち上げながらスクワットをしていますと、情報屋の小人(ハーフリング)がやってきました。背中にはリュートが固定されたバックが、隣には体長一メートルを超えた狼が行儀よくすわっています。


 銀髪碧眼の彼女は私たちを見て、目を丸くします。


「お、御三方とも。何をしているのだわ……?」

「なにって、大抵のことはどうにかしてくれる筋肉を育成するトレーニングだが」


 首を傾げるクジラにセイランが首を傾げますと、私が持ち上げている岩(・・・・・・・・・・)の上(・・)に立っていたナギが口を開きます。


「グフウ様、セイラン様。クジラさんが困惑するのも無理ないですわよ。無茶苦茶な筋トレですからね。クジラさん、ごめんなさい。うちの非常識師匠たちが」

「……ナギさんも十分非常識に足を突っ込んでいる気がするのだわ」

「いやですわ。そんなことありませんですわよ。それより、重要な話があってやってきたのですわよね?」

「あ、はい。そうだわ」

「じゃあ、ショウリョウ。一旦降りてくださいですわ」

「きゅりきゅり」


 ナギが持ち上げていた小さな岩の上に立っていたショウリョウが地面に飛び降ります。


 次にナギが私が持ち上げていた岩の上から地面に飛び降ります。続いて私がセイランが持ち上げていた大きな岩の上から飛び降り、最後にセイランが大きな岩を地面に置きました。


 私がクジラに魔術で創った花をあげていますと、セイランが首をかしげます


「それで、どんな情報があったのだ」


 クジラは情報屋であり、狼の背に乗って世界各地を旅している吟遊詩人でもあります。


 ちょうど彼女も北へ向かって旅しているので、吟遊詩人として集めた情報のいくつかを教えてもらう契約を結んでいます。


 いつもは冒険者ギルドなどを経由した手紙で情報を送ってもらっていたのですが、今回は近くにいたこともあり会いにきたようです。


「こほん。なんと聞いて驚くだわ!」


 クジラは勿体ぶるように咳払いして。


「ここから一週間ほど東にいったところに新しいダンジョンが現れただわ! しかも、かなり深いダンジョンだわ!」

「っ! 本当かっ?」

「ホントだわ! この情報はまだどこにも出回ってない! なんせ、一昨日出現したばかりだわ! 嘘じゃないだわ。この目で見ただわ! ともかく、今すぐ行くのが吉だわ!」


 確かに吉でしょう。


 新しいダンジョンが、しかも深いダンジョンが現れたとなれば、多くの冒険者はもちろん、国の兵士や教会の騎士たちもやってくるはず。


 人数が増えればダンジョンに眠る宝物がなくなるのも早くなります。


「よし、今すぐ行こう! 深いということは強敵もいるはずだからな! 早く戦いたい!」

「こほん。その前にだわ」


 ウッキウキのセイランにクジラが手を差し出します。


「一週間の道のりを二日で来たのだわ。ナライには大変な無茶をさせただわ。それもこれも情報屋として早くセイラン様たちに情報を届けるためだわ」


 行儀よく隣に座っていた狼、ナライを撫でるクジラ。私たちは頷きます。


「食事でも一緒にどうですか? 報酬はその時にでも」

「分かっただわ!」


 ということで、朝食を一緒にとて臨時の報酬をクジラに渡し、私たちは新しいダンジョンへと急いで旅立ちました。



 Φ



 一週間かけて私たちは新しいダンジョンがある土地にやってきました。


「一週間ちょっとでこれか」

「大きな村みたいですね」

「うわぁ!」


 周りは荒野です。むき出しとなった岩肌が地面を覆い、低く貧相な草がところどころに生えています。


 寂しい土地という言葉が似合うでしょう。


 しかし、私たちの目の前はそんな言葉とは逆。活気に満ち溢れていました。


 冒険者と思しき武装した多くの人たちが行き交い、彼ら相手に食料を売ったりダンジョンで獲得した金銀財宝魔法具(アーティファクト)などを買い取ったりする商人がうたい文句を大声で喧伝します。


