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ドワーフの魔術師  作者: イノナかノかワズ
ドワーフの魔術師とエルフ
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第27話 メモリと依頼

 原器を管理している老人に今すぐに会いに行くのは当然無理です。サワリがアポイントを取ってくれるようです。


 数日後。


「セイラン。行きますよ!」

「ちょっと待ってくれ。久しぶりに〝変化(へんげ)〟させるから手間取っているのだ」


 セイランは魔法具(アーティファクト)の大剣と巨斧に付与された変化(へんげ)の魔法を発動させ、腕輪に姿形を変えてそれぞれを両の手首に着けます。


 今日は王城にいくため、武器は持ち込めません。なので、変化(へんげ)で武器の姿形を誤魔化すのです。


 当然、私も杖を指輪に変化(へんげ)させて身に着けています。


 私たちはサワリの屋敷へ行き、サワリと共に王城へと入りました。


「うぅ……ひらひらして動きずらい」


 メイド服を着たセイランが顔をしかめながらロングスカートを抑え、馬車を降ります。耳がほんのり赤くなっていました。


其方(そなた)らの事を伏せるにはこれが一番だと思ったのであるが、やはり嫌か」

「い、いや。まぁ、少しくらいなら我慢できる。気にしないでくれ」


 サワリがいうには、召使の格好をして偉い主人に付き従っていれば、どんなに怪しい存在でも手続きなしで王城に入れるそうです。


 なので、私もセイランも召使の服を着ていました。私は執事服を着ています。


「ここだ」


 すれ違う人々にジロジロと見られながら、豪華絢爛で様々な匂いのする王城を歩くこと十分以上。サワリがある扉の前で止まりました。


 彼女はノックをして、扉を開きました。


 落ち着いた匂いがしました。


 丁寧に保管された古い紙とインクの匂い。年月を重ねた木製の調度品の柔らかな匂い。そして僅かばかりの埃の匂い。


 沢山の書類が納められた棚が並ぶその部屋には、二人のヒューマンがいました。


「所長。サワリ様が参りました」

「そうか」


 女性が白髪の男性に声をかけます。


 窓際の机で書き物をしていた彼はゆっくりと顔をあげ、私とセイランに視線を向けます。その眼鏡の奥底で理知を宿した紺の瞳が細められました。

 

 すぐにその視線の矛先はサワリに変わりました。好々爺然と微笑みます。


「これはサワリ殿。ようこそ、お越しくださいました」

「……何を企んでおる」

「それはこちらの台詞だと思うがね?」


 柔らかな声音が鋭い声音へと変わりました。


 そして彼はもう一度、その理知の瞳で私たちを見やります。


「エルフにドワーフの二人組。ボルボルゼンを倒した英雄であるな。彼らが何故そのような格好でここに?」

「事前に伝えたであろう。ついにボケたか?」

「妖精にかどわかされるのは、二十年後で十分であるが?」

「いつまで生きるつもりだ、爺め」

 

