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最後に食べたお菓子の記憶

「本日は急にではございましたが、お手合わせを気持ちよくお受けいただき有り難う御座いました」


「・・・」


清々しい笑顔で礼を述べるアレイシア。

さすが淑女である、礼儀は欠かさない。


ギルドの食堂の席に座るアレイシアとグレッグ。

あの闘いで何が自分には足りなかったか体中の傷を思い出しながら考え込むグレッグ。

真面目な男である。


そんなグレッグは自分を倒した目の前で微笑む娘を異常だと感じていた。


「こうしていると淑女なんだがな」


アレイシアは淑女である。

凶悪な魔獣に襲われている冒険者を助けたとき、チンピラに絡まれている女性を助けたとき、学校で悪ガキにイジメられている男子を助けたときに礼を言われても『私、淑女で御座いますから当然のことをしたまでです。お気になさらずに』といって去っていく眉目秀麗衆目至極のご令嬢である。

本郷も、さすがこの世界の淑女は一味違うと感動し続けていた。


『失礼な男だ。お嬢は礼儀もマナーも身につけた義侠心溢れる淑女って分かってねー!ちーと体で分からせる必要があるんじゃねーか、お嬢』


アレイシアは礼儀もマナーも身につけ知識と教養に至ってはこの世界ではトップクラスの女性である。

本郷的には、俺が育てたという自負さえある。

ちょっと顔がいいからって何様のつもりだ、この野郎と思う本郷。


しかしさすがアレイシアは淑女である。

嫌な顔一つせずニッコリ笑うと持ってきたお菓子をグレッグの前に差し出す。


「これは本当はいつもお世話になっているギルド長にと思ってもってきたものですが、ギルド長には後日ということで今日お手合わせをしていただいたグレッグさんにお礼に食べていただけると嬉しいのですが」


甘い香りが周囲に漂う。


差し出された苺のショートケーキを無言で見つめるグレッグ。


「これはなんだ」


「お菓子でございます」


「初めて見る」


「お口にあわなければお残しになられても結構ですから、一口でも食べてみてください」


グレッグは薄汚れた自分の手を見る。


「失礼しました、フォークを出し忘れました」


アレイシアは慌ててケーキを入れていた箱からフォークを取り出し渡す。


「気にするな」


汚れきった自分には綺麗なフォークは似合わないと手掴みでケーキを持ち上げ口に運ぶ。


一口、二口、グレッグにとっては小さなケーキ。


ずっと質素な生活をしてきたグレッグにとってはその甘さが体中に染み渡った。


あっという間に汚れた手からケーキは無くなった。


じっと手を見るグレッグ。


「お口に合いましたでしょうかグレッグさん」


「・・・」


グレッグは最後に祝福を与えた村の結婚式で食べた祝のお菓子を思い出した。


「とても美味しかった」


「そうですか」


「また食べることが出来るだろうか」


「はい」


アレイシアをしばらく見つめたあと、いつかまた祝福の奇跡を感じながらお菓子を食べられるのだろうかと俯きながら思うグレッグ。


ギルド長はそんな二人を食堂の入り口からそっと覗く。


『猟犬でも泣くことはあるんだな』


アレイシアとグレッグが気になり食堂に入ろうとする冒険者たちを追い払うギルド長。


「今日は食堂は休みだ。飲みたいやつは俺についてこい、一杯おごってやる」













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