第7話 紅一女とはなむけの歌
さて、紅一女とは、いったい誰なんでしょう?(笑)
パジャマ姿で映画室に戻って来る。
今はスクリーンには何も映ってはいない。シン!とした部屋の中。
『お疲れ様!』
と、あの優しい声
うん! 色んな意味で“ゆでダコ”になっちゃったよ
『ハハ そうだね』
でも、まあ、とにかく、色々アレだけど… なんとかやっていきますわヨ
『やっていただいてくださいませ』と“影日向くん”の声が笑った。
『さて、杏ちゃんの体も大変だから、今日はそろそろボクを”脱いで”もらおうか。膝で立って床に手をついてもらえる?』
“影日向くん”の言う通り、床に手をつくと、いきなり体ごとゴソッ!!と下に引っ張られる感じがして、一瞬、あどけない金髪の美少年の顔が見えた気がする。
でも、今は、私はまるでパジャマ姿の影日向くんを押し倒したような恰好になっている!?
慌てて飛びのくと影日向くんはニコニコと身を起こした。
苦労して着たパジャマ姿が私の目の前にあるものだから、何だかとても不思議な感じだ。
でも、やっぱりこれが本当の影日向くんなんだという気がする。
その影日向くんが私に右手を差し出した。
「また仁義切るの?」 あ、私の声に戻っている
パジャマ姿の影日向くんは吹き出して笑った。
「やっぱり杏ちゃんは面白い!」
左手でおなかを押さえながら「これからも、よろしく」と右手を差し出した。
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「今日はこのパジャマ姿のままで寝るよ」と言う影日向くんを残して、私はセンパイの待つ部屋に戻った。
やっぱり自分のカラダは動きやすい。今なら本来の箸さばきを見せられるのに…
「おかえり~」短パンにTシャツ姿のセンパイはマンガ本をガチ読みしたまま迎えてくれる。
「杏ちゃんとしてもお風呂入ってきたら…アンダーはクローゼットの引き出しの中」
よほど面白いマンガのようだ。センパイが夢中でマンガ読むなんて凄く意外だけど…
「『この女!マンガばっかり読みやがって』って思ってるでしょ?」とセンパイはマンガから目を離さずに言う。
「まぁ勘弁して!私、今まで、ほぼマンガ読んだ事ないの。自分では1冊も持っていないし。シーラカンスみたいな生きた化石レベルなの」
「それは…」と言い掛けたけど、言葉飲み込んでクローゼットの方へ歩いて行く。
「せっかくだから!私とお揃い着てね。出してあるから」とセンパイの声が追いかけて来た。
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お泊りはお泊りでも温泉に入りに来たわけではないから
さすがに2連チャンは疲れるかな…
1回目はのぼせるくらいに湯船につかっていたし…
なんて言い訳して、髪はタオルでゴシゴシ拭いたままだ。
このままだと、またひどい寝ぐせかなぁ~
この点では影日向くんで居る事の方が便利。
ドアを開けると横並びに布団が二組敷いてあって、その一つの上に、センパイがちょこんと座っている。
この人は何をしていても本当に綺麗で可愛い。
しかしこの状況…
短パンとTシャツはお揃いだし…
私ら新婚さんかよ!
楽しいけど
センパイが「おいでおいで」するので寄ってみると、ペタン!頬をくっつけられた。
「またホカホカだね」
ひょえぇ~!!
ますますのぼせちゃうじゃないですか!!
あ、またいたずらっ子の目だ。
「さっきから何、読んでたんですか?」
と無理やり流れを変えたくて、積み上がった山から1冊手に取った。
「えっ?! 『紅一女』?」
中を開いてみる。
確かにお母さんの絵だ!
モノクロだし、今より線は荒くて強いけど…
何だろう?
オーラ?
何か絵にエネルギーがある。
ざわざわっとした感じ
で、ページをめくっていくと
思いっ!!切りっ!! エロいじゃん!!
どうりでお母さんの本がウチには1冊もない訳だ!!
「これじゃぁ 教育上良くないよね」思わず声に出してしまう。
「あら?! そうかしら? 確かに大胆なシーン?のオンパレードだけど、お話自体は優しくて可愛くて、そして切ない。でも杏ちゃんはやっぱり嫌かしら?」
「嫌も何も…」
私はちょっと言いよどんでしまう。
ああもう!!さっきから顔が熱くなりっぱなしだよ!
