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ドワーフの魔術師  作者: イノナかノかワズ
ドワーフの魔術師とエルフ
31/100

第31話 祈りと旅立ち

魔術のルビに関して不備がございましたので、訂正いたしました。

 三日後。


「セイラン! 起きてください!」

「なまきのこ……さいこ~……」

「何言ってるんですか!」


 いつも通りセイランを叩き起こし、髪を整えてイヤリングを付けてあげます。


 シオンモチーフのイヤリングを鏡で確認した彼女は、微笑みます。


「ありがとう」

「どういたしまして」


 宿を出て、研究所へと向かいます。


「ん? 王都のヒューマンはこんな早起きだったのか?」

「貴方よりは皆、早起きだと思いますよ」


 まだ朝日も出ていない暗い夜明け前。なのに、多くの人が起きていました。灯火を手に持ち、何やら準備しています。


「あれは、籠か?」

「竹ひごと紙でできているようですね」


 ヒューマンたちは口を竹ひごで形成した紙の袋を持っていました。


「何かの行事だろうか?」

「メモリ殿がこんな時間に私たちを呼んだのもそれが関係していそうですね」


 そんな事を話しながら、私たちは研究所へたどり着きました。


 メモリが星屑タンポポの植木鉢を二つ手に持ち、待っていました。隣には、ザンサと呼ばれていた女性がいました。手には紙の袋を持っていました。


「メモリ殿。それは……」

終りと流転の女神(カロスィロス)様から授かった恩寵法で、時の流れを少し早めたのだ」


 本来、星屑タンポポが花が閉じてから綿毛を咲かせるまで二ヵ月以上かかります。


 なのに、植木鉢の星屑タンポポは綿毛を咲かせていました。夜空に浮かぶ星々のように鮮やかに輝く綿毛が二つ、揺れます。


「ついてきなさい」


 黙ってついていきます。


「今日は何の日か知っているか?」


 一つ思い浮かびますが、これは違います。


「……夏至であることしか」

「アタシもだ。この国では夏至の日に、行事を行うのか?」

「そうだ」


 歩くこと数十分。王都を囲う城壁の側防塔の屋上へと来ました。


「グフウ。君は終りと流転の女神(カロスィロス)さまに仕えているだろう。なら、知っているはずだ。彼は誰時(かわたれどき)が何を意味するか」

「……輪廻の星々へと繋がる時間です」

「そうだ」


 死した魂は終りと流転の女神(カロスィロス)様に導かれ、輪廻の星々へと帰るのです。そして新たに別の星に生まれ変わる。魂は流転するのです。


 そしてその流転の中心。輪廻の星々へと繋がる時間が夜明け。彼は誰時。


「つまり、弔いの行事か。だが、夏至は関係ないだろう」

「だから、君は浅薄なのだ。夏至は善神の力が最も強まる日なのだ」

「はぁ? そんな事実はない。太陽の月日によって力が変わるは戦いと慈悲の神(シュラセトリディア)さまと祈りと豊穣の女神(マーテルディア)さまのみ。他の神々は関係ない」

「真実でなくてもいいのだ。信ずる我らがそう思うから、善神はそうであるのだ。応えるのだよ」


 メモリの言葉に私もセイランも困惑するしかありません。


「つまりだ。この日は神々も優しくしてくれるというわけだ」


 彼は王都を見下ろしました。


 先ほどの紙の袋です。提灯のように灯火を抱きかかえたそれが、沢山浮き上がっています。


 紙を透過する柔らかな灯火の光は、ゆらゆらと揺れて天高く昇っていくのです。


天灯(てんとう)さ。我らの祈りを天へと、導きの女神(カロスィロス)さまへと届けるのだよ。さすれば、優しき女神さまは我らの祈りを輪廻の向こうにいる魂に導いてくださる。きっと」

 

 メモリとザンサは竹ひご部分の中央にある四角の固形物に火を付けます。燃える火によって温められた空気が紙の袋を持ち上げ、そして空へと浮かび上がりました。

 

