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筋肉って甘かったんでしょうか

甘い誘惑。


ふわっとしたスポンジケーキの中に苺のスライス。さらにそれを覆い隠すように真っ白な生クリームを纏い、チョコレートのかけらと大きな真っ赤な苺が載せられる。

なんの抵抗もなくフォークがそれを掬う。


本郷が見せた苺のショートケーキ。さらに詳しい味の解説がアレイシアを夢の世界にいざなう。


『なんかさ、お嬢といると俺ってホストもできそうかも』


『ホストってなんでしょうか』


『うーん、お嬢は知らなくて良いことさ。そんなことより手が止まってるぜ、お嬢』


家庭教師の授業が終わったにもかかわらずアレイシアは机に向かってペンを動かす。


『あのー、これってお菓子作りに関係があるのでしょうか』


『ある!全てはお菓子のためだ。いいかい俺は兄貴達と違ってモノはきちんと教える。教えなきゃ分かってくれないことも多いからな』


『いろいろご苦労されたのですね』


『まあな、中学卒業から極道になった兄貴達と違って俺は大学生(中退)からその道に進んだからなんにも知らなくてよく怒られたもんさ』


『といいますと』


『礼儀作法、仁義の切り方、掃除の仕方、料理、仕事の手順やトラブルの解決方法なんか誰もおしえてくれなかったのさ。ただただ兄貴達の後ろ姿を追ってやっと一人前になったのは組に入って5年かかったかな。

でもよ、気がつきゃ甘味処の店長ってーんだから人生何が在るかわかんねーもんだ』


『大変なご苦労の末にそれでは報われません、わたくし親分様に一言・・・』


『ありがとうなお嬢、でもな俺は何だかんだ楽しかったんだ。

みんな優しくてな、俺のことをおにいちゃんって言ってくれる店の子もいたのさ。

それにさ俺を店長に推薦してくれたのが若頭の俺のオヤジでさ、少しでも堅気の世界を味わって欲しかったんだって。

ヤクザになりたくてなったやつもいるが、お前はヤクザになっちまった男だ、足を洗う為の準備だと思えってさ』


アレイシアの頬に涙がつたう。


『ごめんなお嬢、こんなしみったれな話はもう無しだ。さっさとそいつを仕上げちまおう』




「これは何、アレイシア」


「運動器具です、お母様」


マリアンヌの執務室で数枚の設計図が広げられる。


ダンベル、ベンチプレス、シットアップベンチ、サンドバッグ、グラブ、フラフープ、縄跳び用のロープ等などが詳しい解説付きで描かれていた。


マリアンヌは見たこともないものに混乱した。


「この前から思っているのですけれど、急に体を鍛え始めたのはどういう理由ですか。いえ、決してあなたを咎めるつもりはございませんからねアレイシア。むしろ良いことだとは思いますが」


「お菓子のためです」


「お菓子ですか、何故お菓子のために体力をつけるのかしら」


「お菓子をつくるにはもっと力が必要です。お母様に差し上げたパンケーキも私はまだまだ納得できるものとは考えていません。それに力があればもっと美味しいお菓子も作れます」


「あれより美味しいお菓子・・・アレイシアは知っているのですか」


「知っていると言うか、考えました」


「調理人に指示して作らせればよいのでは」


「まず、やってみせることが必要だと思っております。口で説明してもなかなか伝わらないことも私がやって見せれば容易に彼らも作れるようになると思います」


想像以上に成長していく娘に戸惑いながらもアレイシアはもういくつも伯爵家に貢献する物を作り出している。

何種類もの調理器具、運動のための服はかなりの利益を伯爵家に齎していた。


「わかりました、ではあなたが懇意にしている鍛冶職人を呼んでこれを精査いたしましょう。費用は伯爵家で持ちますからご安心なさい」


「有難うございます、お母様」


鍛冶職人が来るとアレイシアはまずたっぷりの生クリームを添えたパンケーキをお茶受けにした。


「この前作った泡立て器でこんな物ができるなんて!アレイシア様のお役に立てて誇りに思います」


「うふふ、これよりもっと美味しいお菓子を食べてみたいと思いませんか」


アレイシアの微笑みにぽーっとしかけながらも目の前の設計図に集中する鍛冶職人。

お菓子を作るのに何故か鉄の輪っかを両端に通した鉄の棒、そしてそれを受け止める器械、斜めになったベンチ、砂を詰めた大きな袋、大きな輪っか、もっさりとした手袋。


「これでお菓子を作るのですか」


「はい、お菓子を作るための体力をこれでつけます」


「はあ」


「もっと細かい小麦粉、もっと細かい砂糖、もっとつややかな生地、もっとなめらかなクリームなどを作るには力がいります。それにもっと多くの食材を知るために自由に街を歩くにも」



それから2月後に納品されたトレーニング用品が運び込まれる。

慣れないと危険だからと護衛騎士の見守る中でみんなの前で器具の使用方法と注意事項とトレーニングの目安を解説するアレイシア(本郷)。


「お姉さま見てください、この力こぶ」


嬉しそうにアレイシアの前でボディービルダーの様にポーズを付けるルーク。

まだまだ育ち盛りのためにあまり体に負担を掛けないトレーニングなのにも関わらずしっかりと腹筋が割れている。

アレイシアに似た弟なのですこし微妙である。


アレイシアの回りには仕事が終わった父、護衛騎士や執事、メイドたちがトレーニング機器を使って汗まみれになっている。


数カ月後、領地から遊びに来た祖父たちは筋肉だるまになった伯爵邸の人達を見て立ちすくんだ。
















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