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引き継がれた意志

黒鋼の記憶は薄れてはいたがそんな事を気にする以上に神々谷レイジとして日常を楽しんでいた。


年に一度になった医師の検診も12歳になり最後の検診である。


「問題はない。本当に大きくなったね」


少年は同年代にしては背も高く体格も良かった。


「先生のお陰です。今までありがとうございました」


「いやいや、君自身の生きる力さ。僕は何にもしていない」


結局のところ医師は死にかかった子供が生き延びた原因を究明出来なかったが元気な子供を見れて良かったと思った。


だが医師の顔は少し暗かった。


「先生、何かあったんですか」


人を思いやる心に長けた神々谷レイジ。黒鋼の性格に知らず知らずに影響されていたのである。


「今度結婚する事になったんだ。君も知っている小児科の如月先生」


めちゃくちゃ美人の顔が浮かぶ。大学病院のマドンナとも言われ医師や患者から女神と奉られている。


「おめでとうございます!先生」


「ありがとうレイジ君。だけどねー」


「どうしたっていうんですか」


「彼女が僕の趣味を理解してくれそうにないんだ」


そうだろうなーと思うレイジ。

何度か会ったことがあったが仕事が趣味の女性であった。


なんといっても医師の給料を大学の研究につぎ込んでしまう学究肌である。

医学書に埋もれた部屋、共通の話題は仕事や研究の事ばかり。

同じ仕事をし苦労もわかるのでお互いをいたわりあえる良い関係。

だがそんな女性をよく知る医師は自分の所有物を処分されるだろうと感じていた。


人生がドラマでありドラマが人生ではないのだと胸を張る女性である。


出張から帰ったとき大切にしてあった英国SF人形劇ドラマで出てきた各種プラモデルや今では貴重なレコードを全て処分されていたという話をネットで知っていた医師は恐怖した。


医師は少年をじっと見据えた後、肩をぐっと掴む。


「君に物理的なものは全てを託そうと思う。頼めるだろうかレイジ君!」


真剣な眼差しに思わず頷く少年。


尊敬する医師として、また同じヲタクとして(ヲタクエリートとして教育というか洗脳されていた)頷かない訳にはいかなかった。


しばらくして少年の家に段ボール箱十数個が送られてきた。

そこそこ裕福な少年の家は部屋も余っていたので余裕で収納した。


医師から電話が掛かってくる。


「荷物は届いたかな」


「言われていた個数は確認しました」


「それは良かった」


「大切に扱いますのでご安心してください」


「ありがとうレイジ君。そして最後に君に私の意志を託そうと思う。8月1日10時00分、秋川渓谷の指示する場所にいてほしい」


まだあるんだーと思いながらもレイジは指示通りにその場所へ行く。


しばらく待っていると川の上流から箱が流れてきているのが見えた。


携帯電話に医師からメールが入る。


『その箱に僕の意志が入っている、受け取ってくれ。ただし川の流れに注意するように』


レイジは恐る恐る川に入り流れてきた箱を掴む。

岸辺に戻り箱の蓋を外す。

箱の中にビデオで見せられて良く知っているヘルメットらしきものとスーツが入っていた。


少年はそれが医師にとって青春時代そのものであった事を知っていた。


「先生!確かに受け取りました!先生!」


先生と呼ぶ声が渓谷に木霊する。


少年の手により特撮ヒーローのコスチュームが天に高く掲げられる。


木の影から様子をうかがう医師の頬に涙が伝わっていた。


その後医師から送られてきていたダンボール箱に入っていたアイドルなどの書物を読みふけった少年はその筋では知らないものがいない(同じ趣味の同級生や社会人の同人誌仲間、ライブで会うカメラをもっている人たち)アイドル博士と一目置かれるようになった。


もう自分が黒き鋼の竜だったこともすっかり忘れてしまった黒鋼であった。






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