メイドとガトーショコラ
姉に命じられるままにサラの代わりに薪運びをしているとリンゼイに声を掛けられたルーク。
「お坊ちゃんがそのようなことを、どうしたんですか」
「姉さんに頼まれてね」
「お嬢様の言いつけですか、仕方ありませんね」
「うん」
「そうだ!それが終わったら厨房に来ていただけませんか」
「厨房・・・」
「私が考えた新作のお菓子があるのですが、どうですか試食していただけませんか」
「そりゃあ嬉しいね!姉さんよりも早く食べられるなんて初めてじゃないかな」
ルークはさっさと薪運びを終えて厨房に顔を出す。
「ささ、こちらです」
リンゼイに促されるままに小さなテーブルに座るルーク。
目の前に置かれたチョコレートケーキのような物。
「これが新作なのかいリンゼイさん」
「一口どうぞ」
にっこり笑うリンゼイ。
促されるままにお菓子をフォークで切り取り口に運ぶ。
しっとりとした食感と濃厚なチョコレートの抑えた甘味。
本郷的に言うとガトーショコラである。
「ああ!なんてくちどけだ、なんという上品な甘さだ!」
ルークはウットリとしながら皿に載せられてお菓子をあっという間に食べてしまった。
「僕がこの世でこのお菓子を最初に食べたということでいいのかな、リンゼイさん」
「はい、私も一口たりとも食べておりません」
「何だか嬉しいよ。さすがリンゼイさんだ」
「お褒めいただき光栄です」
「姉さんを超えたんじゃないかな」
「とんでも御座いません、これもお嬢様の発想の上に成り立ったお菓子で御座います」
世の中、途轍もない発想と地道な研究の中で偶然が重なり合って0から1を産み出す。
リンゼイのお菓子もアレイシア(本郷)と共にお菓子作りをした中で多くのヒントの積み重ねから産み出されたものである。
本郷の知識とアレイシアの美味しいお菓子作りを極めたいという情熱がリンゼイを動かし、アレイシア(本郷)の助力なしにガトーショコラを作り出した。
「では、これをお嬢様にお持ちして評価していただきませんと」
「まあ、リンゼイさん的には姉さんの評価は欠かせないよね」
「申し訳ございません、お坊ちゃま」
「何言ってるんだい、リンゼイさんにとって姉さんがどういう人かくらい知ってるさ」
リンゼイにとってアレイシアは救いの女神であり、またお菓子作りの同志でもある。
「ああそうだ、今姉さんのところにサラさんも居るんだった。リンゼイさん、さすがに姉さんだけって訳にはいかないからケーキを二つ用意してくれないかな。僕が一つ持っていくよ」
「おやおや、そうでございますか。ですがお坊ちゃまの手を煩わすわけには」
「このお菓子を最初に食べさせてくれたお礼だよ」
ルークはマクシミリアンの弟分であることもあり優しい男の子である。
常日頃マクシミリアンが姉のアレイシアに接する姿を見て他人に対する接し方も身についていた。
また父のアレックスの苦労性も引き継いでいる。
強く逞しく優しい理想的な男の子である。
婚約を持ち掛けられることは日常茶飯事なのだが如何せんレイアという理想があり、また意識せずとも姉の存在があったため本人の意図することなくハードルが高い。
だがここで働く使用人にとっては理想的な男の子である。
リンゼイと共にアレイシアの部屋の前に立つルーク。
「姉さん、リンゼイさんのオリジナル新作のお菓子を持ってきたよ」
「ちょ、ちょっとまってルーク!」
慌てたアレイシアの返事の後に微かにサラの泣き声が聞こえてきた。
「どうしたんだい姉さん!サラさん!」
しばらくしてドアが開かれる。
「取り乱してしまい申し訳ございません、アレイシアお嬢様、ルークお坊ちゃま」
そこには目を赤くし涙が頬を伝った跡が見受けられるサラが頭を下げようとする姿があった。