 呆れたサワリに一瞥もくれず、彼は女性を見やりました。


「ザンサ。サワリ殿にお茶をだしなさい」

「はい」


 私たちを見ました。


「セイラン殿、グフウ殿。奥で話をしましょう」


 隣の部屋に案内されました。


 向かい合った二つのソファーとローテブルだけがおかれた部屋でした。それ以外調度品はありません。


「座りなさい」


 ソファーの一つに座った彼は懐から定規と木筆(ぼくひつ)、紙を取り出して、何度も直線を引きます。


 木筆が紙を走る音だけが響きます。


 ……それにしても、あの定規。とても精度が高いです。ヒューマン最高峰の職人が作ったと言われて問答無用で信じるほどです。


 是が非とも、ああいう定規が欲しいです。


「……ふむ」


 満足そうに頷いた彼は定規と木筆をローテブルにおきました。


「失礼、英雄殿。お初にお目にかかる。私はフルーア王国の王国手工研究所の所長のメモリ・リネアールだ」

「アタシはセイラン。冒険者だ」

「私はグフウです」


 握手しました。


「それで、確か君たちは原器を見たいのであったか?」

「はい」


 メモリは首を横に振りました。


「当然断ろう。この私が陛下と聖女様に管理を任されているのだ。そうやすやすと、見せられるわけがない」

「そこをどうにかできませんか?」

鉄耳(ドワーフ)が何故、非魔法具(アーティファクト)の原器を見たがるか? 己が感覚を鍛える君たちには一番縁遠い存在だろう?」


 定規を弄びながら、彼は片眉をあげて挑発的に言いました。けれど、目は罪を推し量る裁判官のように鋭く細められています。


 私はその老成した雰囲気の飲まれていました。


「メモリ殿。アタシたちは――」

長耳(エルフ)は黙りなさい。私はそこの鉄耳(ドワーフ)に聞いているのだよ」

「う」


 ビシッと定規を向けられ、助け舟を出そうとしてくれたセイランは思わず黙り込んでしまいます。それほどまでの威圧が彼の言葉にはあるのです。


 けど、そのおかげで少し落ち着きました。深呼吸して口を開きます。


「まずは謝罪を。先ほどの自己紹介には間違いがありました」

「ほぅ」

「私は大魔術師ヨシノの弟子、ドワーフの魔術師、グフウと申します」

「やはり。彼女は神罰を逃れていたのか」

「っ、なぜ!?」


 彼は大して驚いた様子はありませんでした。それに、セイランが大きく驚きました。


「なにをそう驚く、長耳(エルフ)。賢者ヨシノはあの終りと流転の女神(カロスィロス)様に愛された者だ。一度の神罰、見逃されて当然であろう」

「……どういうことだ? 賢者ヨシノが死と輪廻の女神に愛されていただと? それで何故、神々の神罰が見逃される?」

「やはり。国を飛び出すような若い長耳(エルフ)は神々に対して浅薄だな」

「なんだとっ。アタシの信仰を愚弄するのかっ」


 セイランが両目を吊り上げます。


「そういうところだ、小娘。私は一言も君の(あつ)き信仰心について言及などしていない。言葉をよく吟味したまえ」

「ぐっ」


 歯噛みしました。


 彼女のそんな姿を見るのは初めてで、少し驚き、またこんな状況なのに頬を緩めてしまいます。知らない姿を見れて、嬉しいと思ってしまったのです。


 何故、それが嬉しいと思うのか自分でもわかりませんけど。


 メモリがジッとこちらを見ていました。


「君たちは仲がいいようだな」

「……ええ、大切な仲間です」

「そうか」


 彼はあごに手をあてて考え込みました。


「……依頼を出そう。その報酬として、原器を見せる。それでどうだ?」

「いいのですか?」

「私の気は短い。今すぐ頷く事をおすすめするが?」


 どうして急に見せてくれる気になったかはわかりませんが、師匠が作った物を見たいことには変わりありません。


「セイラン。依頼を受けてもいいですか?」

「あ、ああ」


 セイランに確認をとり、私はメモリに頷きました。


「ぜひ依頼を受けさせていただきます」

「そうか。なら後日、冒険者ギルドに指名依頼として出そう」

 

 「今日は一先ず帰ってくれ」という事でしょう。私たちは立ち上がりました。


「あ、二つほど尋ねたいことがあるのですがいいでしょうか?」

「二つとは業突く張りだな。なんだ?」

「一つは長さと重さ、魔力の非魔法具(アーティファクト)測定器はどこで手に入りますか? 手持ちのものが壊れてしまい」

「ふんっ。三つではないか。まぁ、いい」

「おっと」


 彼は手に持っていた定規を私に放り投げました。慌てて受け取ります。


「それは前払いだ。他の二つは報酬として加えよう」

「……いいのですか? メモリ殿の物では」

「私の物ではない。昨日作った物の一つだ。今さっき精度の確認も行った。いらないのであれば返してもらうが」

「いただきます!」


 深々と彼に頭をさげました。

 

「それでもう一つなのですが、師匠の故郷を知らないでしょうか?」

「賢者ヨシノの故郷か……」


 あごに手をあてて考え込んだメモリは首を横に振りました。


「知らないな。教会が情報を隠匿したのもあるが、もともと彼女は二十歳の時に突如として表舞台に現れた。それまでの過去を知る者は――」


 口を止めました。


「いや。一人心当たりがある」

「お、教えてください!」

「嫌だ。欲しければ、依頼を達成するのだな。文句はないな」


 鋭い目でそう言われれば、否とはいえません。


 隣の部屋に戻りました。


「話し合いは終わったようであるな」

「はい。依頼を受け、それを達成したら見せてもらえることになりました。サワリ殿。ここまでありがとうございます」

「よいよい。では、爺。我らはここで失礼させてもらうぞ」

「もう来るな。激烈女狐」

「我にそのような口をきけるのは、爺くらいであろう」


 肩を竦めたサワリの後ろを歩き部屋を出ようとした時、メモリが口を開きました。


「グフウ。君は本当に魔術師か?」

「ん? 正真正銘の魔術師ですよ」

「……そうか。では、魔術師グフウ。それと長耳(エルフ)の小娘――」

「セイランだ。戦士のセイランだ」

「そう、戦士セイラン。依頼の達成を楽しみにしている」


 挑発的に口角をあげた彼に頭を下げ、私たちは部屋を出ました。

いつも読んで下さりありがとうございます。

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