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ドワーフの魔術師  作者: イノナかノかワズ
ドワーフの魔術師と弟子
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第4話 ナギですわ

「ナギお嬢様! 今日という今日は許しませんよ! こんな危険なことをして!」

「離せですわっ! いや、こらっ! 離せっ、ですわ!」


 紐で縛り上げられたナギは暴れます。彼女を担ぎあげた偉そうな騎士がため息を吐きました。


 私たちはそんな彼に武器を向けます。


「……貴様ら、何の真似だ」

「それはこちらの台詞です。何故子どもを縛り上げているのですか」

「俺は騎士で、ここにいる誰もが俺を咎めない。その事実で納得はできないか?」


 偉そうな騎士は周りを見渡しました。騎士の格好をした人や冒険者風の格好をした人たちがいます。


 彼らは偉そうな騎士がナギを縛り上げていることを咎めていません。むしろ、またか、と呆れと怒りが混じったような表情をしています。


 ですが、それはそれです。セイランが厳しい表情で口を開きます。


「昔、領主の騎士に扮した犯罪組織に攫われそうになったことがある。集団が納得しているからといって信用はならん」

「……エルフか。厄介な――」


 偉そうな騎士が佩いた剣を抜こうとして。


「ススキ騎士団長。そこまでだ」

「クロウ様」


 少し遅れてこちらに向かってきていたヒューマンの男性が制止しました。馬から降りて、私たちの前に立ちました。


「初めましてセイラン殿、グフウ殿。僕はヴィントシュティレ辺境伯が長子、クロウ・ヴィントシュティレだ。そこの、ナギの兄だ」

「兄ではないですわ!」


 すぐにナギが否定します。


「だそうですけど」


 ジトっと目を向ければ、彼は苦笑いしました。


「複雑なのだ。ともかく、剣を納めてはくれないか。あなた方の名は僕の耳にも届いている。災害の魔物を倒す英雄とは戦いたくない」

「私たちってそんなに知られているのですか?」

「ヘルム辺境伯が広めたのだろう。ヒューマンはおしゃべりが多い。一瞬で情報が広まるぞ」


 私とセイランは少しげんなりとしながら顔を見合わせて頷きました。武器を納めます。


「感謝する。それでそこのエルスレザールだが、あなた方が倒したので間違いないか?」

「ああ、そこの娘が襲われていたからな」

「……そうか」


 彼はナギに一瞬だけ鋭い目を向けました。


「我が領の脅威を払ってくれたこと、父に代わって感謝する。詳しい話もしたい。どうか屋敷まで同行してはくれないか」


 小声でやり取りします。 


「どうしますか?」

「面倒だがお貴族様の言葉を無視するわけにもいかない」

「そうですか」


 仕方ないので頷きました。



 Φ



 ヴィントシュティレ街に入りました。町の人の反応を見て、クロウが本当に領主の息子なのを確認し、私たちは警戒を解きました。


 子どもを縛り上げた事には思うところがありますが、犯罪が絡んでいたわけではなさそうです。


 領主様の屋敷に着きました。お城みたいに大きいです。


 派手ではない応接室に案内されました。


「ヴィントシュティレ辺境伯様は?」

「父上は王都の議会に出席していらっしゃる。僕はその名代として領地を預かっている」


 ソファーに腰をかけるように促されたので、座ります。メイドがお茶やクッキーを並べたので口をつけました。


 ……美味しい。クッキーもですが、特にガラスのコップに入ったお茶が美味しい。


 飲んだことのない味ですが、香ばしく爽やかな喉越しをしています。小麦でしょうか? 汗ばむ暑い日にグイッと飲みたいと思うほどの美味しさです。


 セイランを見やれば耳がピコピコと上機嫌に動いていました。とても気にったのでしょう。


 私たちのその様子に苦笑したクロウは、それから軽く頭を下げました。


「二度目になるが、エルスレザールの討伐。改めて感謝する。先日峠道に現れ旅人や商人を襲うようになり討伐に向かったのだが、我らの力では討伐に相当の被害をだしただろう」