でも、センパイがこんなに目をキラキラさせて語るのだから…
ボソッ!という
「あの…『紅一女』って、ウチの母なんですよね。一応今でもイラスト描いてます。アルバイトで…」
「ええええっ!!」
センパイにガシッ!!と両腕を掴まれた。
「今度、お母様に会わせていただけません?」
あまりの勢いに目が点だ。今日は色んな事で驚かされたけど、センパイについてはこれが一番の驚きかも…
「ウチの母もぜひセンパイにお会いしたいと言ってます。いつもいつも」
センパイは突然、私をマンガ本ごと胸に抱きしめた。
「ああ!!本当に嬉しい! 私は杏ちゃんともう離れられない!!」
もし、私が今、影日向くんを着ていたら…
弓矢でハートを射抜かれていたと思う。
この人こそ最強なんだ!きっと…
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ちょっとエッチっぽい表現だと、お互いの温かさをしっかり確認してから、センパイはようやく私を離してくれた。
で、何をするかと思えば、横書きの可愛い封筒を手渡しされた。
「?」
「表書きを見て」
封筒をひっくり返すと
『影日向くんを知る事になったあなたへ』と書かれている。
中には、便箋に書かれた手紙と、7cmくらいのビタミンカラーの四角いケースに入ったCDみたいなもの
読んでみる
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『ようこそ!
この手紙を読んでいる、今より未来に居るあなたへ
私は、もう少しで影日向くんを卒業します。
影日向くんに何をお願いするかは、まだ決めかねています。
これは意外と難しい宿題なので、あなたも早いうちから考えておいてね。
影日向くんとの高校生活は楽し過ぎて、あっという間だから』
私は手紙から目を離して「『お願い』って知っています?」と聞いてみるが、センパイもまだ意味を知らないようだ。
『さて、これから影日向くんと高校生活を過ごすあなたへ
はなむけの言葉の代わりに音楽を詰め込んでみました。
私も先輩からテープをもらったのだけど、今はMDでしょ? やっぱり
この曲たちは私のお気に入りです。
そして1曲目は、ずっとずっと前の先輩から伝わっている曲です。
そして私も、気に入りました。
あなたの高校生活がとても楽しく、充実したものになる事を切に願っています。
20世紀末に確かに存在していた先輩より 愛を込めて
p.s. オリジナルのレコードがこの部屋か物置のどこかにあるそうです。気が向いたら探してみてね。派手なジャケットらしいから』
センパイは私の横から手紙を覗き込んだ。
「素敵でしょ? 私達へのラブレターだよね。
この間、部屋を整理していてこれを見つけた時、絶対、杏ちゃんと一緒にって思ったの」
ケースにはインデックスがあって、曲名が書かれている
「あ、モー娘とか椎名林檎がある」
「杏ちゃん。よく知っているのね。私は全然」とセンパイは肩をすくめる。
「お母さんが好きなんです」
「一女先生が好きな曲なんて楽しみ」
「1曲目は…キャプていん??」
「captain fantastic and the brown dirt cowboy」とセンパイは流暢な発音だ。
「それでは」とセンパイは立ち上がって、かなり大きなラジカセを持ってきた。同じようなものがお母さんの部屋にあるから分かるのだ。
ただ違うのは正面のカセットテープの入口の他に、このMDの差し込み口がある事だ。
センパイがMDを差し込み、私のそばに寄り添ってリモコンを操作する。
ラジカセがイントロを奏で出した。
この曲がキャプテンファンタスティック?
英語だから歌詞はよく?わからないけど…
何だか
ワクワクする。
いつの間にか私たちは
手をしっかりつないでいた。
センパイ!
「最高のアドベンチャー」って!
分かってきた
気がします。
Elton John のCaptain Fantastic and the Brown Dirt Cowboy(アルバムも同じタイトル)はとてもカッコイイ曲なので、まだ出会ったことのない方は一度聴いてみて下さい。
えっ?『楓はこの曲を誰に教えてもらったの?』ですか?(^^;)
えっと それは
ヒミツです。( *´艸`)
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