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この世に飽きた竜と恥ずかしがる竜

ライトニングは歌う。

マイクもアンプもスピーカーも無いので歌声を聞き漏らすまいと息を潜める聴衆。

曲が終わる度に拍手喝采の嵐が吹き荒れる。

1000人程の聴衆全てに満足に歌を届けることが出来るのは7,8曲。

しばらくインターバルを入れる。

その間は新人が2,3曲歌い聴衆も一息入れるので思い思いに寛ぐ。


記録再生機器が無いので聴衆は常に真剣である。


ライトニングは付き人だったフレディーの歌を舞台の袖で蜂蜜入りのレモンジュースをのみながら聴き入る。


『本当にあやつは面白い世界に行っておったんじゃのー』


ライトニングはアレイシアに憑依している本郷の正体を初めてあった時から気がついていた。



まだ黄金色の竜がライトニングと名づけられるずっとずっと前の事だった。

若き黄金色の竜は生きることに飽きた黒い竜に会った。


飛び続ける巣立ったばかりの黄金色の竜に世界は眩しかった。


世界を旅し始める前に最初に会うべきと母から言い付けられた黒い竜の気配を感じて近づく。

全く反応がなかった。

巣立つ時に母から言われたように礼儀正しく黒い竜の前に降り立ち挨拶した。

普通であれば挨拶が返ってくるものだと教わったが何も言われない。

黒い竜はじっと視線を動かさずぼーっと地平線を見ているだけだった。


黒い竜は黄金色の竜よりも長命であり知恵を蓄え教えを請うべき存在だと聞かされていたがただの生ける屍のように見えた。


『黒き竜よ、何故挨拶さえ返さないのだ』


黒い竜は横目で黄金色の竜を歓迎するでなく睨むでなくただ見ていた。


『知りたいことがあれば全て伝えよう。しなければならない事もしてはならない事も全て我は貴様に教えよう、すぐ終わる』


黒い竜は黄金色の竜に額を付けて自身の持つ記憶を黄金色の竜に伝えた。


竜として生き竜として死ぬ気高き黒い竜。

誇り高きその竜は世界を全て見て回り、時に知恵ある種族と出会ったが皆、竜を怖れ敬うだけだった。

次第に他者と係わることに虚しさを感じながらも時折災難に襲われる者などを救ってきたがとうとう死を前にその体も動かなくなった。


『もうこの世界に未練は無い』


別れ際にそう言っていた。


黄金色の竜は黒い竜よりも積極的に世界に係わることにした。

なんといっても上位種の黒い竜よりも圧倒的に寿命が短い。

また黒い竜が旅していた時代よりも知恵ある種族たちの世界は変わり興味をそそられた。

人々を救い子供と戯れ歌を歌った。

竜であったため畏怖され気楽に付き合う事はなかったが日々を楽しんだ。


この喜びを黒い竜にも伝えたいと出会った場所に戻ったが亡骸はあっても魂の痕跡は全く無かった。


『何処に行ってしまったんだろうか。

膨大な彼の魔力が消え去る事など有り得ない』


そんな黄金色の竜にも肉体の寿命は訪れる。

死ねば魂はこの世界で何かに生まれ変わると聞いていたが彼は彼としてもう少し関わっていたかった。

まだまだ見ていないものあると思っていた。

意志がある限り魂は転生する事は無い。

意志は記憶を留めようとする。

そういう魂は転生出来ない。


黄金色の竜は魔力の塊という魂のみでさらに世界を巡った。


黒い竜程ではなかったが世界を見渡し満足して本当に竜としての生を終わるつもりであった。


最期に若き頃の姿で終わろうと姿を変えたがついへたってしまい大地にへばりついてしまった時であった。


昔出会った黒き竜の気配が感じられた。


『どこに行っとったんだか・・・』


キョロキョロと見渡すがそれらしき者は居なかった。

しばらくすると肩に黒い魔鳥を載せた少女がトコトコと自分の方に向かってきていた。

多分人の種としてはなかなかの美人なんだろうと思えたが特に興味がわかなかった。

だが黒い竜の気配はその娘から感じられた。


『有り得ない、意識を持って転生出来ないはず』


少女は礼儀正しく竜に跪いた。


「人はここに来られないはず、しかもなにやら人ではない気配もするのじゃが」


少女が慌てて自己紹介をした後に黒い竜がなにやらかしこまって大袈裟な挨拶をしてきた。


『何やらほとんど記憶を無くしとるようじゃ、だが確かに黒い竜の意識が僅かに感じられる。どうなっとんじゃ』


困惑する竜をよそに少女は目を輝かせて見つめてくる。


ちょっと恥ずかしくなった黄金色の竜であった。





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