第5話 アイスランドの“トラサン” ①
“トムクルーズのレスタト”より凄い美青年が登場
杏ちゃんがいよいよ影日向くんを着ます。
ドアを開けた。
向うの壁いっぱいのスクリーンに映画が映し出されている。
部屋の真ん中にはソファーが置かれていて、誰かが深く座って映画を観ている。
こちらからは頭だけしか見えないけど、目の覚めるようなブロンドの長い髪の女性だ。
これがきっと『プラチナブロンド』という髪色なのだろう。
スクリーンに、見慣れた風景が広がった。
日本映画?
参道? お寺?
あ!、“トラサン”だ!
若い(とは言っても私の方がたぶん若いか…)女性が“トラサン”観るんだ。
でもまあ、今はそんな話ではない。
「あのっ! こちらに影日向くんは来ていませんか?」
プラチナブロンドの女性はスクリーンの前でゆっくり立ち上がった。
背がとても高い。
ガッシリ系?
男性?!
振り向いたその人は、青年だった。
私は驚いて手に持ったものを取り落としてしまった。
落とした洗面器が転がっていた先にはとんでもない美青年が居た。
肌は輝くように白く、それにかかる髪のひと房ひと房はまるで貴金属のような光を放っている。
どこかの彫刻のような彫りの深い顔立ち。
そして明るいエメラルドグリーンの神秘的な瞳。
もし、お母さんがカレを見たら
きっと狂喜乱舞するだろう!!
そのカレが、大きなストライドで私に近づいて来る。
と、いきなり前かがみになり、右手を前に差し出した。
えっ?!
仁義切るの??
「遅ればせの仁義、失礼さんでござんす。
わたくし、生まれはアイスランドです。オーロラの下で産湯を使い、 姓は日向、名はエイジ、
人呼んで "引きこもりの影日向" と発します。 不思議な縁持ちまして、ラファエル学園のために粉骨砕身に励もうと思っております。
西に行きましても東に行きましても、とかく土地のおあにいさん、おあねえさんにごやっかいかけがちな若僧でございます。
以後、見苦しき面体、お見知りおかれまして恐惶万端引き立てて、 よろしく、お頼み申します。」
勢いよく仁義を切っているのに、なんて深く優しい声
呆然する私に“影日向くん”はにっこり微笑んだ。
「やっと来てくれたね 杏ちゃん」
そう言って洗面器を手渡された。
うそ!これが影日向くん?! うそっ!! センパイはこんな人の前で裸になったの??
私は顔は熱くなるし、あまりの事に頭がクラクラした。
「“着る”の?! 本当に私、この人を“着る”の?!!!」
「やっぱり“素”のボクは違和感あるかな? 『目立ち過ぎる』と尊子さんにはいつも言われるんだけど…」
ええ!ええ! 100m先からだってわかりますよ!!
“影日向くん”は私の表情を見て
「ボクもいつもの学ランで『俺、俺』言ってる方が好きなんだ」
取り乱しながらも、その言葉に私はかすかにカチン!ときた。
なぜだろう?
「それってオレオレ詐欺じゃないですか?」
「やっぱり杏ちゃんは面白い」
“影日向くん”はキラキラの緑の瞳で覗き込みながら、私の頭にそっと手を置いた。
全身が一瞬ゾック!として、さわさわと暖かい空気みたいなものに包まれた。
顔を寄せてくる“影日向くん”からはとても甘い香りがして私はボーっとしてしまう。
ヤバい!! これはきっと吸血鬼に魅入られた少女のパターンだ。
「フフフ 杏ちゃんは本当に面白い。ボクは取って食べたりしないよ」
と今度は私の手を取った。
私、きっと顔、真っ赤かだ!
「では、説明するね。 ボクは精霊というものらしい。 見える人には姿を見つけてもらえるが、誰にでも発見してもらうためにはヒトの助けがいる。
例えばヒトと手を繋ぐと、そのヒトを介してボクも一緒に見つけてもらえる。
そして、ヒトにボクの中に入ってもらえれば、そのヒトが見たり聞いたり感じたりする事をボクも同時に受け止めることができる」
それが“着る”ってことなんだ。
「ただ残念なことにボクを“着る”ことができるのは女性だけなんだ」
「男の子はできないの?」
「そうだね… ボクの女性版が居れば、逆に男性しか“着れ”ないのかも」
“影日向くん”の女性版なんて、“着る”前にきっと男子は卒倒してしまうだろう。
「ハハハハハ キミは感情を“核外”に放出するタイプのヒトなんだね。しかも考えている事がいちいち面白い」
こころ読まれてる? 今も?!
「うん」と返事されてしまう
あ~っ!!! 恥ずかしい!!
「バカッ!!」
美青年を思いっ切りぶっ叩いてしまった。
こんな美青年をぶっ叩いた私は、まずお母さんからぶっ叩たかれるかも。
「ハハハハハ! これ以上すると杏ちゃんが崩壊するかもだね。 話続けるよ。
さっきキミが居た部屋が、ボクと“協力者”の人達の部屋。
今までの歴史がいっぱい詰まっている。
当時その子たちが好きだったもの。洋服にマンガや雑誌、カセット、レコード、ビデオ、DVD、エトセトラ
ボールや楽器とかもあったでしょ。あんまり量が多いので時々物置きにしまうんだけど、いつの間にか掘り出されてたりしてる。
奏ちゃんなんか今、むさぼり読んでいるよ。きっと」とキラキラ笑って言葉を継ぎ足した。
「ひょっとしたらラブレターとかあるかも」
確かに、全然見る余裕なかったけど色んな物が積み上がっていた。
面白そうだな…後で見てみよう。
「少し落ち着いた? では、ボクの“着かた”を説明するね。
まずボクが形を変えるから… そうだな…寒天とか、ういろうとか、ゼリーとか、こんにゃくみたいなグニャグニャした人型になるから。
そうしたら背中側から両腕を通して、グニャン!って被る。」
「グニャン?!」
「そう!グニャン!」
「では、さっそくやってみよう!!」
言うが早いか“影日向くん”は黒っぽい塊になった。
本当にういろうみたいだ!
ちょうどうつぶせになった形なので、後ろから覆いかぶさって、まず両腕をグニャン!と差し入れてみる。
さっきと同じ暖かさだ。
行けるかも!
目をつぶって一気に被った。
一瞬、頭がキン!として鉄が焼けるような匂いがする。
体に床のじゅうたんの硬さを感じて、ゆっくり目を開けてみる。
確かに床だ。
私、“詰襟”着てる…
と思ったら激しいムカムカ感!
慌てて置いてあった洗面器を抱え込んだ。
と、あの甘い香りがした、気がする。
同時に吐き気がすーっと治まった。
大丈夫かも
グニャン!って感じは私も着たことがないので分かりません(笑)
この回は②に続きます。m(__)m
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