 顔をあげた彼は、そして再び頭を下げました。


「そしてナギを助けてくれたこと、本っ当に感謝する」

「当然のことをしたまでだ。気にしないでくれ」


 深い感謝がこもった言葉にセイランがぶっきらぼうに返答しました。


「それよりも何故、あんな子どもが山にいたのですか?」

「それは……エルスレザールの討伐に向かったのだろう」

「彼女が?」

「あぁ。無茶だというのに、未だに諦めてないのだ。まったく、ナギは……」


 クロウが苦労を滲ませながらため息を吐き。


「呼ばれたので、バァーンですわっ!」


 同時に力強く扉が開いてメイド服を着たナギが現れました。私もセイランも目を見開きました。


 クロウが驚きのあまり立ち上がります。


「ナギッ!? どうやってここにっ! 部屋には鍵をッ!」

「あんな鍵、わたしの前には無いも同然ですわ!」


 彼女は流れるような仕草で私たちに土下座します。


「英雄様ッ! わたしを弟子にしてくださいですわ! どうか、どうかお願いするですわっ!」

「こら、ナギッ! 皆のもの、であえぇ! ナギが脱走しているぞ!」


 兵士や執事、メイドたちがぞろぞろと部屋にやってきて、ナギを部屋から追い出そうとします。


「この、ナギお嬢様! いい加減諦めてください」

「嫌ですわ! わたしから手を離しなさいですわ! こらぁあ!!」

「暴れないでください、お嬢様! 皆で手分けして運ぶぞ!」

「や、やめろぉ! 離せぇ! 乙女の体に触れるんじゃないですわ! あ、どこ触ってるんですのっ!? へ、変態ぃ!」


 ドアにしがみつき、暴れるナギ。それはまるで駄々をこねる子どものようで、けれどとてつもない違和感がそこにありました。


 私たちは立ち上がります。


「クロウ様。一旦、彼女を降ろしてください」

「……皆の者、ナギを降ろせ」


 地面に降ろされたナギは、すぐさまスライディング土下座をします。


「セイラン様っ、グフウ様っ! どうかわたしを弟子にしてくださいですわ! 雑用でもなんでもするですわ! だからわたしを強くしてくださいですわ! 強くなりたいんですわ!」


 ふざけているようなとって付けた「ですわ」からは考えられないほど、その言葉の奥に壮絶な感情があることに私もセイランも気が付いていました。


 けれど首を横に振ります。


 優しさを感じさせないように、なるべく平坦な声音で言います。


「ナギ、と言いましたか? 貴方を弟子にとることはできません」

「旅に子どもは連れていけない。悪いが諦めてくれ」

「っ。そこをどうかお願いですわっ! わたしだけではもう、強くっ!」


 足にしがみついてくる彼女に私たちは眉根を寄せます。どう反応したらいいのか分からないのです。


 クロウが厳しい顔で言いました。


「ナギ。お前はヴィントシュティレ辺境伯の娘だ」

「娘じゃないですわっ!」

「娘だ。これ以上セイラン殿たちを困らせるな。我が家の顔に泥を塗るな」


 彼は騎士やメイドたちを見やりました。


「皆の者、連れていけ。それとメイドの二人ほどを常に監視に付けろ。寝るときもだ。あと、メイド服からドレスに着せ替えろ。令嬢なのだからな」

「ハッ」

「で、弟子にしてもらうのですわっ! 離せですわっ!」


 騎士たちは暴れるナギを取り押さえながら、部屋を出ていきました。


 クロウは眉間に皺を寄せて苦労を顔に滲ませながら、私たちに頭を下げます。


「ナギが失礼した。どうか僕の謝罪で勘弁してくれないか」

「子どもがしたことだ。気にしていない」

「だから頭をあげてください」

「……感謝する」


 事情があるのでしょう。


 彼は決してナギを嫌っているわけでも、粗雑にしているわけでもないことは、その顔を見れば分かります。彼女を想ってのことなのでしょう。


 なので、子どもを乱暴に連れていく様に苦言を呈すことはできませんでした。


 そしてエルスレザールの討伐報酬などを受け取り、私たちは屋敷を出ました。


「ふぅ。疲れたな」

「ですね。教会に行ったら、さっさと宿を取りましょう」

「だな。いい宿を教えてもらったし」


 教会で神々や精霊に挨拶と感謝をして、私たちはクロウから教えていただいた宿に泊まりました。



 Φ


 

 翌日。


 私たちは冒険者ギルドで情報を集めることにしました。


 国境に接していることもあり、他国から来た冒険者もそれなりにいたため、多くの情報を聞くことができました。


「半日でかなり集まりましたね」

「ああ。だが、情報の精査もしたいから時間はかけるぞ。それに情報屋に依頼した情報が届くのに一週間かかるしな」

「なら、私も師匠の情報を集めますかね」


 今のところ、師匠の故郷を知っていそうな存在はハイエルフのシオリだけ。その情報も絶対でない以上、他の情報を探った方がいいでしょう。


 私たちは昼食をとり、飯屋を出ました。


 同時に。


「セイラン様! グフウ様! 見つけたですわっ!」

「「っ!?」」


 メイド服を着たナギが突然現れ(・・・・)、私たちは大きく驚きました。 

いつも読んで下さりありがとうございます。

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