新たなる野望 六歩目
マリアンヌが法廷の中央にミューズを抱いて立っている。
もう、開廷してから2時間。
だが、誰も帰らない。
最初はアレイシア側に有利な雰囲気であった。
お菓子を食べ、紅茶を飲みながら所有権者が名付け親になるのが当たり前だという気持ちが法廷を支配する。
裁判官の心象を少しでも引き寄せる要素としての傍聴人。
だがミューズが女の子とルークが口にすると一気に流れが変わった。
『流石に女の子にゴクウと言うのは可哀想だ。ゴクウという名の意味は知らないが女の子に付けるにはちょっとね~』
当たり前である。
妥協点としてもうすこし可愛らしい名前をとゴルドもアレイシアに提案したが突っぱねるアレイシア。
本郷もそうだがアレイシアも名付けのセンスが人とは違うのだ。
本郷はネタに走りがちであるしアレイシアはカッコいい名前が好きなのだ。
もし本郷が魔犬(女の子)にユミ坂本と名付けなければアレイシアは雷電と付けたかったのだ。
問題は二人とも善意だということと、魔物自体付けられたら名前の意味を推し量ることはしないというかできないのだ。
だからどちらも引くことはなかった。
ただ社会の慣例に従う善意の第三者から見ればレイアに傾く。
粘れば勝てるとルークは確信し相手の言葉尻を捉え、多様な見方で翻弄し、同情を誘いじりじりと流れを引き寄せてきた。
まさかその努力が一気に無に帰すとは思わなかった。
アレイシアは昨日から手を打っていた。
簡易法廷をひとつの娯楽として友人知人に知らしめ、お菓子を用意しみんなを引きつける。
流れを引き寄せ一気に結審させる短期決戦。
それでも上手くいかない時の為に、アンドリューを誘い込みここへ来させお守りついでに来たフェリックス第二王子に事態が膠着したときの方策を予め吹き込む。
昼食が振る舞われるという情報は最初からみんなに伝えてあるので、空気は読めないが気の良いフェリックス第二王子が動かない訳がない。
自分の甘さに苦悩するルーク。
マリアンヌに向かいかわりばんこに魔猿に声をかける。
魔猿は迷いながらもアレイシアのもとへ行った。
がっくりとひざを折るレイア。
「異議あり!」
ルークは声を張り上げた。
「ルーク、もう決着はついたのよ。見苦しい真似はお止めなさい」
「裁判官様、いいでしょうか」
「ルーク君・・・わかった最後に一言どうぞ」
「姉は先ほど何度もユミ坂本と疾風にミューズの前で吉備団子を与えていました」
「それが問題有るのかしらルーク」
「姉に吉備団子で釣られたと言えます」
「あらあら、言い掛かりよルーク。じゃあ、これをゴクウに渡してみてごらんなさい」
ルークはアレイシアから吉備団子を受け取るとミューズの前に置く。
ミューズは吉備団子に見向きもしない。
ルークは吉備団子を千切って口にする。
「レイアさんミューズは何が好きなの」
「甘いバナナ(本郷)が大好きです」
ニヤリと笑うルーク。
このへん顔もよく似ている姉弟である。
ルークはつかつかと姉に近寄り鼻を近づける。
「甘くていい匂いだ姉さん、昨日からお菓子作りしていたもんね」
ゴルドがもう一度やり直しを命じる。
風下に立つアレイシアにミューズが行くことはなかった。
「これにてこの一件は落着と言う事とします」
風が強く吹いてピンクの小さな花びらが舞っていった。




