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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ゆるい短編

名もなき勇者の消失

作者: 閑古鳥

勇者と呼ばれる者が居ました。

魔女を滅ぼす勇者です。

一番強い魔の物である、魔女を殺す勇者です。


小さな小さな村でその勇者は生まれました。

勇者はすくすく成長します。

小さな剣で魔物と戦えるようになりました。

大きな剣で魔物を倒せるようになりました。

勇者の剣でたくさん魔物を殺せるようになりました。

そうして強くなった勇者は魔女を殺すための旅を始めました。


勇者は世界を旅します。

たくさんの村を周りました。

たくさんの街に行きました。

そうして旅をしてたくさんの魔物を殺します。

勇者が進んだその後に、魔物は残っていませんでした。


勇者が魔物を殺す度に人はその活躍を褒めたたえます。

「さすが勇者様だ! 勇者様はすごい!」

勇者はいつもそれに笑って応えます。

「魔物を殺すのが俺の役割ですから」

それを聞いて人々はまた喜びます。

「なんて優しい勇者様だろう!」

勇者は再び笑います。

「いいえ、それが俺の役割ですから」


勇者は旅を続けます。

人の歓声を浴びながら、魔物の血を浴びながら。

それが勇者の役割です。

それ以外に勇者の役割はありません。

だから勇者は進むのです。


勇者はとうとう魔女の城へと辿り着きました。

小さな小さな村を出発してから2年の月日が経っていました。


空っぽの城の中を勇者は迷うことなく進みます。

魔女が居るのは一番奥の部屋。

それを勇者は知っているからです。


勇者が魔女の部屋へとたどり着くと、魔女は笑って言いました。

「ああ、来たんだね」

勇者は笑って応えます。

「ああ、来たよ」

魔女は勇者に近づいてぐっと頭上へ手を伸ばします。

「よくがんばったね。おつかれさま」

勇者の頭を撫でた魔女は、一歩下がって勇者に言いました。

「さあ、君の役目を果たしなさい」


そして勇者は魔女を殺しました。

勇者が小さな小さな村へ戻るまでの道のりは、人々の喜びの声で満たされていました。

勇者の剣をあるべき場所に戻し、勇者は一人小さな小さな村へと戻りました。

勇者が持っているのはたった一つ、小さなナイフだけ。

それだけあればもう勇者は何もいりません。


小さな小さな村の奥、少し開けた森の広場。

たくさんのナイフが転がるそこが勇者の終わりの場所でした。


ぐさり


小さなナイフで心臓を一突き。

それで勇者の役割は全部終わりです。

勇者は最後まで笑っていました。

それが勇者の役割だからです。

勇者は役割を果たして満足して死ぬのです。

だから勇者はずっと笑っていました。


けれど勇者は知りませんでした。

勇者が死ぬ一瞬だけ前に、なぜか勇者の瞳から

水が一滴、零れ落ちていたことを。


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