 それで儲けた冒険者たちからお金を得ようと自らを売り込む娼婦に、休む部屋を用意する大工たちなどなど。


 多種多様な職業の人たちがいました。


 セイランが少し舌打ちします。


「ここまで人が集まっているとなると、領主や国が動くのも時間の問題だな。さっさと成果をあげてダンジョンに潜る権利を獲得しておいた方がいいだろう」

「どういうことですか?」

「領主たちが治安維持を理由に一時的にダンジョンをよく封鎖するのだ。冒険者ギルドもそれに協力するから大抵の冒険者は逆らえない」

「けれど、ダンジョンの詳しい情報をもっていたり、高価な発掘品を賄賂として贈ればその限りではないということですわね」

「そうだ。それに教会が参入してくるのも早いだろう。ダンジョン探索はやつらの得意分野だからな。先をこされないようにしないと」

「せっかちですね」


 ずんずんと進むセイラン。ナギも急ぐように歩きます。私は隣のショウリョウと顔を見合わせて肩を竦め、追いかけました。


 そしてダンジョンの入り口の前までやってきました。


 そこには立派な神殿が立っていました。厳かな彫刻でありながら、悪神と思しき神々の偶像がずらりと並んでいます。


 そんな神殿に冒険者たちが次々と乗り込んでいました。 


「遺跡型のダンジョンか。しかも、外見に力が入っているなっ」

「セイラン様の顔、すごく輝いているですわ」

「当り前だろう! 入り口がここまで豪華なのだ! それだけ強い魔物がいるということだ! 普段は好き勝手に魔物を狩ることもできないからな! 楽しみだ!」

戦闘狂(バトルジャンキー)ですわ……」


 私とナギは肩を竦めました。


「ところで、ショウリョウはどうするのですか?」


 ショウリョウは幻獣ですので、戦闘能力はあります。ただ、ダンジョンは狭いところも多く、ショウリョウの体格ではいけないところもあるのです。


 そのため、先のキノコダンジョンではお留守番してもらっていたのですが、今回はそれができるかどうか。


 ここは街ではなく、人々が勝手に集まった共同体にしか過ぎません。信用できる人はおらず、ショウリョウを預けられない。


 そう考えて、セイランたちに相談しようとしたら。


「きゅりきゅり!」

「しょ、ショウリョウ! どうしたのですのっ?」


 ショウリョウが踏ん張るように体に力を入れ、光り始めました。


「きゅりきゅりっ」

「えっ。小さくなったですわ!」

変化(へんげ)か」

「いつの間に……」


 ショウリョウは普通のキュウリのサイズにまで小さくなり、ナギの前髪にくっつきました。


 生物の変化(へんげ)はかなり高等な魔法でして、特別な生物でない限り、古竜や上位の精霊、妖精くらいしか扱えません。幻獣でも使えるのは一握り。

 

 もちろん、ショウリョウも数年前まで使えなかったはずです。それをいつの間にか習得したようです。


「これでダンジョンに潜る問題の一つは解決したな。あとはお前のダンジョン酔いに関してだが」


 セイランが懐から液体の入った小瓶を取り出しました。


「急ごしらえだが、酔い止めの薬を作ってみた。一時的に大地の音を聴く力が鈍るはずだ」

「わたしも手伝ったですわ!」

「……ありがとうございます」


 どうやら二人でこっそりと薬を作っていたらしいです。仲間外れにされてちょっと寂しい気持ちもありますが、嬉しいです。


 せっかく二人が私のために作ってくれた薬です。鍛冶と技巧の神(大おやじ殿)から受け継いだ大地の音を聴く力が鈍るのは我慢しましょう。


 私は小瓶の蓋をあけグイッと煽りました。


「どうだ?」

「少し耳が遠くなりました」

「そうか。まぁ、ダンジョンに入ればわかるだろう」


 列に並んだ私たちはダンジョンの中へと足を踏み入れました。


「っ」


 地上とダンジョンの大地の音は全くの別物です。気圧が大きく異なっていると言いましょうか。


 そのため地上からダンジョンへ、またその逆にダンジョンから地上へと移動した際、その急激な変化で感覚がおかしくなり、気持ち悪くなってしまいます。


 エルフも同じように感覚が鋭いため、セイランもダンジョン酔いになってもおかしくないはずなのですが、彼女はダンジョンに潜り慣れているためか酔わなくなったようです。


 ともかく、ダンジョンに足を踏み入れた私は。


「……それほど気持ち悪くありません」

「よしっ」


 されどあまり気持ち悪さを感じませんでした。僅かに眩暈がするかなというくらいの気持ち悪さです。


 あとは、ダンジョンの大地の音に慣れれば、この僅かな気持ち悪さもすぐに消えるでしょう。


「じゃあ、グフウの体調も問題なさそうだし、ダンジョン攻略を始めるぞ!」

「「おう!」」

「きゅり!」


 手を合わせてエイエイオー! と気合を入れます。


 セイランとナギがやる気なので、ダンジョン攻略に熱意のない私もやる気が湧いてきます。こういうのを仲間というのでしょう。


 そして私たちは誰よりも早く深い階層へと足を踏み入れるためにダンジョン攻略を開始し、一時間後。


「せ、セイラン! 貴方の馬鹿力でどうにかしてくださいよ! 筋肉があれば大抵のことはどうにかなるんでしょうっ!」

「流石にあれは無理だっ! というか、火だるまに突っ込むのはドワーフのお前の役目だろう!」

「あれは流石に火傷しますよっ!」

「いいから、お二人とも逃げるですわよ!」


 溶岩をまき散らしながら勢いよく転がってくる巨大な球体から、必死になって逃げます。


 ダンジョンの脅威は魔物だけでなく、罠もあるのです。宝箱に手を出したら、天井から落ちてきたのです。


「横穴ですわ!」


 先頭を走っていたナギが巨大な球体の岩も通れない横道を見つけ、そこに飛び込み。


「きゃっ」

「ナギっ」

「グフウっ!」


 横道すらも罠だったのです。


 そこに足を踏み入れた瞬間、床が抜け落ちました。落とし穴です。下には強酸と思しき液体に満たされていました。


 慌てて私がナギの手を、セイランが私の手を掴んで(ふち)に手をかけます。どうにか強酸に満たされた穴の底に落ちずに済みました。


「〝大地の楔よ。(フラニグ・)我を解き(セクス・)放て――浮遊(シュヴェーベン)〟、〝風の衣よ。(ウィリデ・)自由の翼を与え給(クァットゥオム・)え――飛翔(フリーゲン)〟っ」


 そして飛行魔術を行使して、落とし穴から脱出しました。


「ふぅ。ひやっとしました……」

「悪辣な罠ですわね……」

「これは攻略に時間がかかりそうだぞ……」


 私たちはほっと安堵のため息を吐き、そして無言で顔を見合わせたあと、思わず吹き出しました。

いつも読んで下さりありがとうございます。

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