闇を照らす光
君は気づいているだろうか、すでに私がここに居ることを。
君の周りには大勢の人たちがいて、君を必死に励ましている。だけど君がどれだけ辛く、苦しい思いをしているのかは知らない。
それはそうだろう。死の真実を知っているのは、死んだ者と私たちだけなのだから。そしてそれは決して生きている者へ語られることはない。
彼らの流す涙も、彼らの君にかける言葉も、君を真に救うことなど出来ない。それが出来るのは我々だけだ。
彼女の目から一筋の涙が流れた。誰かが「お医者様を!」と叫ぶ声もする。もう十分だろう。君はよく頑張った。彼らの期待に必死に答えた。
私は部屋の隅からそっと離れると、目を瞑る彼女の側へと近づく。そしてその体ではなく、魂にそっと触れた。そして時が来たのだと彼女に知らせてやる。
それを合図に、彼女の体から白いもやのようなものが浮かび上がった。その横では医者が除細動に反応しない彼女に、看護師に対して「エピネフリン!」と叫ぶのが聞こえる。
それに効果などはない。彼女は彼らの手から、もう私の手へと移っている。たとえそれが効果を発揮したとしても、それは彼女の苦しみを長引かせるだけのことだ。
白いもやは、かつての住処であった彼女の体の上で小さく渦を巻くと、その下に横たわる彼女の体の形へと変わっていく。まだ自分が生きていた頃の名残だ。しかしそれもすぐに消え去ることだろう。
私はまだ体の記憶を留めている彼女の手を取った。それが行くべき先、彼女の帰るべき所へ案内するために。だが不意に彼女が目を開いてこちらを見る。正しくは、魂がその様な仕草をしたとでも言うべきかもしれない。
「ずっと分かっていました」
彼女の言葉が、存在しないはずの私の心に響く。幾度となく魂を導いてきた私だが、このような事は初めてだ。
「あなたが側にいてくれたことを」
彼女の魂が言葉を続ける。
「ああ、やっとお会いできた」