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37歳、初恋。 〜あるいは接触した二重螺旋〜  作者: 坂東太郎
『第三章 忘年会という名目のデート』

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14/31

【2】


 予約した店の店内も、そんな感じだった。


「うわお洒落。やたらお洒落」


「ですよねえ。前は男一人で入ってコレだったから落ち着かなくて」


「気持ちわかります。これは私も一人じゃ無理かな」


 薄暗い照明に謎の小物。

 店内にいるのは女の子グループかカップルか、合コンっぽい男女だけだ。

 男だけのむさ苦しいグループはない。

 田舎住みのラノベ作家が一人でタバコ吸ってることもない。今日はね!


 店員さんに案内されて窓際の席に向かう。


「森田さん、俺、左側でいいですか? なんか寝違えちゃって首が」


「ええっ!? 左右はどっちでもいいですけど、大丈夫ですかそれ?」


「昼はキツかったですけどね、だいぶほぐれてきました。お酒の飲んだらきっとよくなると思います」


「坂東さん弱いのに?」


「いやあ、緊張しちゃってシラフは無理ですって」


「緊張してる感ぜんぜんありませんよ? むしろこんなお洒落な店で『コイツ手慣れてるな』って思ってますけど」


「いやいやいやいや。吐きそうです。飲んでないのに」


「見えない……ポーカーフェイスなんですね」


「ほら、普段あんまり人と話さないもので。表情の作り方を忘れてるのかもしれません」


「またまたぁ。『読書会』は先週だし、短編ハッカソンもこの前でしたよね?」


「そうなんですよ、こんなに人と話してるのはひさしぶりです。大丈夫ですか? 声量でてます?」


「それ冗談ですか? 真面目に聞いてますか?」


「冗談です。普通の顔でシレッと冗談言うもので……」


「わかりにくっ! がんばって慣れますね!」


「前向きー! けど、一対一で人と話すのひさしぶりなんで、二時間ぐらいが限界かもしれません」


「みじかっ!……ちなみにいまのは?」


「本音です」


「了解ですー。じゃあしんどくなってきたら言ってくださいね」


「優しい……森田さん優しい……天使ですか?」


「酒とタバコが手放せない26歳女子です!」


「えっ女子の概念おかしくない? いやおかしくはないか、酒とタバコ好きな女子がいたって」


「真面目かー! ちなみにいまの『天使かよ』はボケだって気づきました!」


「あっはい」


「でもせっかくのデートなのに、2時間で終わりっていうのは寂しいですね。無理してほしくないですけど」


「案外平気かもしれません。いま、自然に話せてますから」


「やった! ふふ、なんだかうれしいです」


「……あ、お酒注文しましょうか。なに飲みます?」


「まずはビールで!」


「洒落た店らしい洒落た飲み物もありますよ?」


「まずはビールで!」


「ベリーベリージンジャエールってなんだ、ストロベリーとラズベリーとジンジャエール?」


「えー? 『とても』のベリーなんじゃないですか?」


「なるほどあり得る! じゃあそれで!」


「えっ」


「37歳男性ですけどお酒弱いんで……」


「何も言ってませんよ? 坂東さん可愛いの頼むなあとか思ってませんよ?」


「お酒弱いんで……あと甘いもの好きなんで……すみませーん」


 ようやく店員さんを呼ぶ。

 二人の飲み物を頼んで、その間に食べ物を選ぶ。

 どれも、見た目も名前も洒落てて可愛い感じになってる。お値段はあんまり可愛くない。まあバカ高いわけじゃないし、場所代と考えたらしょうがない。TOKYOこわい。


 店員さんが運んできたお酒は、俺と森田さんで逆になっていた。

 二人して、そりゃそうですよね、と笑いながら交換する。


「じゃあ、忘年会ということで。今年一年、お疲れさまでした! 乾杯!」


「デートということで。これからもよろしくお願いします、坂東さん。乾杯!」


 いたずらっぽい顔で笑う森田さんがジョッキを向けてくる。グラスを当てる。

 ベリーベリーラズベリーはなんだか甘酸っぱい味が——しない。


「ジンジャエールつよっ。え、予想外な味です」


「ビールうっま」


「森田さん、一口飲んでみます? 味見してみます?」


「あ、じゃあいただきます。うわっ」


 ベリーベリージンジャエールを口に含んだ森田さんが顔をしかめる。

 口を開け閉めする。


「そんな変な味でした? ジンジャー強いけどマズくはないと思うんですけど……」


「私、炭酸ダメなんです」


「ビール飲んでるのに?」


「ビールは別です!」


「『読書会』の時はハイボール飲んでたのに?」


「ハイボールも別です!」


「ホッピーも好きって言ってましたよね?」


「ホッピーも別です!」


「ぜんぶ炭酸入ってるじゃあん……わかった、ソフトドリンクの炭酸がダメなんですかね?」


「そうそれ! そういうことです!」


「これお酒ですけど?」


「たはー! お酒だったかー!」


 ぺしっと額に手を当てる古臭いリアクションをして、森田さんはごくごくビールを飲み干す。炭酸……。


 おかわりを頼むついでに、つまみも頼んだ。

 つまみだと俗世な感じがする。

 見た目にこだわった逸品料理をいくつか頼んだ。



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