 ようよう白み始めた空に温かで優しい光が無数に灯り、静謐な街を照らしていきます。それは神々の祝福のように綺麗で、静かでした。


 彼らはしばらく祈りました。


「……まぁ、ただ、これは私たちの国の文化だ。君らには関係ない。そして、賢者ヨシノとジョウギにも」


 だから、と彼は綿毛を咲かせる星屑タンポポを見せます。


「星屑タンポポ。別名は導き花。終りと流転の女神(カロスィロス)さまが愛する花だ」

「……それは真実だ」

「そう、事実だ。だから誰にでも適用される。故郷も分からぬヨシノにも」


 彼が私に植木鉢を一つ、渡してきました。


「今日なのだろう。彼女が導きの女神(カロスィロス)さまに抱かれ導かれたのは」

「……どうしてそれを」


 私は息を飲みました。


 一年経ったのです。


 楽しかった日々は戻らないのだと、同じ時を過ごせないのだと理解したあの日から一年が経ったのです。


 喪い悲しんだ日から、一年が。


 ひげが少し濡れました。


「……なんですか」

「いや、まぁな」


 セイランが頭を撫でてきました。植木鉢で両手はふさがっていて払いのけることができません。


「私はジョウギを祈る。そのために依頼したから。だが、君らは違う人を祈るといい。ドワーフであっても、エルフであってもそれは許されるはずだ」


 風が吹きました。鮮やかに咲き誇る綿毛が空へと舞い上がりました。


 星々のように輝く綿毛が夜明けの空へと落ちていくその光景は、まるで死した魂が輪廻の星々へと導かれているかのようで。


 私は、強く強く祈りました。


 セイランも、祈っていました。


 

 Φ



「さて、報酬だな」


 その帰り。メモリから測定器を受け取りました。


「それと賢者ヨシノの故郷についてだが、一人知っていそうな人物に心当たりがある」


 彼は懐から古い手帳を取り出しました。


「これはジョウギの手帳だ。この手帳の中に賢者ヨシノについて書かれているのだが、この文をみてくれ」

「ええっと、『彼女のもとにはよく色々な魔法使いが訪れていた。その度に彼女は、寂しがりの意地っ張り師匠! と怒鳴っていた』ですか……」

「なるほど、賢者ヨシノには師匠がいたのか」


 初耳でした。


「そしてこの師匠についての言及は他にもあるのだ。例えば『無駄に歳食った子ども』だの、『そんなに動きたくないなら、そのまま大樹になっちまえ!』だの、『ツンだけエルフは流行らないわよ! デレもちょうだい!』とか。よくこんな愚痴をいっていたそうだ」

「なんだそのツンだのデレだのは……というか、エルフだと?」

「そうだ。賢者ヨシノの師匠はエルフなのだ。ただ、具体的な名前は分からない。君なら知っているのではないか?」


 セイランは首を横に振りました。


「国の外にいるエルフは少なく、それゆえに全員把握しているが、賢者ヨシノの師匠をやってた者など知らないな」


 彼女はう~んと首を傾げています。


「……ともかく、私が知っているのはここまでだ。それと、グフウ」


 メモリは私に手帳を渡してきました。

 

「これは君が持っておきなさい」

「え、しかし」

「彼に子供はいない。しかし、彼が我が子のように可愛がっていた、そして死ぬ前に謝りたいと幼子がいるそうだ」

「それは……」


 私は動揺しました。セイランが私の手を握ってくれます。それで、少し心が落ち着きました。


「……手帳、ありがとうございます」

「持つべきもののところに返したまでだ。さて、これにて報酬は以上だ。良い旅を」

「ありがとうございます」

「またな」


 私たちはメモリと分かれました。


 宿へと戻っている最中、セイランが大きな声を出します。


「あっ、アイツかッ!! ああ、もう!」

「え、どうかしたのですか?」


 私の質問には答えず、彼女は何度もデカイため息を吐いたり、頭を抑えたり、うずくまったりします。


「だから、どうしたんですか?」

「シオリだ」

「え、シオリ……? 誰です……あ、もしかしてっ」

「そうだ。ハイエルフのシオリだ。クソババアがヨシノの師匠なのだ! ……たぶん」


 セイランは頭を抱えて叫びます。


「あぁ~~嫌だ嫌だ!! クソババアに会いたくない!! 死んでも嫌だ!」

「分かりますよ、その気持ち」


 シオリと並んで面倒なエルダードワーフのクロガネ。


 クソジジイの彼に会えといわれたら、私も駄々をこねるでしょう。というか、ホントに会いたくない。


「どうしますか? 私一人で会いにいきますけど」

「…………いや、アタシも行く。顔を出せと言われているしな」


 苦渋の表情のセイラン。少し気の毒です。


「ところで、シオリは今どこにいるのですか?」

「……確か、北の果てのグレンツヴェート魔法都市だったか」

「なら、そこが次の目的地ですね」


 予定が決まりました。


 私たちは旅支度を整えたあと、フルーア王国の王都を出発しました。

いつも読んで下さりありがとうございます。

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