いったんの終わりに
”ということで、付き合うことになりました!”
”はやっ! 早いよ坂東さん! 恋しなさいって言ってから一ヶ月も経ってないじゃない!”
”いやあ、不思議なもので。いろいろ相談乗っていただいてありがとうございました”
”いいけどね! ちょっと面倒だったけど結実したならいいけどね!”
”ほんと外村さんのおかげです。今度ごちそうさせてください”
”んー、坂東さんにはご飯やお酒じゃない感謝の伝え方があるんじゃない?”
”お金、ですか?”
”そんなわけないでしょ! 作品! 原稿ですよ作家先生!”
いちおう玲花のOKをもらって、編集の外村さんに報告する。
早い展開に驚いてたけど、外村さんは喜んでくれた。既婚者の余裕か。まあ俺も恋人いるわけだけど。
”わかりました、じゃあまたネタ出しますね”
”ネタかあ、もう一歩進んでタイムラインかサンプル文書だけでもいいよ?”
”え? いつもは本数出してその中から絞ったりくっつけたりブラッシュアップしたりで”
”言ったでしょ、感情を乗せなさいって。書きたいと思ったものを書いて、ぶちまけなさいって”
”それは聞きましたけど”
”新企画、ラブコメ期待してるよ?”
”ええっ!? ラブは書けないって知ってるじゃないですか!”
”好きが何かわかったのに?”
”ええ……? 言語化難しいんですけど……”
”いいじゃない、整えるのは編集の仕事よ。「これ面白いでしょ!」「これエモい!」「好きだー!」って気持ちのまま書いてみなさいって”
”マジで言ってます? 怖すぎません?”
”けど、ホームラン打ちたいでしょ? それともヒット狙いで技術を鍛えていく? そこは坂東さんの考え方次第だけど”
”うーん”
キッチンの換気扇の下でアイコスを吸う。
今日は一人だ。
昨日一昨日、横で一緒に吸った玲花の姿はない。
外村さんのメッセージを眺めながら、もし書くならとなんとなく妄想する。
考えても答えは出ない。
”書きたいことはたくさんあるけど、物語として成立するのか、面白いかどうかはわからないです”
”もちろん、売れるかどうかもね。それを考えるのは坂東さんじゃなくて僕の仕事!”
”なるほど……”
”ほら考えすぎない! とりあえず気軽な気持ちで企画かタイムラインかサンプルちょうだい? 書くか書かないかはそのあとでいいじゃない”
”……わかりました”
”よし! じゃあ恋愛モノで、気持ちをぶちまけてね!”
”その、異世界でもいいですか?”
”逃げが早いよ! まずは現代モノで! アジャストはそのあとすればいいから!”
”実体験ベースの恋愛モノって、これめっちゃ恥ずかしいですね”
”いや別に実体験をベースにしなくていいんだよ? キャラが恋愛したところにいまの感情を乗せればいいわけで”
”あっ。その、ノンフィクション風フィクションを想像してました”
”いいけどね! それでもいいけどね! 坂東さん浮かれてますね!?”
外村さんのツッコミで顔が赤くなる。
たしかに、現代恋愛モノだからって、実体験をベースにする必要はない。
いくら「ネタにしていい」からってそのまま書くのも、ねえ。
俺はすっかり浮かれてたらしい。
”感情を乗せる、気持ちをぶちまけるわけですからね、浮かれ気分のまま考えてみます”
”うん、坂東さんがそれでいいならいいけども……”
”じゃあまた、タイムラインかサンブル文章できたら送りますね!”
”了解ですー”
”もしくは相談事が出てきたら連絡しますね!”
”そこは恋人に相談しなさいよ! めんどくさいな坂東さん!”
”それでは、引き続きよろしくお願いします!”
送ったメッセージに既読がついた。
返信はない。
「うーん、そう言っても、そのまま書くのはなあ」
おたがいネタにするのはOKって言ってるけど、さすがに恥ずかしい。
けど、この感情を物語に乗せられたら、いままでと違うものは書けそうだ。
少なくとも短編ハッカソンで書いた『しのばずエレジイ』よりも、「好き」って感情は乗るだろう。
別に、俺と玲花がモデルじゃなくても。
「まあ、いろいろ考えてみよう。玲花に相談してもいいかも」
手の中でアイコスがぶるっと震える。
ボタンを押して電源を切る。
ヒートスティックを捨てる。
部屋の灰皿の横には、また要るかもしれないと、使い捨てライターが置かれていた。
いつでも、火を貸せるように。
こちらでいったん完結です。
気が向いたら続きを書くかもしれません。
なおこの物語はフィクションです。
あしからずご了承ください。





