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あとは着物姿でサンバのリズム

舞台の上でゆっくりとお辞儀をするライトニング。

静まり返った客席から一つ二つと拍手が始まると次第にその輪は広がり嵐のように歌劇場を包み込む。

中には感動のあまり嗚咽を抑えられずにハンカチで顔を抑える観客も多く見受けられる。


「これにて王都アモルファス歌劇場ライトニング公演『港慕情』を終了とさせていただきます。皆様におかれましてはお忘れ物などございませんようにお気をつけてお帰りいただけますようお願いいたします。なお、次回のライトニングの公演予定はパンフレットに記載されておりますので是非ともお受け取りいただけますよう伏してお願い申し上げます。ご来場ありがとうございました」



舞台のそでで控えていた付き人からのど飴を渡され口に入れるライトニング。


「フレディーちゃん、これいつもののど飴と違うんじゃないの」


「すいません先生、マーベリック製菓のはちみつ100がどこも売り切れでして」


「困るわー、買い置きしておいてッて言ったわよねー」


偉そうに振る舞うライトニング。

ひたすら謝る付き人の後ろから久しぶりに見知った顔が出てくる。


「せんせ!お久しぶりです!」


「あら!アレイシアちゃん、元気そうね。あら素敵じゃないその服、良くお似合いよ」


『お久しぶりです、旦那』


『本郷も、久しぶりじゃの。元気そうで何よりじゃ』


『旦那、なんか口ぶり変わっちゃいませんか』


『業界にいると、こういう口ぶりのほうが水にあうんでの』


着物姿のアレイシアが付き人のフレディーにそっとのど飴を渡す。


「先生用の飴はストックしておきますから、いつでもおっしゃってくださいね」


「お嬢様・・・」


ライトニングの小さな劇場デビューを見てから付き人として働いているフレディー。

時折訪れるアレイシアとはすっかり顔なじみである。

歌手を夢見て王都に上京、ライトニングの歌声に衝撃を受け弟子入りし早1年、いつか自分も舞台の上にあがりたいと夢見る青年である。


控室を埋め尽くさんばかりの花束や贈り物。

まさかここまでとはと感慨深げに見渡すアレイシア(本郷)。


メロディーはそのままに歌詞をこの世界に合わせて若干変更したものをアレイシアの両親に披露したところあれよあれよという間に貴族社会に広まり、袖で聞いていた使用人たちから平民の間に噂になりあちらこちらに引っ張りだこ。

もともと竜であるライトニングに社会階級など関心がなく熱心に請われれば『しかたないのー、今回だけじゃぞ』とみんなの前で歌を歌った。

最初はアレイシアが窓口になりスケジュール調整、弟のルークが公演会場の手配をしていたのだがあっという間に人気は全国規模となり彼らの手には負えなくなった。

歌のレパートリーが本郷の知っていた14、5曲であったためそのうち人気もなくなると思っていたのだが、大手芸能事務所から誘いを受け受諾すると子飼いの作曲家や作詞家がライトニングのイメージに沿った曲を提供した。

またマーベリック家としても自分の家の関係者でもあるためスタッフなどの人員的なバックアップがなされる。


なぜ演歌がという思いが本郷の頭をよぎる。


そもそも本郷はマーデラス王国の伝統的な音楽や貴族が教養として聞く音楽を聴くと寝てしまうためこの国の音楽事情に全く疎い。


じつは本郷が寝てしまうように国民も音楽は心を休めるものであると思い込んでいた。

はっきり言えば音楽というものは退屈なものだと思っていたのだ。

そこに聞いたこともないような情感たっぷりのメロディーに物語性のある歌詞が乗り、ライトニングの歌声、さらに豪華な伴奏が加わり衝撃となってしまった。


アレイシアによって(本郷から無理やり聞き出した英雄的なお話)王都を救う7人の騎士や悪に染まった父と対決する息子の話、戦場から帰還した兵士の悲しい物語などなど今までになかった小説が町中に広まり、人の紡ぎだす架空の物語に夢中になっていたところに物語性のある演歌が投入されてしまった。

しかも歌劇でしかありえなかった伴奏がたった3分ほどの曲のために提供されている。

本郷的には歌というものはそういうものだとアレイシアを説得し両親の前で歌を披露するとき金はかかるがミュージシャンを付けた。


生演奏を聴きたいだけだったのだが人の情熱というものを見誤った本郷。

どんどん事は大ごとになっていった。


ライトニングの歌声に惚れ込んだ芸能事務所社長(侯爵)の肝いりで公演が始まる。

大々的な広告に派手な舞台演出。

評判は評判を呼びとうとう隣国にまで公演する羽目になった。


ついでに言うと竜の情熱も見誤っていた。

オーケストラに近い構成で奏でられる伴奏をバックに歌うことが途轍もなく気持ちがいいことに気づいたライトニングをもう止められない。


「ねえアレイシアちゃん、そのお召し物は男用もあるのかしら」


アレイシアの振袖をじっと見つめるライトニング。


『本郷さん・・・』


『ああ、わかったよ』


本郷は白地に金の竜の図柄の着物を頭に浮かべた。


『ほほー、これは派手で良いな!本郷』


『旦那、こういうもんは派手に行きましょう。祭りみてーなもんですし、ついでに歌もパーッと明るいもんも入れとくと華やかで楽しくなるってもんでさー』


サンバのリズムを口ずさむ本郷、やけくそである。


「フレディーちゃん!侯爵様とこれから新曲と舞台衣装の相談をするからアポとってちょうだい!」


「先生!わかりました!」


以心伝心というものだろう、フレディーは元気に楽屋を飛び出していった。


もう行くとこまで行くしかないと腹を括った本郷であった。
















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