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昔、熱い男たちがいた世界

本郷は格闘技とハードロックとヘヴィメタルが生きがいの神竜組の組員の一人であった。

違法賭博経営の神竜組の営業時間は深夜11時くらいから朝の3時ちょいである。

営業場所は新宿歌舞伎町のいくつかの薄汚れたビルの一角を借り転々と移動する。


お客様はその筋の人もいればちょっとしたスリルを求める堅気もいる。


営業内容は半丁博打、ポーカー、麻雀、ルーレット、バカラなどなど。

賭博場は常に清潔に保たれ、お客様に対する礼儀も厳しく教育されて気持ちがいいはずである。

また博打に熱くなりすぎないようにお客様を誘導することもある。

細く長くお付き合い願い、ほどほど楽しんでもらうというのが方針である。


だからそれに満足せず他の賭博場に足を運び大やけどをする者もいる。


経験を積み重ねた遊び人が最後に戻ってくるところが神竜組の賭博場である。


「明日、用のねえ奴いるかー!」


組員が必死に賭博場の清掃をするなか若頭の声が響く。

数人が返答する。


「おいおい、これだけかよ。これじゃあライブが寂しいじゃねーか。親分が泣くぞ、おい!」


「オジキ、すまねえ。明日はシーサイド38のコンサートが」


「ああ、牧はいいよ無理すんな」


組の中でドルヲタを唯一貫き通す男の中の男、牧健吾にメタラーとして誰も期待していない。


「若頭、明日のライブってもしかしてマイケルガン象さんですか」


「だからなんだってんだい、レイジ」


「客、30人くれーしか来ないんじゃ・・・」


「しょーがねーだろー!親父が押してるんだからよー!何とか出来ねえもんかね」


神竜組の組長のセンスは少し古かった。

まあ、齢70近くのロック爺には最新のメタルは合わないのであろう。


『わしゃあ、グロウルは認めんし、スラッシュメタルはメタルじゃねー!』


パワーメタルかメロディックスピードメタル一筋の頑固じじいであるため、押しのバンドもそういう連中なのでマイナーである。


スラッシュメタル以降のある程度最新のメタルに通じている若頭以下の組員にとって組長の押すバンドは時代遅れのドマイナーばかりであるが、そもそもハードロックやヘヴィメタル自体がマイナーなので小さな池の中の話である。

が、本人たちは自分たちが聞く音楽こそがロックの本流であり世間が分かっていないだけなのだと思い込んでいる。


高田馬場のライブハウスは500人収容できる。

スッカスカのピットに40歳以上の男たちが50人、バンドメンバーに少しでも近づこうとステージの前に押し寄せる。


始まりはツーバスの炎のような連打。

皆、一斉にヘドバン。

ツインリードのギターの音色にベースの音圧が加わりハイトーンのボーカルが叫びをあげる。

うおおおおおおおおおおおおおおおお!という声と共に拳が高く掲げられる。

一気に数曲が奏でられる。

親父さんたちが激しいモッシュするなかでステージとピットの間に客が投げ込まれる。

横乗りって何、ツーステップとか最低だぜ!という熱い男たちで会場は部分的に熱気に包まれる。


「やっぱいいっすね!マイケルガン象さん!最高のパワーメタルですよ親父!」


ライブの独特のノリに飲み込まれながらも古いメタルも悪くないと思う本郷。


「そうじゃろ、これこそがヘヴィメタルの源流を引き継ぐバンドじゃああああああああああ!」


良い汗をかいたと満足げにライブハウスを出る5人の組員。


「またTシャツ買ったんですか、親父」


「少しでも応援しとかんとな、いつ解散するかわからんから」


ちょっと寂しそうな組長。


「おお!旦那来てたんですか、どーですかこれから一杯」


50歳過ぎ位のオジサンが組長にニコニコしながら声を掛ける。


「よっしゃ!いつもの居酒屋いくかー!」


あっという間に十数人のメタラーが組長のまわりに集まる。

お互いにプライベートは知らないし聞くような野暮など一人もいない。

ただただ自分たちの愛するメタルやハードロックを支えたいと言う熱い心意気でライブハウスに集い、心を通わせた男たちである。

ハードロック、ヘヴィメタルを聴く者は日本と言わず世界でも少数派である。

少ないファンだからこそのお互いの気持ちは厚い。

ファン・・・いや、同志である。


救いようのない本郷の人生であるがこの世界だけは何もかも忘れて熱くなれる。


そんな熱い音楽のない世界で共感を得られたのは本郷が中学、高校時代に音楽の授業で習ったフォークソングや聞きかじったケルト民謡であった。


『こんなに感動してくれるんだ、ジョン・デンバーも喜んでくれんだろーなー』


目の前で泣き崩れるサラを見ながら初心な世界も悪くないかと思う本郷であった。









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