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二度泣きした鬼

サラの泣き顔など一度として見たことのないルークは動揺した。


「姉さん・・・」


「お坊ちゃま、アレイシアお嬢様のせいで泣いていたのではございません。誤解なさらぬようにお願いします」


「じゃあ、なんでサラさんはそんな顔をしてるんだい」


「お嬢様の曲を聴いておりましたところ、故郷を思い出してしまいまして」


「姉さん、僕にも聴かせてくれないかな」


ルークのリクエストに何となく気まずい思いではあったがギターを手にするアレイシア。

正直なところ身内に歌っているところを見せるのは恥ずかしかったが、妙な誤解をされるよりはと思い歌い始める。


曲目はジョンデンバーのカントリーロード。

本郷の微かな記憶から再現した曲なので歌詞が若干この世界向けにアレンジされている。


サラの目にまた涙があふれる。

貧しい男爵家の長女のサラ。

アレイシアの母はサラの遠い遠い親戚である、その伝手を頼って家のためにマーベリック家にメイドとして働きに来ている。

仕事を必死に覚え、メイドとして必要とされるように頑張ってきた。

もし首にでもされたら故郷に帰るしかないが絶対にそれは自分の中では許されないものだった。

それでもマーベリック家は噂に聞いていたよりずっと居心地がよかった。

つい気が緩みそうになるのを必死にこらえた。

その堰がアレイシアの歌で崩れた。


貧しくも慎ましい男爵家は領民の生活とほとんど変わらなかった。

なぜなら領主自らが領民のために私財を投げ打ってしまうからだった。

半農半漁で生活する領民の人数は土地の広さに対して少なく、また魔物が多かった。

生きていくだけで必死な場所である。

それでもみんなで力を合わせ魔物と戦い、漁をし農作物の収穫を祝った。


小さな入り江で兄そして妹たちと遊んだ。

父母に連れられて家族で丘の上にピクニックにいった。

病にかかった領民の子供の世話をみんなでした。


助け合わなければ先の無い土地であった。

だが助け合いにも限度がある。

自給自足では賄えない薬、足らない食糧などを購入するには金が必要なのだ。

家を継ぐことのない女の子や次男三男は出稼ぎし実家に仕送る。

サラもそんな子供の一人だった。

もう帰ることもないであろう故郷であったが大切な場所なのである。


歌が終わる。


「ルーク、ドアを開けてあげるからサラを部屋に送ってあげなさい」


ギターを立てかけるとアレイシアはルークの耳元でそっと囁いた。


「ああ、そうだね」


ルークはさっとサラを抱き上げるとアレイシアの後を付いていく。


『おいおい、お姫様抱っこかよ。それも自然にやってるよ。これが貴族ってやつかああああ!』


目の前で初めて見るお姫様抱っこ。

話では知っていたがリアルで見たのは初めての本郷。

本郷は何だか悔しくて泣いた。

イケメンだとこんなに簡単にいくものなのかと。

しかも絵になっているのが悔しさに拍車をかける。


『そーだよ、ただしイケメンに限るよ。それが世界の真理ってやつだもんな』


兄貴分がアベックを見かけるとひゅーひゅーはやし立てていた本当の気持ちが分かった本郷。


サラを抱っこするルークをじっと見つめるアレイシア(本郷)。


「姉さん、どうしたの」


「いえ、何でもないわ。さあ行きましょう」


本郷の動揺に戸惑うアレイシア。

彼ら姉弟にとっては当然の行動である。


だが、真っ赤な顔のサラ。

大好きな男の子にお姫様抱っこされて嬉しくない女の子などこの世にはいない。


『本郷さんどうなされたのですか』


『いや、何でもない。俺のことは気にするな。今、俺は自分のことが情けなくて情けなくて・・・ちくしょう!てっきり応援してたと思ってた俺が世間知らずのお馬鹿さんってかああああああああああ!』


さらに青春時代、本郷は抱っこする相手がいなかった事を思い出し二度泣きした。


もう一人部屋の隅で泣く男がいた、リンゼイである。


本郷が体育すわりしているような気もして気がかりなのだが、さすが淑女のアレイシアはリンゼイを見逃さない。


「ありがとうリンゼイさん、そのお菓子とても美味しそうです。サラを送っていったらゆっくり味わわせていただきます」


優しく声を掛けられたリンゼイはアレイシアの気遣いに二度泣いた。






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