アイドルバンドのつもりじゃなかったんです、ホントです
最初はオーディエンスが少数のシークレットライブ。
むろんお試しのため無料の上にお菓子も出しマクシミリアンのコーデル侯爵家で働く非番のメイド数人、マーベリック伯爵家の非番のメイド数人とアレイシアの友人の数人の女性冒険者を招いた。
男性たちにも声を掛けたがみんなに断られた。
ヘヴィメタルへの道は険しいものだと思う本郷。
バンドの演奏が終わっても何の反応もない静かなライブハウス。
まだこいういのも理解されないもんなんだろうなーと、ぼーっとしていたのだが突然乙女の絶叫がライブハウスを蹂躙した。
ボーカリストの少年に抱きつこうとする女の子が数人飛び出てくる。
揉みくちゃになる男性バンドメンバー。
ライブハウスとも言えない小さな小屋が揺れた。
「死ぬかと思いましたよ、僕」
涙目のボーカリストがボロボロの衣装で椅子に座っている。
口を開けたまま目を見開いてぐちゃぐちゃのステージを見つめるギタリストの少女。
気を失っているピアニストの少年。
初めて女性にモテモテになって惚けているドラマーの少年。
「ちょっとこれは・・・」
ボーカリストの少年以上にボロボロのベーシストの青年。
アレイシアは気を失ったメイドを背負うマクシミリアンとともに屋敷に向かっている。
「予想してたけどまさかこれほど凄い反応とは思わなかったよ」
「本当に驚きました。サラが居なくて良かったです。もしサラもこうなってしまったら私がルークに怒られますでしょう」
女性客ばかりということが分かっていたので曲は無難な恋愛ものでポップなものをセットリストに上げた。
最初からヴォイヴォイ騒ぎ拳を振り回す曲は理解が得られないと思ったからだ。
だが思春期のボーイミーツガールを歌詞にした曲は刺激が強かったらしかった。
しかもボーカリストは15,6歳の可愛い系だがそこそこワイルドな少年、ベーシストはそれなりに顔の売れている伯爵家の美青年。
さらにアレイシアの用意したカッコいい衣装。
はっきりいうとギタリストが女性のビートルズっぽいバンドを作ったアレイシア(本郷)。
本郷にとってビートルズはクラシックである。
曲は知っていてもその時の社会的ムーブメントは一切知らない本郷。
本郷は男に興味は一切無い。
ま、最初はこんな感じなら問題ないはず。これから徐々にハードロック、ヘヴィメタルに移行すればみんな慣れるはず。
そんな目論見も女性たちの口コミで全てご破算になった。
最初のライブで感触をつかんだアレイシアは次はちょっと大きめの会場でとライブを開く。
あっという間にソールドアウト、挙げ句にライブ中に失神者続出で大騒ぎ。
これはヤバいと、しばらくライブを今後はやらないと言うものならスタッフの誰かがこの世から居なくなる程のファンレターの数。
さらに女の子達の両親から家の娘をどーしてくれるとライブで演奏しただけなのに責任をとれとマーベリック興業社に怒鳴り込まれる。
とうとう貴族であるミュージシャン達の親からバンドを抜けさせる要請が入る。
社会問題になってしまったのだ。
『あっという間に終わっちゃったよ、お嬢・・・』
『終わっちゃいましたねー、本郷さん』
机に体を預けるアレイシア(本郷)。
その時であった、コンコンとドアをノックする音。
「どうぞー」
力無く答えるアレイシア。
「失礼するよアレイシ・・・」
「あらあらあら、どーしちゃったのよーアレイシアちゃん元気無いじゃない!」
マクシミリアンを押しのけるようにハーシュレイ侯爵が部屋に入ってきた。
相変わらず派手な服装と派手な顔、先ほどまで若干暗かった部屋が眩しい光に包まれる。
アレイシア(本郷)とマクシミリアンの育てたバンドはハーシュレイ侯爵の事務所に移籍し全ての問題が解決された。
さすが大手芸能事務所である。
本郷はかつてメイドのサラのアイドル育成計画を企んでいたが、実現しなくて良かったと今更ながら思った。
今度は野獣系のミュージシャンで一気にメタルに挑戦しようと思う本郷であった。




