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37歳、初恋。 〜あるいは接触した二重螺旋〜  作者: 坂東太郎
『第二章 二つの飲み会とデートのお誘い』

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12/31

【4】



”それでどうなったの?”


”それが、次の日にメッセージ来てですね”


”それはそうよ! その中身の話!”


”来週金曜はお時間どうでしょう?って具体的に”


”おーやるなあ坂東さん! 筆も早けりゃ手も早い!”


”いや手は出してないですし出すつもりないですよ?”


”えーなんでよ!”


”外村さん面白がってません? ちゃんと応援してくださいよ? 相談乗ってくださいよ?”


 短編ハッカソンの非公式『読書会』が終わった翌日。

 俺は、キッチンの換気扇の下、もはやイスにしか使ってない踏み台に座っていた。


 アイコス片手にスマホをいじる。

 メッセージの相手は先週「恋しなさい恋」と俺を煽った編集の外村さんだ。

 煽ったからには相談に乗ってもらおうと思って。

 なにしろ、シラフに戻った森田さんに、あらためてデートに誘われたもので。


”それで行くの? 行っちゃうつもりなの?”


”まあ忘年会兼、イベントお疲れさま会ということで”


”クリスマス時期にいい歳した男女が二人で忘年会ってこともないでしょ!”


”出会い厨。発想が出会い厨、もしくは直結厨”


”それで相談って? お店探し?”


”いや、それは予約したんです。時期が時期だし二人してスモーカーですからね、入れる店ならなんでもいいってわけじゃないんで”


”やるねえ坂東さん! どんな店にしたの?”


”二人とも行きやすい新宿で。で、前、新宿紀伊国屋の帰りに「喫煙できるカフェ」で検索して一人でふらっと行って、オシャレすぎて一服しただけですぐ出た店があるんですよ”


”ほうほう”


”女性連れで店に馴染む「リベンジ」させてくださいって言ってその店にしました”


”オシャレすぎる店に?”


”はい。しかも窓側、新宿の交差点を見下ろせる窓側の席に”


”かーっ! 「好きがわからない」とか言ってやり手か! やる気か!”


”いやいやいやいや。その、見通しいい店とか騒がしい店は苦手なんですよ”


”坂東さん病み上がりだっけ”


”はい。だから実は長時間二人で話すってのもイケるか心配で”


”それはねえ。その辺は早めに伝えておくしかないんじゃない?”


”そうですね、そうします”


”で、お店決まってるなら相談って?”


”いやあ、なに着てけばいいのかなあって”


”それは自分で考えなさいよ!”


”いつも適当だから着てく服がないんですよね……”


”え? 坂東さん普通に服装ちゃんとしてたでしょ”


”でもジャケットにシャツかインナーってなんか気合い入れすぎな感じしません? 固くありません?”


”いいじゃない別に! 心配性か!”


”あああああほんとどうしようなに着たらいいんだろ”


”坂東さんめんどくさいな! 服屋で相談したらいいでしょ! よく行く店ないの?”


”あ、あります。近所のショッピングモールの中の店なんですけどこの辺じゃそこぐらいしかなくて”


”あるんじゃん! そこで相談しなさいよ!”


”そうですね、そうします!”


 思わず、「おーその手があったか!」と漏らしてしまった。

 外村さんに相談してよかった。

 そんな簡単なことが思いつかないあたり、俺は平常心じゃないのかもしれない。

 だって、女の子と二人っきりで会うって、もう何年ぶりか覚えてないぐらいで。


”じゃあ話はまとまりましたということで。報告楽しみにしてるからね!”


”待ってください! まだ相談が!”


”なにさ?”


”ほら、今週金曜ってクリスマス直前じゃないですか。何かプレゼント用意した方がいいですかね?”


”好きにしたらいいじゃない。坂東さんめんどくさいな!”


”二回目ー! 手ぶらもアレですし、でも二人で会うのは初めてなのにプレゼントって、重いと思われないかなって”


”知らないよ! なにか軽めの消えモノにしたらいいんじゃない? 甘いものとかさ”


”おおおおおおおお! その手があったか! さすが既婚者! 勝利者の発想!”


”どう考えても普通の思いつきでしょ……”


”そんなことないですよ! ありがとうございますありがとうございます!”


”ねえ坂東さん、これもう惚れちゃってるんじゃないの? 恋なんじゃないの?”


”え? なんですかいきなり、ひさしぶりの「女の子と二人きり」で動揺してるだけですよ”


”でもいままでオシャレしようとか思ってなかったでしょ?”


”それはそうですけど”


”プレゼントだって、重いと思われないかなって心配も、喜ばれたいって気持ちもなかったでしょ?”


”はあ。けどたまたまクリスマス直前の時期なだけで。好きとか恋とかそんなことはなくて”


”坂東さんめんどくさいな!”


”えっえっ? 三回目? いまめんどくさい要素ありました?”


”はいはいとにかく報告楽しみにしてるからね、またねー”


”あ、はい、ありがとうございました”


 既読がついたあと返信は来なくなった。

 編集さんだけに、年末進行で忙しいんだろう。


「服はあの店で相談する、プレゼントは……当日早めに行って、新宿で買うか」


 けど、相談に乗ってくれたおかげで方向性が決まった。

 日持ちする消えモノは、地元じゃなくて都会で探すことにする。

 こっちで「プレゼントにちょうどいい、日持ちする消えモノ」を見つけるのは大変そうだし。いやあるにはあるけどね、都内に暮らす女の子が喜ぶようなモノはなさそうで。偏見すまん。地元大好きです。そうでもないです。


「あーそっか、髪も切りに行かないと。予約とれるかなあ」


 まだ一ヶ月半だから、いつものペースなら年明けに切りに行くんだけど。

 電話してみると、スキマ時間になんとか予約が取れた。

 やっぱり年が明けるまでは混んでるらしい。平日に時間作れるタイプの仕事で助かった。


「早めに気づいてよかった。お店も予約しておいてよかった」


 独り言が増える。

 デート、もとい、忘年会は今度の金曜の夜だ。

 つまり、あと五日後だ。

 いまからソワソワしてるんだけどあと五日間もこの状態なんだろうか。

 ああもう外村さんが「惚れてるんじゃないか」とか言うからー!


 ……忘れよう。あと五日間、執筆に集中しよう。

 でも森田さんから誘ってくれるって、マイナスには見られてないかもしれなくて、いや待て考えるな、忘れるんだ。自意識過剰な痛いヒトにならないために忘れるんだ。執筆。執筆しよう。


 いつもならすぐ頭の中の異世界に入り込めるのに、当日を迎えるまで、ずっと頭の中の現実世界をぐるぐるまわっていた。


 え、世の中のみなさんは普段こんなに現実世界のこと考えてるの? これで平静でいられるの? おかしくない? 外村さんに相談……既読スルーされた。編集さんは年末進行で忙しいからね、しょうがないね。武原さんは未読スルーだった。年末だもんね、仕方ないね。



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