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37歳、初恋。 〜あるいは接触した二重螺旋〜  作者: 坂東太郎
『第四章 執筆部屋を背にリビングにて』

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23/31

【1】


 首都高を降りて環八に入る。

 すぐ右折して甲州街道に出る。

 10分ほど走ると、ナビは右折をアナウンスする。


 1月2日。

 正月休みのせいか、都心を走る車は少ない。


 甲州街道は順調すぎるほどに流れていた。

 ナビが左折の指示を出す。従って曲がる。

 目的地付近に着いたらしい。


 信号待ちの間に前方を見やると、目的地が見えた。

 待ち合わせの、ドラッグストアの駐車場だ。

 23区から出てすぐの場所なのに、無料駐車場があるのは珍しい。


 アイドリングしたまま、スマホを手にする。


”いま着きました!”


”わ、早い! 私ちょっと先に行って買い物してようかなと思ってたんですけど、まだ着いてなくて”


”了解です、じゃあ合流してから買い物しましょうか”


”はい! もうすぐ着きます!”


 エンジンを切って外に出る。

 吐く息が白い。

 後部座席からコートを拾って羽織る。


 駐車場から歩道に出ると、見つけた。


 早足で、森田さんが歩いてくる。

 大きめのショルダーバッグで、今日はキャメル色のコートで。


「明けましておめでとうございます」


「明けましておめでとうございます。いつも私がいる場所に坂東さんってなんか不思議な感じです!」


「俺はこれから同じことを思うのかなあ。あ、駅伝は楽しめましたか?」


「はいっ! すみません、坂東さん途中までしか見られませんでしたよね?」


「いえその、上位争いと出身校がどうかぐらいは見ますけど、最後まではあんまり見ないんで」


「出身校!? え、今回も出てましたか!?」


「まあ、だいたい出てます。上位には絡まないけどシレッとシード権を確保してたり、予選会をあっさり通過してたりするもので」


「うーん、どこだろ。ヒント! もうちょっとヒントください!」


「いや別に隠すつもりもないんですけどね? あ、この前、箱根駅伝に出られなくてニュースになってました」


「はいわかったー! 秒でわかっちゃいましたー!」


「森田さん、積もる駅伝話はあとにして、先に買い物しちゃいません?」


「あっそうですね、すみませんテンション上がっちゃってて!」


「気にしないでください、俺もスポーツ見る時はそうなったりするんで」


「へえ、想像できないです!」


「けっこう叫んだりします。生観戦はともかく、テレビでも」


「ええっ!? 急に親近感!」


「えっいままで親近感なかったんですか? 部屋に初めてあげる女性なのに?」


「そう言われるとなんか緊張してきました。私が坂東さんの初めてでいいんんですか?」


「言い方言い方ァ! そういう初めてではないですし、いまの部屋に人を招くのが初めてなだけで!」


「過去にはあると。今日はその辺も聞かせてもらいましょうかねえ」


「うっ。いやそんな面白い話はないですよ? 聞きたいですか?」


「聞きたいです!」


「とりあえず買い物しましょう。部屋に食料も飲み物もお酒もないんで」


「はーい。今日はまだ長いですもんね!」


 二人でドラッグストアに入る。

 カゴを手に、まっすぐ飲み物コーナーに向かう。


「あ、何もないなら食べ物買っておいた方がいいですよね?」


「食べ物? おつまみではなく?」


「それは買いますけどー。それだけじゃなくて」


「まあそうですね。お昼は外で食べて、夜はご飯なりつまみなり買って帰りましょうか。家の近くにショッピングモールあるんで」


「おー、便利! あ、私作りましょうか?」


「森田さんの手料理……惹かれますけど、使いたい調味料があるかわからないんですよねえ。基本的なのはあると思うんですけど」


「うーん、その辺はお邪魔してから考えます!」


「はい、そうしてください。……なるほど、ちょっと緊張しますね」


 箱根駅伝が終わって、ドラッグストアで合流して。

 これから、森田さんを乗せて俺の部屋に帰る。


 高速使っても片道二時間前後かかるから、今日は森田さんを泊める予定だ。

 で、明日は俺の部屋で箱根駅伝を見ると。


「あれ? ビールひと缶とチューハイひと缶だけでいいんですか?」


「ちょっと坂東さん? 私どれだけ飲んべえだと思ってるんですか?」


「けっこう? あ、そういえばもらいもののビールが何缶かあるんだった。飲みます? 俺、家で晩酌しないんで」


「やったー! 遠慮なくいただきます!」


「ほら飲んべえじゃないですか」


「ダメですか?」


「いいと思います。楽しく飲めるタイプなら」


「心配しないでください、暴れませんよ!」


「ときどき外泊しちゃうけど?」


「たはー! 痛いとこ突かれたー!」


 メッセージのやり取りはしてた、通話もしてた。

 でも会ったのは10日ぶり? ぐらいだ。

 なのに、クリスマス前の時と同じように会話できることに安心する。

 森田さんもニコニコしてる。

 あれが安いこれはそうでもないと、広いドラッグストアを二人で歩いて、商品をカゴに入れていく。


「なんか、森田さんの日常に俺がいて不思議な感じってのもわかるんですけど、ずっとこうだった気もしてきます」


「わっかるー! あれ? いつもこんな感じだったよな?って思えてきちゃいます!」


「なんなんでしょうねこれ」


 お会計を済ませて車に向かう。


「どうぞ。ちなみに、家族や親戚以外を乗せるのも初めてです」


「おー、光栄です!」


 荷物を後部座席に置いて、森田さんを助手席に乗せる。

 そういえば、親や姉妹はだいたい後ろに乗せてる気がする。

 助手席に女の子を乗せられて、きっと車も喜んでることだろう。知らんけど。


「じゃあ、向かいます」


「はい、お願いします」


 買い物してる時は普通だったのに、なぜか緊張してきた。

 俺だけじゃなくて森田さんもそうらしい。


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