過ぎた欲望は外道への第一歩
本郷の野望は潰えた。
アレイシア的に言う邪な気持ちに感づかれる前に潰えた。
文化祭が終わって数日後の夜、アレイシア(本郷)はメイドのサラの部屋を訪問した。
歌や踊りをみんなの前で可愛い服を着て披露すれば人気者になってファッションリーダーとなり、いずれ芸能事務所を立ち上げ多くのアイドルやミュージシャンを育て上げその力でこの国の演劇や歌劇を手中に収めガッポガッポお金を儲けてみたくはないかと説得する。
夢を語りビジョンを提示しロードマップを説明したうえでサラの容姿から声、爪先から天辺まで褒め上げる。
本郷が甘味処『子猫のしっぽ』で落ちこむ女性従業員に元気を回復してもらう為に若頭の奥さん(養母であり姉さん)であるバイトリーダーから伝授されたテクニックである。
本郷は思い出す。
それを会得するのに3年。女性に対する言葉使いから発音の仕方、何かの悩みを抱えていると聞き及んだ従業員もしくは悩みを相談してきた従業員には個々人に合った将来のビジョンの提示、抱えている問題を上手く表現できない女性にポイントを整理し問題点をはっきり認識させ解決法を一緒に探す。
相談ごとは仕事が終わってから会って話をするので服装などもチェック。
服のことはよくわからないが似合っているかどうか位は分かるので似合っていないなーと思えばファッションセンスのある女性にコッソリ相談。
相談相手をそれとなく誘導し教えられた服飾店に行き紹介者の名前を告げたあと店員さんにコーディネートしてもらい自腹でプレゼント。
服を変えると気分も変わる。
もちろんこの事は秘密ということを約束させた。
本郷は従業員同士のトラブルは徹底的に気を使った。
どんな些細な事も見逃さないし、姉さんという相談相手もいる上に従業員から出入りの業者とのコミュニケーションを密にした。
人間関係が良ければ大概の事は乗り越えられる。
従業員同士の諍いがあれば姉さんから詳細を聞きローテーションを組み替えたり個別に話あったり本郷立ち会いの元でお互いの言い分を聞き、和解もしくは妥協点を探る。
そのために居酒屋、カラオケ、ショットバー、オカマバーから始まりボーリング大会やプロレス観戦、原宿や青山のウィンドウショッピングの付き合いまでこなした。
特に表参道や裏原宿では可愛い娘さんに囲まれる極道お父さんと思われていたらしく、同じ店に行くと『可愛らしい娘さん多くて大変ですね、お父さん』と言われたときは泣きたくなった。
気がつけば休憩所で『お父さん』と言われるようになってしまった。
だから店の女の子に『お兄ちゃんっていっていいですか』と言われたときは本当に嬉しかった。
色々あって色々したが、すべてはみんなに気持ち良く働いてもらうことで店を盛り立てていく方針を貫く本郷の意志がそうさせた。
みんなのおかげで支店も数ヶ所出せるようになった。
増えていく従業員との付き合いは全て自腹であったがそれ以上に給料もボーナスも上がっていった。
そっと見てくれている人がいたのもあったんだと思っている本郷。
苦節3年、若頭から組に戻ってくる気があるならいつでも若衆を任せられると言われた。
本郷は今のままではいられないのかなと思った。
若頭はニヤリと笑って、お前の好きにしろと言った。
そんな事を思いながらもサラを説得する本郷。
サラは本郷からすると岩のようにコチコチの伝統的なメイドであった。
躾に厳しいと言われる男爵家の長女。
財政的に厳しい家の為に進んでここにメイドとして働きに来た女性である。
覚悟を決めて来た伯爵家であったが、働く環境は自分の家で過ごすより快適で人間関係も良かった。
伯爵自体が、自分が気持ち良く過ごすには使用人も気持ち良く過ごすべきだと執事を通して使用人たちに色々気を使っている。
伯爵がときおり柱の陰から心配そうに使用人の様子を覗いているのはメイド全員知っている。
苦労人というか苦労性である。
同じ年のアレイシアや弟のルークも時折騒ぎは起こすがとても楽しく優しい。
なんの不満もないサラ。
そんなメイドのサラは人気者になる気も無いし歌も踊りも特に興味がなく、アレイシア用に作った可愛い服を見せると『お嬢様はいい加減にドレスを普段から着こなすべきです』と逆に令嬢としての立ち居振る舞いを懇々と説いてくる。
説教されていくうちに自分がいかに令嬢、いや淑女として道を外れているか気づくアレイシア(本郷)。
『外道になっちゃいけないよ』
姉さんのことばを思い出した本郷は反省した。
サラはメイドの道を極めるメイド極道だと感慨に耽る本郷であった。




