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37歳、初恋。 〜あるいは接触した二重螺旋〜  作者: 坂東太郎
『第三章 忘年会という名目のデート』

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【7】


「お待たせしましたー。はあ、スッキリです」


「え、森田さん早くないですか?」


「私わりとお風呂早いんですよ。あ、ひょっとしてAV見てました? 焦っちゃいました?」


「見てませんけども! じゃあ次は俺がシャワー使わせてもらいますね」


「あれ? お風呂はつからないんですか?」


「時間かかるしやめておきます」


 森田さんとすれ違う。

 ガウンの前は合わせてるけどずいぶん薄着になった。

 タオルを当てて水気を拭き取る姿は見ない。いい匂いもしない。しない。

 なんだろ、俺べつに経験ないわけじゃないのに、動揺がすごい。


 ざかざか服を脱いで風呂場に入る。

 ぬるめのシャワーにしたのはお酒が入ってるからだ。

 ざっと浴びて頭を冷やす。

 髪も体も洗うと、少し落ち着いてきた。


「よし。あとは寝るだけ。寝るだけだ。寝るのかあ。同じベッドで。寝れるかなあ」


 体が冷えないうちに拭いて、ガウンを羽織る。ちゃんとパンツは履いてる。あとお腹冷やさないようにインナーも着た。


「お待たせしました、って待ってないですね」


「うあー、ベッド気持ちいいですー。広い!」


 部屋に戻ると、森田さんはベッドに転がっていた。

 掛布団の中にいてくれてホッとする。ガウンははだけやすいので。


「はいどうぞ坂東さん」


「それもなんだか逆な気がしますね?」


「気のせいです!」


 ベッドの前でためらってると、森田さんがぺろっと掛布団をめくった。横をポンポン叩く。


「では、失礼します」


「かたい! かたいぞばんどうー!」


「突然の下ネタびっくりです」


「そこじゃないぞー! 下ネタに驚いたのこっちです!」


 ベッドに潜り込む。

 仰向けで、もぞもぞ落ち着くポジションを探す。

 と、左腕にしがみつかれた。

 手もつながれる。


「え、ええ? これで寝られます?」


「えっ? ほんとに寝るんですか?」


「えっ? 『何もしないから』って言ったの誰でしたっけ?」


「言いましたけど! マジかー! 坂東さんマジかー!」


「マジです。気をつけてください、いま必死で心を落ち着けてるんで」


「ラブホで『何もしない』ってなって、ほんとに何もしないのひさしぶりです」


「俺はラブホがひさしぶりです」


「『あなボロ』はけっこう実体験を書いてるんですよ。正直、ワンナイトでラブホってこともあって。幻滅しますか?」


「さっきも言ったの覚えてます? 俺は森田さんの表現が好きなんです。そういう経験があの表現を生んだなら、過去がどうでも幻滅しませんって」


「ううー!」


「いたっ。え、力つよっ」


「ほんとに何もしないんですか? 私そんなに魅力ないですか?」


「そうやって煽らないでください、いまなんとか獣を寝かしつけてるんです。森田さんはめっちゃ魅力的ですよ」


「しれっと言いやがってこれだからラノベ作家はー! ばんどうー!」


「それに、いま森田さんを抱いたら、セフレか、それで終わっちゃいそうで嫌なんです。信じられないぐらい今日が楽しかったんです。この気持ちわかります?」


「えーあんまりわからないですー」


「わからないかー。楽しくて、一緒に観劇とかいろんなところに行けそうで。抱いて終わりになりたくないんですよ。大事にしたいんですよ」


「えっ真顔で言う!? 直球でくる!?」


「すみません語彙が貧弱なものでうまく言えなくて」


「おい職業作家ー!」


 ラブホの広いベットで腕にしがみつかれて、手を繋いで。


 くだらないことを言って笑い合ってるうちに、いつの間にか俺たちは寝たらしい。


 けっきょく、本当に、何もしないで。



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