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ドワーフの魔術師  作者: イノナかノかワズ
ドワーフの魔術師とエルフ

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第25話 山道と鍛冶魔法

 山道を進みます。


 寒さを越えたことを祝うような鳥のさえずりが聞こえます。腹いっぱいにご飯が食べられる希望に満ちた獣の足音が響きます。


 子どもの笑い声のように元気いっぱいで、それでいて柔肌のように滑らかな葉擦れが降り注ぎます。


 冬は大地の深いところに潜り、春が天真爛漫に(わら)っています。


「ふふ。よしよし」


 セイランが破顔し、肩に乗ったリスやカエルなどを撫でていました。


「嬉しそうですね」

「ああ。春だからな。冬も好きだが、自然の息吹を感じる春も好きだ」

「エルフは春夏秋冬全部好きでしょう」

「そうだが、微妙に好きの種類が違うのだ」


 「ドワーフは分かっていないな」と言いながら人差し指を立てます。


「春は、嬉しくなる好きなのだ。自然の力強さが芽吹く様を見て、その未来を想像して嬉しくなるのだ。夏は、喜ばしくなるのだ。春に芽吹いた自然が悠々と成長して燦々(さんさん)と輝くその姿を実感できる。それが喜ばしい。秋は――」


 饒舌です。こうなったらエルフのその高慢で滑らかな口を止めることはできません。


 ドワーフとして話に難癖を付けるためにキチンと聞きますが、面倒くさいことには変わりありません。


 自然崇拝者(エルフ)め。


「はぁ」

「ん? どうした? ドワーフの癖に疲れたのか?」


 ハンッと鼻で笑ってきます。


「オークの群れに負けそうになった貴方は少し黙ってください」

「っ! い、いや、あれは負けそうになったわけではないし、単に休憩していたというか」

「呪いで眠らされていただけなのによくいいますね。私がこなかったら死んでいましたよ。だいたい、無謀な勝負を挑み過ぎなのですよ」


 この戦闘狂(バトルジャンキー)は行く先々で魔物討伐の依頼があるとすぐに受けたがるのです。冒険者ギルドに入ったらすぐに強い魔物はいないか、とハイテンションで確認するのです。


 時には私に黙って勝手に討伐の依頼を受け、一人で出発することすらあります。


 ともかく、ここ数ヵ月。


 悪神の加護を受けたオークの群れに単騎で突っ込んだセイランを助けたり、ダンジョン攻略や泥濘王の討伐などに付き合わされたり、大変でした。


 おかげで本来なら春前に王都に辿り着いていたはずなのに、今や春の半ばも過ぎて終わりに差し掛かっていました。


「たった三ヵ月くらいいいだろう」

「それはそうですけど、貴方に言われると癪なんですよ」

「お前だって『魔物の魔法の研究ができる!』ってノリノリだったくせに。だいたい、遅れたのはお前が魔法書目当てに、一ヵ月間の炭鉱での穴掘り依頼を受けたからだろう」

「あれは必要なことです。穴掘りをしないで何がドワーフですか」


 それに『つるはしの汚れを全て落とす魔法』という伝説級の魔法が記された魔法書が報酬だったのです。受けないわけにはいかないでしょう!


