新たなる野望 闇を覗く男と青春を奪われた少年
遊び人とは言うものの遊んでばかりいたら生きていけない。
バックボーンというものがあるから遊べるのである。
代々の資産家であったり、投資で一発当てたり、労働者を安くこき使って上がりをくすねたり、割がいい職業についていたり、犯罪に手を染めていかがわしい金を溜め込んでいたり等々である。
そういうものが無いのに遊んでいたら身の破滅なのは自明の理。
あとは遊び人風を装う必要がある人、もしくは金を使わなくても遊べる人。
王都下町の遊び人ゴルドは金を使わなくても遊べる男である。
仕事は法務に携わる文官、具体的には判事。
貴族と平民全てのゴタゴタを審議する高等裁判所の裁判官である。
だがそれを知る者は少ない。
知っているのは学生時代の友人だけだ。
この国の判事はカツラに付け髭、結審の言い渡しは補佐人が行うからだ。
であるので本人が遊び人を自称しているので皆、どこかのボンボンなのだと思っている。
ゴルドは色男である。
ちょっと流し目をするだけで全ての女性が真っ赤に顔色を変える。
しかも頭が回るので緒ちょいと相談事を解決してしまうものだから頼られる。
またその礼さえ気にするなと断る。
誰にもつかず誰も見捨てない粋な遊び人。
飲み食いは全て自腹、たまに奢っても常識的な範囲。
見目もよく頼りになり会話も粋なゴルドが女性や一部男性にもてない訳がない。
だが、35歳過ぎの独身である。
裁判官として社会の闇を見続けてきてしまった結果であった。
「アッハッハッハ、いいねーそういう争いなら是非引き受けさせてくれ」
アレックス・マーベリック伯爵邸に友として遊びに来たゴルドは腹を抱えて笑いながら裁判を引き受けた。
このところ深刻な事件や遺産相続が原因の骨肉の争いばかり扱っていたので気晴らしに引き受けた。
ここはアレックス・マーベリック伯爵邸の庭。
猿(魔物)の名前を決める権利を巡って裁判が開かれようとしている。
休日で有るにも関わらず親族一堂、殆どの使用人と護衛騎士(ローテーションで勤務する人は除く)、ご近所の皆様(主に奥様方と子ども達、旦那どもは休みの日くらいと言って寝ている)が傍聴人となりごった返している。
アレックス・マーベリック伯爵邸は貴族、平民問わず時折みんなでお弁当を持ち寄って小さなパーティーを開く。
アレイシアが新作のお菓子を御披露目し皆に試食してもらい、いつか開く店の参考にと招いているからだ。
傍聴人全てにアレイシアのお菓子が振る舞われみんな美味しそうに頬張っている。
「もう闘いは始まっているんだ。レイアさん、分かるよね」
レイアの代理人弁護士として立ったルークは傍聴人席を見回す。
流れを引き寄せる為の工作。
『どんな汚い手を使われようと僕はもう負けないよ姉さん!』
王立指圧学院の校長として働き、また普通の学生として学ぶルークに今もそして今後も青春というものは無いかもしれない。
それでも何とかこなしてきたし、何とかこなせると思っている。
最近はこれはこれでよい経験だと思うようになってきているルーク。
目の前にアレイシアと代理人弁護士のマクシミリアンを確認するとレイアに向かってにっこり笑ってみせる。
地獄から這い上がって来た少年が今、姉という巨大な壁に立ち向かう。




