小さな小屋の大きな夢
アコースティックギターとベース、ピアノ、職人に作ってもらったドラムセット。
渡した楽譜とアレイシアの鼻歌に興味を示したライトニング楽団の知り合いのミュージシャンが所定の位置で楽器を触っている。
ベーシスト以外みんな貧乏そうな服装である。
アレイシアが拍子をとりそれに従って譜面通りに演奏が始まる。
音楽というものは奏でるものにとって非常に練習し辛いものだ。
しかも曲はロックである。
いくらか大人しいサウンドにアレンジしてもロックはロックである。
聞き慣れない曲は雑音に思われてもおかしくはない。
ここは野原の中に建てた小さなライブハウス。
多分誰にも聞こえない筈である。
ロックンロールの初期の曲目で歌うボーカルの冒険者の少年。
ボサボサの長髪なので服装も合わせて見ていると80年代のヘヴィメタルバンドのボーカリスト。
重々しいベースにパワーコードを弾きまくるギター、バスドラを押さえ気味に軽やかなリズムのドラムに飛び跳ねるようなピアノが乗っかっていく。
売れてもいないしパトロンも居ないが流石にプロ志望の音楽家である。
新しい曲をあっという間にマスターしてしまう。
挙げ句に自分達でアレンジを始める。
どんどん曲が良くなっていく。
何曲か演奏できるようになり盛り上がってきたところで時間切れ。
遅くなればいろんな意味で危険なのである。
アレイシアはもっと聴きたいと思った。
沢山のカッコいい曲を本郷から聴いて知っているからだ。
カッコいい衣装もすでに考えている。
相変わらずカッコいいが好きな淑女のアレイシア。
また音楽も若干印象が違っても生演奏はやはり魅力があった。
バンギャ一歩手前までとは言えないがロックバンドに惹かれてしまった少女状態である。
「みなさんお付き合い頂いてありがとうございます」と言いながらギャラを渡すアレイシア。
「助かります、お嬢様」と頭を下げるギタリストの少女。
「これでお家賃が賄えた!」と飛び跳ねるピアニストの少年。
「本当に君ら貧乏なんだなー」と肩をすくめるベーシストの青年。
「「飯くわせろ、このやろう」」
ベーシストにピアニストとギタリストが突っかかる。呑気なドラマーはにこにこしている。
これでも4人とも貴族である。
ベーシストが口が悪いのはここの所何度も顔合わせしているので誰も気にしていない。
悪気はないので非常に和やかである。
「アレイシアお嬢様、実は」
ボーカリストの冒険者がバツの悪そうな顔である。
「パーティー仲間から道楽もいい加減にって言われて・・・」
練習を始めて数度でメンバー脱退である。
しかもフロントのボーカリスト。
いくらギャラを払っているとは言えコレだけでは食っていけない冒険者。
パーティーのことも将来を考えての言い訳、冒険者としても新人なので決まったパーティーなどないが冒険者稼業に本腰を入れなければいつまでたっても新人である。
「アレイシアいいかな」
マクシミリアンが客席から立ち上がる。
「マクシミリアン様どうぞ」
マクシミリアンはつかつかと冒険者に近寄ると話しかける。
「生活していくのに君はいくら必要なんだい」
「ちょ、それは相手が平民と言っても失礼ではありませんか」
アレイシアの制止も気にせず再度問い掛けるマクシミリアン。
おどおどしながら答える冒険者。
「分かった、君の面倒は僕とアレイシアがみる。そうだなギタリストとピアニスト、ドラマーの君たちにも援助しよう。アレイシア、どうかな」
ニッコリ笑うアレイシア。
「僕は、ねえマクシミリアン。ねえねえ」とおねだりするベーシスト。
「君はそれでも伯爵家の長男だろう・・・」
ちょっと呆れるマクシミリアン。
「冗談さ、分かった僕も援助するよ。ただし君のような実業家じゃあないから余り期待しないでくれよ」
こういうのを悪友という。
冒険者はアレイシアとマクシミリアンが実質的に経営するマーベリック興業の社員となった。
「それにしたってこの先どうなるか分からないのに君も大胆に投資するねー」
ベーシストが大きく背伸びをしてマクシミリアンに問い掛ける。
「君らは絶対に売れる。なんといってももう僕自身が夢中なんだ。それにアレイシアが楽しそうな笑顔も大切だしね。期待しているよバンドリーダー、ミック伯爵!」
「いやまだ家督を継いでいないんだ、やめてくれよ~」
「さあ、食事にしましょう。リンゼイさんが試食役を待ってますよ」
おお!と声を合わせて喜ぶバンドメンバーはそそくさと楽器を片付けていった。
ちなみにまた若手を奪われた冒険者ギルドであった。