「これだからモグラは。山があんなに悲惨な姿になって」

「魔物を狩りつくしている貴方には言われたくありませんよ。エルフは必要以上の殺生はしないのではないのですか?」

「だから、依頼と食料調達など、必要な時しか魔物を討伐していないだろう」

「詭弁では?」

「ようは自然の範疇を越えて狩りつくさなければいいことだ。食うか食われるか。生きるか死ぬか。狩る事は自然の摂理だ」


 セイランが地図を取り出します。


「ともかくこの山を越えれば王都にたどり着く」

「本当ですか? あのまま大街道を歩いていた方がよかったので。魔物も多いですし」

「こっちの方が近いのだ。山に入りたかったとかそういう理由ではない」


 絶対にそれが理由でしょう。呆れかえります。


「セイラン」

「アタシが先行する」


 私とセイランは走り出しました。


 魔力探知が捉えたのです。


「「「キュウ!!」」」

「く、くるなら来い! ぼ、僕が相手してやる! (じい)には絶対に手出しさせないぞ!」

「ぼ、坊ちゃん! なりません! 逃げてください!」


 山道の少し前をいっていた馬車が魔物に襲われたのを。


 背丈的に大人でしょう。


 ヒューマンの若い男性が震えながらもひげを生やしたヒューマンの老人を庇って剣を握り、炎の針を生やした巨大ハリネズミ三匹と対峙していました。


 そして炎の針を生やした巨大ハリネズミが、炎を吐こうとした瞬間に。


「伏せろッ!」

「「「キュウ!?」」」

「のわっ!?」


 セイランが跳んで、炎の針を生やしたハリネズミに大剣と巨斧を振り下ろします。二匹はそのまま叩き潰されましたが、一匹は寸でのところでセイランの攻撃を躱しました。


「キュキュウ!」

「〝魔の光よ。(コロル・)翔りて(ウーナ・)穿て――魔弾(ゲヴェーア)〟」


 すかさず〝魔弾(ゲヴェーア)〟を放って、逃げた炎の針を生やした巨大ハリネズミをしとめます。


 セイランは腰を抜かした若い男性に手を差し出します。


「怪我はないか?」

「は、はい……ッ、それより爺をっ」

「う、うぅ……」


 ひげを生やした老人は腹部から血を流し、うずくまっていました。


 すぐに私が水魔術で患部を洗い流し、回復魔術で簡単な治癒を行って回復薬を塗ります。


「これで大丈夫でしょう。しばらくすれば起きます」

「あ、ありがとうございます!」


 何度も頭を下げていた若い男性は、思い出したようにハッと顔をあげます。


「……って馬車っ!」


 車輪部分が大破している馬車に駆け寄りました。その馬車はかなり立派です。


「ギタレ家はおしまいだぁぁ!」


 膝をついて慟哭を響かせます。その馬車はよほど大切なものなのでしょう。


 さらりとそれを無視して、炎の針を生やしたハリネズミに立って私は一拍手一礼を、セイランは胸の前で手を合わせます。


 それが終わったら、鮮度が落ちないうちに血抜きと解体を素早く行います。


 その頃には若い男性は落ち着いていました。


「ともかく、もうすぐ日が暮れるし、そこの執事のこともある。今日はここで野宿することを推奨するぞ」

「……はい」


 若い男性は意気消沈しながら頷きました。


「グフウ。テントの骨組みを頼む」

「はい」 


 山の中で山道はあまり開けていません。小屋を建てるのは難しいので、支柱を作りそこのテントの天幕を被せます。打って固定しました。


 ひげを生やした男性、執事さんが目を覚ましました。若い男性以上に何度も頭を下げられ、ちょっと困りました。


 夕食の準備をしながら、彼らの身の上話を聞きます。


「その身なり、やはり貴族か」

「貧乏男爵なので、平民と変わらないですよ」


 どうやら若い男性、ガクソウ・ギタレというそうです。執事さんはサイバラというようです。


「サイバラさん。それ、お玉じゃなくて枝ですよ」

「おっと失礼。目が悪いもので」


 落ちていた枝で汁物をお椀に(よそ)ろうとしたサイバラさんにお玉を渡しつつ、ガクソウの話を聞きます。


「それでその貧乏貴族が何故こんな危険な山道を? ここは魔物が多い。大街道を使ったほうが安全だったと思うが」


 危険な山道をわざわざ選ばないでくださいよ、とセイランにジト目を向けます。彼女は無視しました。


「明後日までに僕が王都にいかなければならないんです。でないと、ギタレ家が、妹が……」

「ふむ。借金のカタか?」

「……まぁ、はい。そんなところです」

「なら、私たちが護衛しましょうか? お礼は少なからず頂きますが、明後日にはたどり着きますよ」

「いえ、もうだめなのです。馬車がこの有様では」


 車輪が大破した馬車を見やります。


「この馬車はサワリ様……あるお方から借りた物なのです。それを僕が返しに行く。それが条件だったのですが」

「馬車が大破して、それが叶わなくなったと」

「……はい」


 セイランがチラリと私を見てきました。


「ガクソウ。報酬はどれほど出せますか?」

「え? あ、お、お金はあまり……」

「なら、魔法書や珍しい魔法の知識は持ってますか? 魔法に関することなら何でもいいです」

「ええっと……あっ! ドの音をソの音に変える魔法書ならありますけど……」


 なんですか、その魔法っ! 音を変える魔法なんて聞いた事がありません!


「ください! そしたら、馬車を修理して王都に届けてあげましょう!」

「え、あ、こんな魔法でいいのかっ?」

「こんな魔法ではありません! 素晴らしい魔法ですよ!」

「そ、そうなんだ……。たまたま作れただけなんだけど」


 ということで、大破した車輪部分を調べました。近くには残骸が広がっています。


「これなら、手持ち金属材料と近くの木材でどうにかなりますね」

「グフウ。その前に夕食だ。冷める」


 トランクから紙と木筆、(つち)などを取り出し、早速修理作業に取り掛かろうとしてセイランに止められました。


 夕食を食べます。


「さて、作りますか!」


 まず、簡易の設計図を紙と木筆を使って描きます。


 次に魔術で簡易の鍛冶場を作り出し、炎で熱したインゴットを金床(かなどこ)におきます。


 そして設計図を基に完成形をイメージしながら、魔力を込めて握りしめた鎚を振り下ろします。


「ハァッ!」

「……凄い」


 カンッとどこか軽妙でありながら心に響く音と共に、火花と魔力が花となって散り、イメージ通りにインゴットが形を変えます。


「鍛えよ鍛えよ! トンカントンカン!! 想い描け! 心を込めろ!」


 何度も何度も、一振り一振りに心血(イメージ)を込めてインゴットを鍛えます。そのたびに火花と魔力の花が咲くのです。


「す、凄い。叩くだけで四角い金属が円に変わっていく……。魔法みたいだ」

「実際、鍛冶魔法はそういうものだ。鎚を一振りするだけで、想像通りに形を変える。コイツは腐ってもドワーフなのだ」


 ガクソウとセイランが何かいっていますが、無視です。鍛えるのに全神経を注ぎます。


 他の金属や木材を混合させながら何度も何度も叩き、車輪を四つ作りました。


「こ、壊れる前の車輪と瓜二つだ。完成形を見ていないのに、何故……」

「残骸一つ一つにこもった思念を見れば、元がどんな形だったのかすぐに分かります」


 私は今しがた作った車輪を四つ、馬車に取り付けようとしました。


「おい、待て。グフウ。それは取り付けられないぞ」

「私が鍛えた車輪のどこがいけないのですか?」

「つなぎ目だ」

「はい?」

「その車輪、金属部分と木材のつなぎ目がないだろう」

「当り前じゃないですか。一緒に鍛えたのですから」


 セイランがやれやれとため息を吐きました。


「ヒューマンはつなぎ目がない物を作れない。基本は部品の組み合わせだ」

「……あ」


 そうでした。鍛冶魔法を使える者は少ないのです。


 残骸を見ても鍛冶魔法が使われた形跡はありませんし、ヒューマンたちの技術で再現しなければなりませんでした。


「……作り直します」


 作り直しました。

いつも読んで下さりありがとうございます。

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