自分、不器用ですからという言い訳
アレイシアは正真正銘のお嬢様である。
そのお嬢様を調理場で発見したメイド長がリンゼイを叱りつけようとしたがリンゼイの前に立つアレイシアがそれを制する。
「ミランダ、これは私がリンゼイに無理を言ってお願いしたことです。ミランダの立場も分かりますが叱るなら私だけにしてください」
アレイシアの毅然とした態度に驚くメイド長のミランダ。
「ですがこの事が奥様に知れると・・・」
「ミランダ、下がりなさい」
両手を広げるアレイシア(本郷)の前に母であるマリアンヌが現れる。
「甘い香りがすると思って来てみれば、何を騒がしい」
「お母様・・・」
その場の全員がかしずく。
「説明してちょうだいアレイシア、出来るわね」
有無をいわさぬ気迫がアレイシアを覆う。
『お嬢、ここは俺に』
『大丈夫です、本郷さん』
アレイシアは出来立てのパンケーキが乗った皿を自ら手に持ちマリアンヌの目の前に差し出す。
「私が思いついてリンゼイに作って貰いました。何分と初めて作るものですのでこうやって調理場に足を運ばざるを得ませんでした。
試食は済ませており味は保証致します。
甘いモノは疲れを取ってくれると聞き、忙しいお母様に食べて頂こうと作りました」
『美味かったみたいで良かったな、お嬢』
アレイシアの前で夢心地な母が紅茶を口にする。
「とても美味しかったですよアレイシア、でも調理場に行くのでしたら母である私に一言告げてほしいものです」
「申し訳ありません、お母様」
マリアンヌはニッコリ笑うとうつむくアレイシアをそっと抱き寄せ頭を撫でる。
「調理場には危ない物がいっぱいあるの、私の大切な娘が傷ついたら悲しいです」
「はい、今後は気をつけます」
「分かってくれて嬉しいわアレイシア。でもこんな美味しいものをいつ思いついたのですか」
戸惑うアレイシア。お菓子極道の本郷が頭の中で教えてくれたなどと言ったら母の心配が増すばかりである。
「白くて甘いものは乳を冷やして飲もうと思って冷却魔法で冷やしていましたら表面に・・・」
もう必死に思いついた適当なことを口走るアレイシア。
本郷も言い訳など言えない男である。そんな男がよくもここは俺になどと言えたものである。
『ごめんお嬢、俺って不器用なんだわ』
『気にしないで下さい本郷さん。本郷さんがお菓子極道として道を極めていただけるだけで私は嬉しゅうございます』
ああ、アレイシアは優しいお嬢だなーと感じ入る本郷であった。